第31話 ストーカー(確信)


ukaと別れた帰り道。俺の心中は穏やかでは無かった。


(あのストーカー(仮)のチャンネルアイコン......)


あれって、気のせいでなければ俺の小学生時代の写真だよな?

さっきはukaがいた手前、もし違っていたら自意識過剰みたいで恥ずかしくて言えなかったけど......でも、何度確認してもあれは俺に見える。


そうなってくるとあのチャンネルの主は必然的に決まってくるな。父さんは出張が多いし、YooTubeのチャンネル管理なんて忙しくてできない。母さんは動画を観ることはあるけど投稿なんてしないだろうし......つーか、そもそもあの籠もったような音質、もしかして壁越しに録音したんじゃないか?


(......やっぱり、妹......橙子が?)


なんのために?俺の歌声を晒してストレスを発散させていたのか?


――馬草に録られた動画の悪夢が蘇る。


もし、そうなら......俺はいくら妹でも橙子を許せない。


暗い影が心を覆っていく。ふつふつと怒りがわきそれと同時に悲しみが滲み出す。


道端にある吸い殻が突っ込まれた空き缶。放置されたゴミ。


――視界に入る全てが......不快感を増していく。


星の見えない曇り空。俺は家へとどんどん愚鈍になる足を引きずり運んだ。


家の前。外から見える妹の部屋。明かりがついている。


(......確かめる必要がある)



――



それから二日後。バンド練習が終わり自室に設置した隠しカメラを確認した。

そう、俺は隠しカメラを設置したのである。


橙子が俺のいない間に部屋へ侵入していることはわかっている。だから隠しカメラを設置した。

彼女の目的をはっきりさせる事でストーカー(?)事件の真実に迫ることができると思ったからだ。


もしもこれが俺の思い過ごしなのであれば、録画データを消して終わり。

しかし、何かしらのストーカー(?)......橙子が俺の歌声を盗聴していた証拠や発言があれば、この録画を証拠として問い詰めなければならない。


「.......」


俺はPCでそのデータを再生させた。



『――......ガチャ』


扉が開く音。やっぱり......。部屋へ侵入してきたのは、やはり妹、橙子だった。

しかし、やばいな。俺が出かけてから五分もしない内に入ってきてる......ここから素早く盗聴器でもしかけて出ていく感じか?


『―――......すぅー.......はぁー、すぅー......』


?、部屋に入り扉の前で深呼吸を繰り返している。これは......いったい何をしてるんだ?


『――......ふひっ、お兄の匂い......生き返るぅ♡』


......。


カチ、と俺は再生を止めた。


(.......ん?)


ちょっと、バンド練習で耳が疲れてるのかな。やべえ台詞が聞こえてきたような......気のせいだよね。それか、違う意味か。


「――......ふひっ(くせえ)お兄 (ちゃん)の匂い(マジで死ねるから、早く盗聴器設置して部屋から出て)生き返るぅ(♡←錯乱中?)」


って感じなのかもしれない。いや、そうであってくれ。


......続きを観よう。再生のアイコンをクリックしようとした時、俺は自分の手が震えている事に気がつく。


この先を観たとき......果たして俺は、耐えられるのか。


じわりと嫌な汗が滲み出るのを感じた。


(い、いや、確認はしないと......だって、これは......もう俺だけの問題じゃない)


覚悟を決め、俺は再生をクリックした。


『――......ん、んー♪ふふん、ふん』


めちゃくちゃご機嫌なんだが!こんな妹見たことねえ!

驚愕する俺。しかし、次の瞬間......。


『――ボフッ、......んーーーー、すぅーううっ、はぁ』


お、俺の枕......。


『くんくん、すぅーううっ、スリスリ......はわぁ、お兄ぃいい♡しゅきぃ......良い匂いぃいっ♡くんくん♡』


あ......ああっ、あ。


『すりすりすり、すぅはぁっ、ちゅ、ちゅーっ♡大好き......しゅーきっ♡♡』


誰だ!!こいつは!!?俺の知る橙子じゃねえぞ!!


『......ぐぅ、すやすや......』


ね、寝たーーーー!!?


はっ、そうか......だから枕に橙子の髪の毛があったのか。ていうか盗聴犯......ストーカー(?)は妹ではないのか?

いや、もうこの時点でストーカー(確信)だけど......でも、ただ俺の部屋で寝てっているだけか?


『......んぅ......おにぃ......許さない......』


許さない?寝言か?


『......私から、離れたら......だめ、なんだから』


......もしかして、俺......橙子に寂しい思いをさせていたのか?


思い浮かぶ今までの、橙子との記憶。


――おにぃ、今日は......橙子の誕生日だよ?


(......いつからだ。橙子と話さなくなったのは)


『......はっ!?』


ガバッと起き上がる橙子。


『......なんだ、夢か......やっとおにぃと結婚できたと思ったのに......ふふ、そんなことあるわけ無いのに』


切ない表情で悲しく微笑む橙子。今の台詞の中にやべえワードがあったことを俺は聞き逃さなかった。


『......でも、さ。やっぱりいつかはね、ちゃんとわかって貰わないとね。例え、最悪監禁しでもさ......最初は怖がられるかも知れないけど、きっとおにぃもあたしのこと愛してると思うから、すぐにあたしの愛をわかってくれるよね。大丈夫、うん......がんばれ、橙子!おー!』


可愛らしく拳を天に掲げる妹。いやばちくそこえええええ!!なにこれ誰だよ!!ホントに妹か!?

つーか、盗聴とか関係なしにこいつはヤベえよ。


あ、いや......まてよ。でも橙子をこんな歪めたのは俺にも原因があるんだよな。多分。一方的に糾弾するなんて出来ない、か?


とりあえず、これから自衛を徹底しないと。いつ襲われて監禁されるかわからんからな。......冗談かもしれないが。


『......まあ、その前にあの女......どうにかしないとね。あたしからおにぃを奪いやがった......黄瀬、陽向』


......陽向?


『おにぃに相応しいのは、あたし。わからせてやる』


その言葉を聞いた時、俺は橙子と向き合う事を覚悟した。


......これをみるに、橙子は多分欲望に歯止めがきかないタイプ。彼女は自分本位でどんどん行動する。


信じがたいが、おそらく妹は俺の事を好いている。それも異様な程の執着心があって......だからこそ、普段のあの接し方になっていたんだ。


(でも、だからといって許されることとそうでないことはある)


俺だけなら一億歩譲って良いが、陽向に危険が及ぶなんて事は絶対に見過ごせない。例え冗談だとしても、これは看過できない台詞だ。


(......俺、橙子と話し合わないと......)




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