第28話 連絡先
――それはLIVEから二週間が経ち、学校へ行った時だった。
「青山」
「あ、おはようございます紫堂先生」
「ああ、おはよう」
「この間いただいた曲、【Pride(仮)】めちゃくちゃカッコよかったです!疾走感があって、それでいて重々しい感じがドンピシャで好みでした!」
「おお、それは良かった......って、その事で少し話がある」
「話?なんですか」
「とりあえず教室行こうか」
いつもの空き教室へとたどり着き、先生はどこか深刻そうな表情で俺を見る。
「お前達、バンドでYooTubeチャンネル開設してる?」
「してますよ。あ、すみません、先生に教えて無かった......えーと」
自分の携帯を出し、YooTubeのアプリを起動。自分らのバンド【Re★Game】のチャンネルへと飛ぶ。
登録者数2846。上げている動画やライブのアーカイブがない中、【Arc Light】での噂が広がりこの登録者数になっていた。
早く何かしらアップせねばと皆で相談しているが、中々レコーディングもできずここまでこんな感じで来てしまった。
「先生、これです。URL送りますね」
俺が見せたその画面を見て複雑そうな顔をしている先生。
「......どうかしました?」
「やっぱり、か」
「やっぱり?何がですか」
「これを見ろ」
先生が携帯を俺に見せた。
「......これは」
そこには、二人の男女が描かれていた。女子大学生らしき人が男子高校生と対面し顔を赤らめていて、甘酸っぱい恋愛模様が繰り広げられている。そう、いわゆる女性向けWeb漫画のワンシーンが表示されていた。
(......?)
「これが?」
俺は先生に聞くと、「あ」と言い携帯を操作。再び携帯の画面をみせてくる。
(いや間違ったんかい......先生、ああいうの好きなんだ。顔赤くなっとるし)
妙に温かな気持ちになりつつ、再び先生の携帯を見る。すると今度はYooTubeのチャンネルが表示されていた。チャンネル名は【Re★Game(公式)】と書かれていた。
「あれ?また新しくチャンネル作ったのかな?って、ええっ!?登録者30000人!?」
すげえ、動画もアーカイブもなにも無いチャンネルで三万はヤバいだろ。
そう思い、ふと気がつく。あれ?何かが投稿されてる。
「これ、見ていいですか?」
「ああ」
投稿されていた動画をタップすると、あの日【Arc Light】で行ったライブが流れ出した。
「......え?」
俺は思わず呆けてしまう。二つ、俺の頭には疑問が浮上する。
あの日のライブはウチのバンドでも録画はしている。しかし、投稿しようとはならなかった。その理由は色々あるけど、ともかく投稿はしないという事が決まっていた。なのに何故?という疑問。
そして、もう一つ。バンドでの録画映像を皆で観たことがあるのだが、このチャンネルにアップされているものでは無い事。
「......これ、携帯で撮ってる」
「そうだな。......やはり、青山にも覚えはないか?」
「無いですね。これ、多分お客さんが撮ってますよね。音の悪さといい映し方の雑さといい、運営で撮ったものじゃない」
「では、誰かが勝手にお前達の名を語っている、ということだな」
「......マジでか」
一体誰が?なぜ?訳が分からない。
「とりあえず、陽向に聞いてみて良いですか?」
「ああ。早めに確認はした方が良い」
――キーンコーンカーンコーン
「「あ」」
丁度始業開始の鐘が鳴ってしまう。
「とりあえず、気になるとは思うが授業しようか」
「わかりました」
ウチのバンド内であんなことをやる人間はいない。となると外部の犯行......そして、あのライブに来ていた人間の中にいる。
(一体誰が......なんのために)
「先生」
「んー?」
「今回のこれが、うちのバンド以外の誰かがやっているとして......何が目的だと思いますか」
「んー、わからんなぁ。まあ、パッと思いつくのは広告をつけて得られる収益.....つまり金。もしくは人気バンドになりすまして自己の承認欲求をみたすという目的かな」
「三万人じゃ収益という線は薄いか......じゃあ承認欲求ですかね」
先生と目が合う。すると先生はぽかんとしていた。
「?、どうしました?」
「あ、いや......あー、そうか。まあ、お前もう三十万人近いもんな、aoのチャンネル。そりゃ三十万円は少なく感じるか。先生、ちょっと言ってて教え子の金銭感覚に怖くなってるけど」
「三十万円.....?俺の登録者数だと三十万円くらい貰えるって事ですか?」
「は?」
「「......」」
見つめ合う俺と先生。なんだこの空気は。
