第26話 打ち上げ



――ライブという一夜の祭りが終わる。私、有馬鳴々は御門と水戸の三人で、近場のファミレスでちょっとした打ち上げ兼反省会を行っていた。


「おつかれー」


御門の言葉に私達ふたりも続き「「おつかれー」」とドリンクを掲げる。


「いやあ、すんごい盛り上がったなぁ!歴代でも一、二の盛り上がりやったんやない?」

「確かにな。【Arc Light】は客の入も良いし、ハコ自体も大きいからな......まあ、一番盛り上がったのは言うまでもなくあいつらだったが」

「あー、せやなぁ。観客の歓声が凄まじくて苦情くるかとおもたわ〜。あはは」


御門がいうあいつらとは、【Re★Game】の事だろう。


「で、どうだった?有馬」


彼は私にポテトを向け聞いてきた。行儀悪いなこいつ。


「どうもこうも、総合的にはRe★Gameのが上でしょ」

「ギターの黄瀬先輩、ヤバかったなぁ!あんな弾ける人とは知らへんかったわ!」

「だな。まさかあのレベルだとは思わなかった。高校生であの実力......有馬以外にあんなのがいたなんてな」

「それで、どーやった?勝負は」


「......個人的には負けてはいないと思うけど」


御門は頷く。


「そうだな。ギターの技術だけでいえば有馬のが僅かに勝っていると俺も思う。だが」

「わかってる。Re★Gameのバンドに限ってだと私は勝てない。......私がギターとしてあのバンドに入っても、多分黄瀬先輩みたいにはやれないからね」


あの人はただ上手いだけじゃない。周囲に合わせる力がずば抜けてる。雰囲気をつくり、呼吸を合わせる能力。演奏も上手いが、特筆すべきはそれ以外の力。その能力が物凄く高い。


「さすが有馬。わかってんな」

「どゆこと?うちにもわかるよーに説明してや」


クリームパスタのソースを口につけた間抜け(水戸)が首をかしげ聞いてくる。

それに対して御門が、くちくちと口に指差し汚れてるのを教えながら説明する。


「単純な話さ。ただ上手いやつを集めただけじゃ良い演奏はできない。あのRe★Gameというバンドはあのメンバーだからあそこまでの実力を発揮できてるってことで。......要は黄瀬がその中核を担っていて、それは有馬には出来ないって事さ」


「ほほー......まあ、確かに相性みたいなもんあるよなぁ。鳴々は例えRe★Gameじゃなくても、他のバンドじゃ上手くいく気せえへんしなぁ。人付き合い不器用すぎて。あはっ」


にやりと笑う水戸。なんだコイツ......とはいえない。だってそれは確かにその通りなのだから。

こんな刺々しい性格の私を仲間にしてくれたのはこの二人だけだ。御門と水戸には常に感謝してる。


(まあ、今の言い方はムカつくけど)


睨みつけるが水戸はいつもの事とにやにや笑う。


「......でも、逆にあのバンドは一人がかけるとヤバそうだよな」

「確かに」


Re★Gameは総合力でいえばプロと遜色無い。カリスマ性、ライブでの映え方、生演奏のクオリティの高さを考えればかなりの位置にいる。


しかし、彼らのバンドにはどこか危うさが垣間見える。高く積み上がった積み木が揺れながらも、そびえ立っているような印象。


中核を担っているのは、あのバンドの空気感からも黄瀬先輩だと言うことはわかる。でも、一番の核であり要は......。


「青山、諦められたか?」


「え?」


御門が私に問いかけた。私は不思議に思う。


「あのライブを観て、彼を諦められるわけ無いでしょ?」

「やんなぁ。圧巻のボーカルやったしな」


青山が来たらうちのバンドのレベルは確実に上がる。その理由としては私がボーカルから開放され、ギターだけに集中できる事。そして、青山の歌唱力が加わる事があげられる。


(そして、もう一つ)


「?、ジッと見つめてどしたん?」

「......何でもない。水戸、まだクリームついてる」

「えへえ!?まだ!?」


「しかし、青山が欲しいとは言うものの、引き抜くのは難しそうだが」

「せやなぁ。あちらさんのバンド、めっちゃ仲良しやったし」


「大丈夫。私に......考えがある」



――



俺たち、【Re★Game】は今、居酒屋で打ち上げを行っていた。勿論、まだ未成年である我々なので保護者代わりであり監督責任者として紫堂先生をお招き致しておるわけですが、打ち上げ開始五分と待たず、めちゃくちゃ酒を飲んでいてべろんべろんで目が座っております。


ちなみに「良いもん見れた」との事で、打ち上げ費用は先生が全て持ってくれるそうだ。さすが!愛してるぜ先生!ありがとう!いくらでも(先生の金だし)飲んでくれ!!


