第44話 どっち?
――ついに、三回目となるライブが行われる。
初回のライブから経験値をためるため、文化祭まで出来る限り実戦をおこなおうという方針で動いている【Re★Game】
今日は【Trap Freee】という大型のライブハウスでのライブ。ukaの経営する【Arc Light】以外で行う初めてのライブになる。
建物自体が小さめで、いつものステージより客席が近い。お客さんの入れる人数も【Arc Light】の八割くらいが限界で、いつもと違う環境に正直俺は緊張していた。
ライブ開始まであと三十分を切った。俺と陽向、rayさん、橙子は控室で待機している。kurokoとukaはトイレに行っていて少し前から姿が見えない。
しかしマジで緊張する。こう、アウェー感があるよな。いつもと違う会場でやるってのがここまで精神的に影響するとは。
携帯の時計を確認して消して、確認してはまた消してを無駄に繰り返してると橙子が隣に来た。俺によりかかるようにぴったりとくっついてくる。無駄に近え。
「橙子......どうした」
「いやぁ、お兄ちゃんビビってるなぁと思って」
「や、ふつービビるってか緊張するだろ」
「でも陽向さんとかは平気そうだよ?」
「それはあいつらがおかしい」
「誰がおかしいって?」
聞き捨てならないなと言った感じで陽向が寄ってくる。その後ろにrayさんがいてニコニコしていた。
「あ、いや今のは違う」
「あはっ、お兄ちゃん慌ててらぁ」
「おまえなぁ、誰のせいでこうなってると」
「ふふっ」
陽向が笑った。それをみて俺はホッとする。
「結人さ、そろそろ着替えた方がいいよ」
「え、ああ」
「はい、お兄ちゃんこれ着替えだよ」
橙子が紙袋を手渡してきた。
「ありがとう。ちょっと着替えてくる」
更衣室へと移動。後を橙子が追ってきた。
「なんでついてくるの?」
「なんでって、なにかあったらあれだし」
ボディーガードのつもりだろうか。馬草との一件後、彼女は腫れた俺の顔を見て、「やっぱりあたしがお兄ちゃんのかわりやればよかった」と後悔していた。あの日以来より俺の側に居ようとする。ずっと心配してくれてる。
「橙子」
「ん」
「そんなに心配しなくても大丈夫だぞ」
「......」
隣へきてじっと俺の目を見つめる。
「なにかあってからじゃ困るもん。だからダメ」
にへらっと笑う橙子。
なにがダメなんだと思ったが、彼女の有無を言わせない強い眼差しが言葉を遮る。
更衣室へたどり着き、中へ入る。右手の方に小さなカーテンで仕切りが設けられているので、その一つへ入る。
紙袋からいつものパーカーを取り出す。いや、取り出そうとした......しかし、そのいつものパーカーはどこにも見当たらなかった。
「橙子、いる?」
カーテンごしに居るであろう橙子へ呼びかけると、「うん」と返事が返ってきた。
「これ、服間違えてない?」
「えっとねえ、皆には許可とってある」
「んーーーーーー」
パーカーの代わりに入っていた服を取り出す。
それはフリルがこれでもかというくらいついたいつか見たロリータ風ドレス。これどうみても母さんがくれた服じゃん!着れないからって押入れの上段の奥に入れておいたやつ!なんであんの!?
「いや、つーかこれなんで......また俺の部屋に侵入したのか!?」
「いや、侵入したというか手を伸ばしたら届いたというか」
「は?」
「お兄ちゃんの部屋の押入れ上段はね私の部屋と繋がってるんだよ」
「えええっ」
「あ、ごめん、繋がってるんじゃなくて繋げたんだった。えへっ」
「でしょうね!!」
やべええって!この服でライブするの?いやできないって!あれ、そういや今日出かける前......。
『ライブ楽しみね、結人。ぜったい素敵よ』
『......?うん、楽しみだけど......素敵?』
『はっはっは、魅了してやれよ結人!お前がナンバーワンだ!!』
『いや、どーした......母さんも父さんも』
『お兄ちゃん、いいから早く!遅刻しちゃうよ!』
『え、ああ......(なんだこの違和感は)』
あれは、これで、そういう事かーーー!!?
「お前、橙子......ハメやがったな!?」
「いやいやいや、あたしがお兄ちゃんをハメるだなんてないない。これはご褒美。お兄ちゃんご褒美いいっていったもんね」
「いま!?」
たしかに服が〜って言ってたけど、よりによって今なの!?
「それに今日はお父さんとお母さんもライブに来てるからさ」
「来てるの!?」
「ほら、お母さんこの服着てるの見たがってたじゃんか。買ってもらっておいて一度も着ないなんてだめだと思うんだ、あたし。ね?親孝行だよ親孝行!」
「ここで、親孝行!!」
嘘でしょ、マジで......ここで、この服で?
「いや、でも曲のイメージと合わな......」
「あ、やっぱり?そう思ってさ、これ!」
カーテンの隙間から新たな紙袋を手渡される。おそるおそる中身を確認してみると、それの黒色バージョンミタイなのが入っていた。ゴスロリ!?
「それなら曲とあうでしょ!」
「いやまって、母さんから買ってもらったのを着ないとって話じゃ!?」
「それはあれだよ、お兄ちゃんのaoチャンネルで着て配信すればいい!」
「えええ!?無茶苦茶だよ!!」
「大丈夫、kurokoさんと選んだから絶対似合う!」
な!?kurokoも噛んでやがったのか!!
「ピンクのロリータかゴスロリか......どっち!?」
くそ、これは......。
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