「お前、チャンネルの収益はどうしてるの?」
「どうしてるって、口座に入ってますけど」
「金額とか確認してない感じ?」
そういやあんまり気にしてなかったな。まあ、いま先生の言った三十万円くらいだろうけど。
「確認はしてませんけど.......え?三十万くらいじゃないんですか?」
「な、わけあるかい!三十万円は登録者数三万人で得られる収益の目安だよ!お前だと単純計算で三百万円は越えてるだろ!」
「ええーっ!?」
ビビる俺。しかし、ここでふと思い当たる。
(あ、いや......違う。確かにそれくらい収益は発生しているのかもしれないけど)
「いや、先生。俺のチャンネルはほとんど著作権が俺にない歌ってみただから......俺にはほとんどお金は入ってないと思う」
「!、あー......なるほど、そうか」
入っても生配信でのスパチャとかそのアーカイブの再生数での収益くらいか。父さんに収益化の手続き手伝って貰ってそれ以降あんま確認してないけど。
でもよくよく考えたらスパチャ結構投げてくれる人多いからそこそこ入ってるのかもな。
「でもまあ、それなら......」
「?、それなら?」
「あ、いえ。とりあえず今慌てても仕方ないと思って。一度偽Re★Gameは置いておきましょう。先生、脱線してスミマセン。授業お願いします」
「え?あ、ああ、わかった」
――
放課後、トイレへ立ち寄った際。
(うーん、未だに女子トイレは慣れないな......ってええっ!!?)
手を洗っていると背後に人影が見え、俺は思わず驚いて体を震わす。
「......こんにちは」
「お、おお、有馬」
そこに居たのはこの学校の軽音部であり【Rainy Planet】の有馬鳴々だった。
金髪のボブカット、前髪が切り揃えられた可愛らしいダウナー女子。しかし、そのやる気のなさそうな表情からは予想もできない凄腕のギタリスト。
彼女はジッとこちらを睨みつける。これはけっして怒っているとか、機嫌が悪いとかじゃなくて目が悪すぎてこうなっている。いや眼鏡買えば??
有馬が話しかけてくる。
「この間はライブお疲れ様」
「あ、うん。結構経ったけど......お疲れ様」
「ずっと軽音部こないから会うことも無かったし。たまには顔出してよ」
「いや、そんなこと言ったって......そもそも俺は軽音部じゃないし」
「え、そうなの?」
「そうだよ」
「......軽音部、入らない?」
「メリットがないからな。それに顔合わせたくない奴もいるし。つーか、その話は前にも言ったよな?」
馬草とそのつるんでいる二人。平田と田代。それと部長か。部長は違う意味でかかわるとヤバそうだし。そもそもあの場所に自体もう行きたくない。
有馬は俺の言っている意味を理解したらしく、黙り込む。
「教室......」
「ん?」
「そろそろ普通に教室で授業受けたら?」
「......まあ、いずれそうしようとは思っているが」
歯切れの悪い返答。有馬は不思議そうに首を傾げる。
「いるが、なに?」
「俺、浮くだろ。ちょっとそういうのが苦手というか怖い」
トラウマ。深く刻まれた記憶。異物として存在する俺と、それ以外の人間。あの疎外感は思い出しただけで震えがくる。
(......って、年下の子に何言ってんだ俺は)
恥ずかしさが込み上げてくる。が、しかし彼女はこう言った。
「それは大丈夫だよ」
「......なんで?」
「浮いてるのは、あなただけじゃない。私も」
ニコッと微笑み、さらりと悲しい事実を語る有馬。なんでそんなドヤ顔なんだよ。
なんも言えねー状態の俺に彼女は話しを続ける。
「それに水戸もいるし。私と水戸と青山は同じクラスだからなんとかなる。来なよ」
「......まだ難しい」
「そっか。まあ、いいや......携帯だして」
「?」
「連絡先、交換しよーよ」
突然の事に思わず、えっ?という表情になった俺。
「嫌なの?」
「嫌じゃないが」
彼女はその瞬間ムッ、とする。それは目の悪さ故のしかめっ面ではなく感情の揺れによるものだとわかった。
「ハッキリして。「が」ってなに「が」って。良いの?駄目なの?.....私、もしかして嫌われてる?」
「いやいやいや、嫌いじゃない。ただ、唐突だったから。ごめん」
「あ、そっか」
ぽんとて手を叩く。
「じゃ、携帯だして」
「はい」
......前から思ってたけど、有馬って妹に似てる気がする。
「これでオッケー。じゃ、こんど遊び誘うから行こうね」
「ああ、うん」
......。
「ん?」
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