第20話 本音の在り処
胸が苦しくなり、俺は首を横に振る。
(......いや、違う。まだ......これは感覚としては義務感みたいなもので、借りを返しているだけ......その範疇だ)
大丈夫だ......まだ。引き返せる。適切な距離で。俺は皆とはずっと友達でいたいから。
『どうしたの?』
「あ、いや。なんでもない」
kurokoは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに微笑み頷いた。
『そっか。それじゃこっち来て』
右手にある戸を開け、その部屋に手招きするkuroko。
そちらに行くと部屋の中には様々な楽器が設置されていた。ベースは勿論、ギターやキーボード。それらがコードで繋がれている。
「ここ、作曲部屋?」
『そだよー。私のアトリエ(*´艸`*)』
デスクトップPC。kurokoは椅子に座り、隣に招く。もう一つ椅子を組み立て、俺にジェスチャーでそれに座ってと指し示した。
カタカタとキーボードを打ち、マウスを操作。すると画面にはいくつかのファイルがあらわれる。
『三つ作ってみた。聴いてみて(*´ω`*)』
ヘッドホンを手渡され装着。俺はファイルをクリックした。
すると流れ出す楽曲。ギター、ベース、ドラム、キーボード。様々な音が織りなすメロディ。
「これ、kurokoが演奏してるの?」
ベース以外にもkurokoはこんな上手く弾けるのか。すげえ、と驚き彼女をみるとキョトンとした表情で見返してきた。
ホワイトボードに文字を書き込み、そしてこちらにみせる。
『それは全部実際には引いて無くて、打ち込みだよ』
打ち込み?
『えっとね。これ、PCでDAWソフトって言うのを使って』
実演して見せるkuroko。
『これでドラムとかギターとか音がだせるの』
マウスを操作し打ち込まれた通りにギターの音が鳴る。
『こうやって色んな楽器の音を組み合わせてメロディを作るんだ。ちなみにマウスでやるのは時間かかるから、このキーボードを使います』
キーボードを鳴らすと、その音がドラムやギターに変わり入力されていく。すごい。
てか、そういえば父さんに買ってもらったキーボード開けてないな。
「すごいね。これなら楽器ができなくても曲がつくれるんだ」
『だよだよん。もしかしてaoも作曲興味あるの?』
「うん。いずれ自分でオリジナルを作りたいと思ってる」
おー、と口を丸くするkuroko。仕草が可愛いんだよな。どことなく猫っぽさを感じる。
「まあ、この通りPCで作曲できることも知らなかったレベルの超初心者だけどね......」
ピッ!と手を挙げるkuroko。
『ならさ、私が教えようか!』
「え?kurokoが?」
『不服かね、aoちゃん(๑òωó๑)』
「あ、いや......それは、申し訳ないっていうか」
ぽかん、とした表情。しかしすぐにクスクスと笑い出した。なんか面白かったか?
「え、kurokoなんで笑ってるの」
『だって、反応がさ』
「反応?」
『前にhinaちゃんとaoと三人で行ったファミレス。その時のhinaにそっくりだったんだもん』
あ、確かに。......水戸との。言われてみれば、あの時の陽向と同じだ。
『二人共そっくりだねえ(*´∀`)』
「あー、そうかな」
『そうだよ。優しいとことか、こうやって遠慮がちなとことか、気遣いさんなとことか』
「どうかな。陽向はそうかもしれないけど」
『へへ。照れてやがるぜ』
「照れてない!」
『それじゃ私が先生になると言うことで!こうみえて結構企業案件とかもこなしてるから腕はそこそこあるんだぜ?どやあ(*´∀`)』
「え、マジで?」
『マジでマジでー!』
やっぱりkurokoって凄いやつなんだな。いやバイトもせず音楽で生計立ててるんだからそりゃそういうレベルか。
しかし、そうなってくるとタダで教えて貰うのも気が引ける。
「なんか俺にできること無い?」
『ん?』
「教えてもらう代わりにさ。kurokoの時間を奪っちゃうわけだし」
『じゃ文化祭のライブが終わってもバンドにいてよ』
――交差する視線。
kurokoのジト目が僅かに鋭くなったような気がした。
ぐっ、そう来たか。予想はしてたが......でも、それは。
『なんちゃって!うっそー(๑´ڡ`๑)』
「え?」
『それは文化祭ライブが終わってaoの気持ちが動いたらって約束だもんね。冗談だよん』
「......驚かせないでよ」
kurokoってなんか飄々としてるよな。
『てかてか、来てもらって協力してくれてるからそれで良いよ。出来れば今後も来て欲しいけど』
「それは協力くらいするけど......それだけ?」
『うんにゃ。実はあともう一つお願いしたいことがあるんだよね(*´ω`*)』
「お願いしたいこと?なに?」
『オリジナル曲はaoに歌詞を書いて欲しい』
「歌詞......」
『書いたことある?』
「無いね」
『だよね。難しいと思うけど、これはaoが書いたほうが言いと思うんだ。その方が気持ちが乗ると思うし』
断る理由は無い。それこそ自分で曲をつくるとなれば、歌詞だって書かなければならない。これは練習になる。
「わかった。やるよ」
『ありがと。aoならやってくれると思った。それじゃあこの三曲から一つ選んで、歌詞を考えてみて』
「わかった」
『で、完成したら皆で聴いてブラッシュアップしよう(*´∀`)』
「うん」
『んじゃ、選んで!その後で作曲の仕方を教えるね』
「了解!よろしくお願いします」
『こちらこそ(*´ω`*)』
――それから四時間後。太陽が沈みかけ、kurokoはカーテンを閉める。
俺はと言うと、DAWを使う説明と練習で頭がショートしかけていた。
『あはは、あたまから煙でてるし!(*´∀`)』
「......ぐ、ぬぅ」
『今日だけじゃわからないと思うから、一応お家でも勉強できるように、初心者向けのやり方が乗ってるサイトとYooTubeチャンネルのURL送っとくね』
「ご丁寧に、ありがとう」
kuroko優しい。惚れちゃうわこれ。
『いえいえ。ごはん食べてくでしょ?』
「え、悪いよ」
『寂しいから食べてって』
彼女は悲しそうな表情で俺の服をつまみちょいと引っ張った。いや卑怯だろその顔は。
「あ、はい」
と、言わざる得ない。
『やったぜ!材料買っておいたんだよね〜(๑´ڡ`๑)』
「何作るの?」
『カレー』
「手伝う?」
『aoは練習ー!』
「あ、はい」
『んじゃ、出来るまで頑張っててー。あ、でも休憩もありだよ!無理に頑張っても忘れちゃうし!行ってきまーす(*´∀`)』
「りょうかい。行ってらっしゃーい」
......kurokoといるの楽しいな。
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