第19話 困難



☆ミ前回のあらすじ☆ミ


ファミレスで夕食を終え帰ってきた俺、青山結人は部屋のベッドで妹が眠り姫よろしくスヤスヤと眠りの国へ旅立ってらっしゃる場面に遭遇しちゃったんだぜ!

あれれー?なんでマイシスターがこんなところに〜?

おっかしいなあ、妹こと青山橙子ちゃんは俺の事を嫌悪しているはずなのに、なぜにその嫌いな男のベッドで幸せそうに眠っているんだい?なぜなーぜ?

これはこのまま放置で良いのかなぁ?お兄ちゃんに教えてマイシスター☆ミ


「――はっ!?」


あまりに意味不明な状況にわけのわからん思考が頭の中を駆け巡ってしまった。


いや、マジで何事?なんでわざわざ俺のベッドで?寝るなら自分のベッド使って?

その時ふと気がつく。あの日、ベッドに落ちていた一本の長い髪の毛。


(......やっぱり、あれは妹の髪の毛だったか)


あの日もこうしてここで寝ていたに違いない。いや、下手したら俺が居ない時には忍び込んで好き放題していたのかも。って、まあ最近まで引き籠もってたからそんな隙は無かっただろうけど。


理由、聞いても教えてくれないんだろうな。


普段の態度があれだし。多分、口すら聞いてくれない......いや、まてよ!?

これ俺のベッドだぞ?わざわざここで寝てるって事は嫌われてはいないんじゃないか?

だとしたら、ちゃんと面と向かって話し合えば......


そんな事を思い、妹の顔に視線を戻した。


「......」

「......」


妹は目を開けていた。それどころかまんまるに見開き、ついでに口まで開いている。まさに驚愕、といった表情だった。

暗闇でこの表情はいくら容姿の良い妹といえどちょっと怖すぎるので、電気をつけさせてもらおう。


パチンとスイッチを入れ、あたりが明るくなる。


妹の顔は真っ赤だった。茹で上がったタコ。額に浮かび上がる汗が茹で上がりの湿気みたい。

と、とりあえず、会話を試みよう。


「......あの、橙子さん......」


「ち、ちがうから!」


え、違う?違うってなにが?


「これはほら、私の部屋の布団干してるから、仕方なく!」

「え、いや橙子の寝床ってベッドじゃ......」

「――じゃ、そういう事で!」


しゅばっ、と飛び退き出口へずんずんと進んでいく。唖然としながら見送る俺。


(なんだったんだ.....)


相変わらず不思議な奴だな。てか、風引いてるのかな。この間も顔真っ赤にしてたし。心配だけど多分なにか言ったら無視されるか「余計なお世話!」とか言われて突き放されるんだろうな。


そんな事を考えつつ携帯を見ると、kurokoからメールがきていることに気がつく。


『さっきはありがとう!お食事楽しかったよー!(*´∀`*)』


kurokoは礼儀正しい。あと色々と気配りのできる人で、見た目に反してかなりの真面目さんだ。


(わざわざお礼のメッセージくれて......返しとこう)


すぐに返しておかないと忘れちゃうからな。えーと、こちらこそありがとう、と。


送信。するとソッコーでかえってきた。


(え、はや!?)


『あの急なんだけど、aoにひとつお願いがあるんだ(*´﹃`*)』


「お願い?......俺にお願い、か。何だろう。てか腹減ったのか?その顔文字」


とりあえず要件を聞こう。お願いってなに?っと。


送信。するとまた瞬時に返事がかえってきた。いや時空間ゆがんでるの?


『ちょっと曲作りが難航してて。今度の日曜日、家に来てくれないかな_(┐「ε:)_』


え、家って......kurokoの家に、って事だよな?マジで?


確か前のバンド練習でkurokoは一人暮らしだと言っていた。それに社会人だとも。

確か高卒の19歳で、動画配信や広告収益で生活してるんだよな。要するにYooTuberというやつだ。


これ、もしかして......チャンスかもな。俺も目指すところはkurokoと同じで、YooTuberで収益を得ての生活。そして親への学費の還元。まあ、とにかく稼ぐ事だ。


だったらこれは先輩である彼女に色々聞けるチャンスなのでは。作曲についても学べるだろうし。


「えっと、わかったよ。今度の日曜日ね、っと」

『やったぁ(*´艸`*)』


いや返事はええよ。未来予知でもしてる?



――



そして、日曜日。俺はkurokoの部屋に来ていた。


都内のマンション。たどり着き外観をみてまず第一に抱いた感想は、「あ、ここ家賃やばそう」だった。


言われるがまま中に入り、コンビニがあることに驚き、エレベーターの案内板でジムまで完備されている事に驚く。


そしてkurokoの住む707号室の前に辿り着いた。するとそろそろ来るころかと察していたのか、彼女が部屋から出てきた。

kurokoはこちらに気がつくと小さく手を振る。


(可愛い)


そして別の手に持っていたモノをこちらに見せてくる。それは小さなホワイトボード。

『おいでませ〜!(*´艸`*)』

と書かれている。なるほど、これなら小さい携帯の画面よりも文字が大きく見やすい。


「お邪魔します。あ、これ、kurokoの好きなやつ」

『わーい!やったぁ!٩(๑òωó๑)۶』


さすが書き慣れてるな。一瞬で顔文字まで書き上げててビビる。手の動き見えないもん。


ちなみに好きなやつとは炭酸水と紅茶のティーバッグ。甘い物も好きって言ってたからケーキかなんか買ってこようかと思ったけど、「甘いものは好きだけど太るから嫌い」らしくやめた。

好きだけど嫌い......ハリネズミのジレンマ的な?