「ところで本当に生徒でも無い私達もご馳走になっていいのでしょうか......」


生徒でも無い私達、というのはrayさんuka、kurokoの事だろう。先生含め全員で六人。いざかやでの食事となればそれなりに金もかかるだろう。

心配したrayさんは先生に改めて聞く、べろんべろんの先生はご機嫌な笑顔で答えた。


「大丈夫!気にしないで沢山食べて。これは先行投資だからね」


でたー!先生の先行投資!


「先行投資ですか?」

「そう。私はね、今日の君等の演奏を観て確信したんだ。このバンドは必ず伸びるって。だから今のうちに目を掛けておく。みんな沢山食べて楽しんでくれ!私勝手に呑んだくれてるから」


『「「「ありがとうございます!」」」(._.)』


そうしてべろんべろんの紫堂先生は自身と同じベーシストのkurokoに興味があるらしく、話しかけていた。最初筆談形式の会話に戸惑いを見せていた先生だが、すぐに慣れ楽しそうに談笑している。

陽向もそこに加わり、作曲編曲などの話題で盛り上がっていた。


テーブルを挟みその向かいに俺、uka、rayさんが座っている。ukaは向かいの三人の話題に加わり楽しそうにしていた。


そんな最中、rayさんがちょんちょんと人差し指で俺の二の腕をつつき話しかけてくる。


「オリ曲、ライブでもちゃんと演奏できて良かたですね」

「だね。ごめん、ギリギリまで歌詞思いつかなくて」

「謝らなくても大丈夫ですよ。aoさんが頑張って書いてくれたから、kurokoの曲が更に素敵な曲になりました」

「そう。なら良かったけど......今度から余裕をもってかけるようにしないと。ほら、ギリギリになっちゃったから編曲大変だったし」


曲覚えるのは皆一度やっただけで大体すぐに出来てたから問題なかったけど。

いや、冷静に考えてヤバいよなこれ。だってまともに合わせたのって二日くらいしかなかったのに、ライブ本番でこの完成度だろ。皆ちょっと化物過ぎないか......。


そんな化物スキルのrayさんが「ふふっ」と微笑んだ。


「?、どうかした?」

「いえ、私にもそういうときありましたよ。なので自分をみているようで、ちょっと笑ってしまいました」

「rayさんでも悩んだりするんだ」

「え、どーいう意味ですか!」

「いや、勝手なイメージだけどrayさんってなんでも卒なくこなす人に見えてたから」


なにせrayさんは国内でも有数のお嬢様学校、歌仙女学院高等部に通っている才女だからな。はじめて聞いた時はかなりビビった。

ちなみにukaも同じで星海学園高等学校という、有名お嬢様学校に通っている。


まあ、なにが言いたいかというと、俺はrayさんの事を見た目良し中身良しの完璧超人に見ていたということだ。


rayさんが悪戯な笑みを浮かべ唇を尖らせた。


「......そんなことないもん。私、結構ドジでポンコツですよ?」

「ええ」

「まあ、流石に携帯と財布忘れてお出かけはしませんが」


彼女はくすくすと笑う。ぐぬぬ。


「そのネタめちゃくちゃ擦りおってからに......!」

「えへへ、大切な思い出でもあるので」

「え?」

「初めてあったのがあの時でしたからね。大切な記憶です」


うーむ。それを言われたら何とも言えなくなるな。


「と、話がそれてしまいました。そーそー、私もね、作詞ではないんですが作曲の時は結構ギリギリまで悩むこと多いんですよ」


カラン、と彼女の傾けたグラスの氷が鳴る。


「そういうときって、なーんにもぜーんぜん思いつかなくて......苦しくて苦しくて、逃げ出したくなるくらい苦しくて。でも、そこで出てくる気持ちや想いって、なんだか剥き出しの自分って感じしませんか?本性というんですかね?」


「あー、確かに」


確かにわかる気がする。今回、悩み続けて苦しくて、逃げようとまではならなかったけど、最後に絞り出した答えが苦し紛れの詞になった。


「そういう風に作られた曲や詞には心や魂、執念が宿ると私は思っています。そしてそれは人の心を揺さぶる言霊になる......今回書かれたあなたの詞には、あなたの苦しみや喜びがありました。とても良いと私は思いましたよ。心が揺さぶられました」


にこりと微笑むrayさん。ドストレートに褒められるとこう、どうして良いかわからんくなるくない?


「お?照れてますの?」


逆隣に座るukaがにやにやと顔を覗いてくる。


「うっせ」

「――もがっ!?」


ムカついたから口にフランクフルトを突っ込んでやった。



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