第30話 ストーカー(仮)
――あり得ない、歌ってみたの動画。あの頃は練習で録音こそしていはいたが、動画サイトにアップなんて一度たりとも市たことが無かった。
だからこれはあり得ない、存在するはずのない音声データ。
(......ていうかこのひどい音質。俺のボイスレコーダーでもないな。俺のだったらもっと綺麗に録れるし)
「これ、あなたがアップしたものですか?」
ukaの問に俺は首を振る。
「違う」
「ですよね。あなたならもっと綺麗な音質で録られるでしょうし......以前聴かせてもらった音声データとは比較にならないくらい雑音も酷い。それに」
「それに?」
「......よく聴いてみてください」
再度動画を再生するuka。俺は音に集中する。するとある音が聴こえてきた。微かな、吐息......『はぁ、はぁ』と誰かの呼吸のような音が。
「え、ホラー?」
「ホラーですわね。これ、明らかにあなたの吐息じゃないでしょ」
「こええええええーーーーー!!!誰これ!!マジで怖すぎる!!」
ビビり散らかす俺。
「これって、もしかしてあなたのストーカーではなくて?」
「ま、まって......でもこれ俺が男の時の歌だぞ?ストーカーは無くないか?」
「あ、ちなみに最近の女の子バージョンもちょくちょくアップされてますわよ。こちらはあなたのチャンネルの切り抜きですが」
「!?」
「というかあなたYooTuberでしたのね。なにこの登録者数、ヤバすぎるんですが......」
「え!?あ、ああ......ごめん、秘密にしてて」
「いや、まあその話はまた今度でいいんですが......今はそれどころでは無いので」
「お、お気遣いありがとうございます」
やべえ情報量多すぎる。思考停止に陥りそう。
「とにかく、この登録者を特定したほうがいいんじゃないですか?」
「え......」
「えって、なに?止めさせたほうが良いでしょう?」
「......いや、まあそうなんだけど」
なんだろう。なにか嫌な予感がする。深淵を覗いているような......シンプルに接触するのが怖いというのもあるけど。
「安心なさい。わたくしが代理人としてこの件を処理してあげますわよ」
「え?」
「あなたはわたくしの大切なバンドメンバーですからね。仲間を護るのは当然のこと」
お、お姉ちゃんんん!!カッコいいよおおお!!
「あ、いや......でもそれは文化祭ライブまでだから」
気持ちは嬉しいが、俺はある意味仲間ではない。申し訳ない気持ちが勝っている。......まあ、スタジオ代とか出してもらってて今更かよ感はあるけど。
「ふむ、では言い直しますか。あなたは大切なネトゲフレンドでもあります。仲間は護るもの.......タンクですからね。わたくし」
お、お姉ちゃんんん!!カッコいいよおおお!!
彼女の漢気(※女)に感動しつつ、その時ふと疑問が過る。
「ところで、ukaはそのストーカー(仮)のチャンネルにはどうやって辿り着いたんだ?」
そもそもの話、どうしてこのチャンネルを知っているんだろう。
「それはですね。きっかけは学校の後輩ちゃんから見せてもらったのが最初ですわ」
「後輩ちゃん?」
「ええ。とても歌がお上手な方がいると」
「そっか......一応聞くけど、その後輩ちゃんがって事はないのか?」
「その可能性は低いかと。後輩ちゃんも友達に紹介されたと言っておりましたし......」
友達に、か。
「ちなみにその友達はukaの知り合い?」
「いえ、違いますわよ」
「ストーカー(仮)がその子という可能性は?」
「有り得ますわね。なので後ほど調査しようとは思っております」
「ごめん......面倒かけちゃって」
「いいってことよ!ですわ」
ニヤリと微笑むukaに俺もニヤリと返す。
「さて、ではでは次の議題に移りましょうか」
「?、次の議題?」
「最近、うちのバンドの名を語る不届き者がいるみたいなのですが......ご存知ですか?」
「あ、うん。なんかいるみたいだね。こないだの【Arc Light】でやったライブ映像を使ってるやつが」
「ええ。おったまげましたわよね。切り抜きならわかりますが、まさかなりすましなどという行為に及ぶなんて......」
おったまげるよね。多分、なりすましてる奴等以外まともな人ならみんなおったまげるよ。
「成り済まし犯はこれからどうするのかな」
「どうするとは?」
「あのチャンネルにあるコンテンツって【Arc Light】でのライブの切り抜きだけでしょ?これから自分等で演奏して動画をアップするなんてことできないだろうし」
「そーですわね。まあ、普通に考えてわたくし達の新曲がアップされるのを狙っている......もしくはライブ映像をまた盗撮してアップするため、機を伺っているのでしょう」
「盗撮......か」
(ん?)
「どうかしましたの?」
「そういやライブを撮影してたのは誰だろ。成り済ましの連中かな?」
「んー、どうでしょう」
「......もしかして、さっきのストーカー(仮)がそうだったりして」
「......」
眉間にシワを寄せるukaと俺。無言でストーカー(仮)のチャンネルでライブアーカイブを探す。
「ありますねえ」
「ですわねえ」
あった。ふつーに。しかも切り抜かれているものではなく、ライブ配信のアーカイブが残っている。
「......こいつは、一体」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます