第21話 待ち伏せ



kurokoの家へ行ってから数日が経った。ライブまで残り一週間。

歌詞は未だに書けていない。当然のことながら次のライブでのお披露目はできなさそうだ。......いや元々カバー曲で統一しようって話だったけどね。


(......しかし、難しいのはわかっていたけどここまで書けないものなのか)


まず題材が思い浮かばない。ヒットさせると考えるなら、明るい......希望的な詞が良いだろう。

そうなってくると陽向が考えた方がいい気がするな。陽キャギャルならぽんぽんそういうワード思いつきそうだし。


「あの、青山くん。先生の話つまらない?」


はっ、と現実に引き戻される。顔を上げるとそこには至近距離の紫堂の顔が。うお、マジで美人!なんで彼氏いないのか不思議!


「あのさぁ、青山くん。せっかくお昼休みつかってるんだからちゃんと聞いて?」

「ご、ごめんなさい......てか、近いです先生」

「おっとこりゃ失礼」


俺は今、学校の空き教室にいる。他の生徒とは別にここで特別授業を受け、お昼休みの今先生に以前教えてもらうと約束した作曲の練習を先生のノートPCで行っていた。


しかし悲しいかな俺の頭はこの作業を拒否しているのか、やろうとしても思考が鈍り集中力が散漫になる。


(......曲つくるのって難しいな)


って、あれ?詞も書けない、作曲もできないって.....なんもできねーじゃねーか!!俺!!


「あのさぁ、青山くんもしかして曲作るの興味ない?」

「え?」


「だってさっきから全然楽しそうじゃないし」

「......いや、どうでしょう」


楽しい、か。正直いって良くわからない。ただ、今は稼ぐために勉強しないとと思って......だから、頑張って売れるレベルの曲を早く作らないとって。


その時、ふと思った。


俺の曲作りの動機って......全部、金の為だ。


(そりゃ、つくれないわけだ)


多分、これで出来たとしても駄作になる。


「焦ってるのか、青山くん」

「......まあ、はい」

「そうか。ではおしまいだね」


おしまいだね。そりゃ見切りをつけられて当然だ。先生は決して暇じゃない。空いた時間を切り詰めて俺にこうして教えてくれていたんだ。

今の俺は誰がどうみても教える価値はない。


「すみませんでした」

「うん。いいよ」


先生はPCの電源を落とした。


誰かの期待を裏切るのはこれで何度目だろう。その問がふいに思い浮かんだ。

俺は、不登校になり陽向とのバンドを一度不意にしている。その他にも......何度も色んな人の期待を裏切ってきた。


「青山くん、どうした!?なにその死にそうな顔!?」

「いや、何にもできないやつだなと、自己嫌悪を......」


「いやなんにもできないはないだろ。実際おまえYooTubeの登録者29万人いる歌い手だし。なんで急にネガってるんだよ」

「それは人の歌だから」

「お前に魅力がないならそんな数にはならないって。どーしたのよ。何をそんなに焦ってるんだ?婚期が迫りつつある私よりも焦りやがって!」


(......焦ってたんだ)


「いや、俺は......稼がないと」

「なんで?」

「親孝行して、自立しないと。今まで不登校で.....しかも留年までして。頑張らないとダメだから......早く稼がないと。俺には歌しか無いから」


先生は「あー、なるほど」と頷いた。


「だからそんなに必死だったのか」

「必死?」

「顔に出てたよ。思い詰めた人間の表情がね」


俺は自分の顔を触れた。


「まあ、確かになぁ。おまえの焦りは理解できるし、早く稼がないとって思いもわかる。けど、今のお前じゃ難しいぞ」

「......そりゃ、まあ。自分でも自覚してますけど」


「なにが原因かも理解してるか?」

「欲深い人間性」

「えぇ......んな、根源的な」


「違うんですか」

「違うだろ。極端すぎるわ。お前が上手くいってない理由はな、お前が曲作りを楽しめてないからだよ」


「楽しめてないから」


「そうさ。人は楽しいから好きになる。好きになるから上手くなろうとする。お前には上手くなるための「楽しい」という部分が抜けている......それでは好きにはなれないし上手くもならない」


先生の言う通りだ。俺は、歌うのが楽しくて、好きになって.......だから上手くなりたいと願った。

そして、気がついたら此処にいた。


「先生の言う通りです。確かに俺は歌をうたうように曲作りを楽しめてなかった。でも、これができなきゃ......」

「いや、今のお前はやるだけ無駄だ」


「じゃあどうすれば」

「曲は私が作ってやる」


......ん?


「なんて?」

「いや、だから曲は私が作ってやるって。それにお前が歌詞つけて投稿すれば良いよ。要するにお前に曲を提供してあげるって言ってるの」

「え、先生売れる曲作れるの」

「え、生意気、ってか失礼!」


しまったつい......!


「こうみえて二年前くらいにはちょっと有名なオカロPだったんだよ?ニヨニヨ動画に投稿したりして」


「オカロってあの、PCソフトでキャラクターが歌ってくれる」

「そそ。圧音ミツちゃんが大好きでね。たくさん曲作ってたよ」


圧音ミツちゃんとは。オカロのキャラクターで可愛らしいデザインのツインテールの女の子。青いイメージカラーが特徴。


「まあ、作った曲が気に入らなかったら使わなくてもいいさ。どうだい?」


微笑む先生。


「......なんで、先生はそこまでしてくれるんですか」


俺の質問に「はあ、やれやれ」みたいなジェスチャーをして答えた。


「前も言ったろう?これは先行投資だ」

「先行、投資......」


「お前は必ず凄い歌い手になる。今以上に、もっともっと凄い奴にな。だから今のうちに恩を売っとくんだよ」


にっと笑う。先生、俺が気を遣わないように......あえて貸しだと強調してるんだ。


「だから気にしなくていい」

「......恩を売るなら気にして貰ったほうが良くないですか」

「あ、そっか。やっぱ気にしといて」


ペロッと舌を出す先生。ふぅん。これが28歳かぁ......めっちゃ可愛いが?


その後、無事に1日の授業を終えた。それから帰宅しようとタイミングを見計らっていた俺だが、部活動をするのにそこらを歩く生徒が多く、廊下に出るに出られない状況に陥ってしまう。


(あ、そういや水戸が部室に顔出せって言ってたよな......どうしよう)


できることならあの場所には近づきたくはない。実際、思い浮かべるだけで恐怖心がこみ上げてくるし。

第一、部長と馬草が停学くらっていても他の人間はいるんだよな?


(行けないな。帰ろ)


扉をあけ、その隙間から顔を出し人気が無い事を確認する。


よし、今だ。


素早く教室から抜け出し、駆け足で玄関へ。


「......きた」「お、青山」「遅いやんかぁ、青山くん!」


するとそこには有馬、御門、水戸の三人が待ち構えていた。


なんでやねんっ!!



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