しかし、イメージどおりの部屋だな。地雷系ファッションを好むkurokoらしい。

パステルカラーのピンクのベッド、壁紙。カーテンは白。置いてある小物が淡い色のものばかりで、座椅子に大きなぬいぐるみが鎮座している。


ちょいちょいと肩をつつかれ振りかえる。するとお盆にグラスと炭酸水のペットをのせたkurokoがにこりと微笑んだ。

テーブルにそれを置いてホワイトボードに書き込む。


『そのこシマエナガのぬいぐるみなんだよ!名前はおもち!かわいーでしょ?(*´艸`*)』

「この子、おもちって言うのか。確かに餅みたいに白い」

『いつもおもちに話しかけて会話する練習してるんだよね٩(๑òωó๑)۶』

「練習?」


こくこくと頷くkuroko。唇が僅かに綻び、微かに動き、そしてまた一文字に結ばれる。


『どう!?(*´艸`*)』

「なにが!?」


どやぁ!と胸を張るkurokoに思わずつっこんでしまう。


『あー、聞こえなかったかぁ(´・ω・`)』

「え?あ、ああ今喋ってたのか......ごめん、聞こえなかった」

『いんや。ごめんね、こっちこそ_(┐「ε:)_』


会話する練習......kurokoは人と話したくないんじゃなくて、話すことが難しいのか。


「緊張するの?」


俺は聞いた。初めてYooTubeで生配信をした時、俺も声が小さいとリスナーに言われたことがあった。

極度の緊張によって喉が萎縮するのはよくある。


(それか......あまり思い出したくない)


声を出そうと練習していると言うことは、喉に問題は無い。となると会話ができないのは心の問題だろう。


kurokoがにこりと微笑む。


『そう。緊張しちゃうんだ』

「俺とも?」


『まあ、まだお互いの事知らないしね』

「それはそうか」

『素直!?』

「え、そう?」

『うん。だってこれのせいでukaとは初対面でケンカになったしね_(┐「ε:)_』


「ケンカ!?」

『そだよー。「そんなにわたくし達と話したくないんですの?」っておこだった』

「あー、いいそう」


ukaってみんなのことすげえ大切に想ってるから。いや、kurokoもそうだけど。ukaのメンバー愛はちょっと重たいくらいある。あと意外と真面目だから......kurokoに信用されてないかもって多分不安だったのかもしれない。


「でも仲直りできたんでしょ?」

『うん』

「どうやって仲直りしたの?ukaって結構頑固だろ?難しくなかった?」


『理由を話したの。私がどうして言葉が出ないか』

「理由を......」


『私もaoと同じ。いじめられてたんだ』


――聞いた瞬間、何かが腑に落ちた。


人の顔色を窺っているような視線と、会話を遮らないように黙る癖。

ファミレスの時、水戸さんがいる間は全く文字を打って会話しようとしなかった。


思えばバンド練習の時にも、そんな素振りがあったような気がする。


(......自分に自信がないのか)


俺と同じだ。


「話してくれてありがとう」

『仲間だからね(*´艸`*)』


にこっと微笑むkuroko。


「オフ会、怖くなかったの?」


俺は聞いた。と、いうよりも知りたかった。イジメられるという辛さを知っているからこそ。

多分、いくらネトゲで気心知れてる仲だといってもリアルは知らない。


あえば傷つく事だってあるはずと恐怖心が勝りそうなものだ。なのに彼女は皆とリアルで出会い、仲良くなった。


「......傷つくかも知れないのに、怖くなかった?」


『怖かったよ!すっごく!』


kurokoはホワイトボードに書き込み続ける。


『だって、こんな面倒くさい奴なんて普通へんに思われて終わりだもん』


なら、なんで?


『でも、会いたかったんだ。心の底から。みんなに』


そうか、kurokoは......傷ついてでも会いたくなるくらい皆のことが大切になっていたんだ。


「なるほど」

『うん!それに私、孤児院の出身だから尚更なのかも』

「......孤児院」

『今まで家族って知らなかったから。皆といると家族ってこんな感じなのかなぁって思うことがあるよ』


「そっか。俺もkurokoのこと家族みたいに大切に思ってるよ」


『ありがとう』


きっと彼女にとっても、あの場所は大切な居場所なんだ。


『さてさて、それでは曲作りについてなんだけど。てか、話長くてごめんね(´・ω・`)』

「いや、kurokoのこと知れて嬉しかったよ。大丈夫」

『ありがと(*´艸`*)』


この時、俺は気がついた。自分が後戻りのできない場所に立っていることに。


――kurokoや、皆の......力になりたい。持てる全て、全部で応えたい。そう思っている自分がいる。


大切なものが大きくなり増えていく。


目をそらすことが困難になっていく。



(......文化祭、それまでの付き合いなのに)


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