第45話 支え



――ゴスロリを着て控室に戻ると、陽向とrayが駆け寄ってきた。


「わー!!ホントに着たんだ結人!!」

「すごいです!可愛いいですー!!」


ホントに着たんだ?その台詞がひっかかり、ふと横の橙子を見てみると、テヘペロと可愛らしく首を傾けた。やりやがったな、こいつ!


「橙子、お前」

「う、嘘は言ってないよ!でしょ?」

「ぐぬぅ」

「それにお兄ちゃん今日のライブは顔出しするって言ってたでしょ?インパクトあったほうが話題にもなるし」


そうだ。俺は後の計画の為に顔を出すことを決めた。勿論、このライブはネットにアップする為、他のメンバーはいつも通り顔を隠してのことだが。


重要なのは俺がどこの誰かわかること。


(......この計画は俺と橙子しかしらない)


――頼ってくれる?


耳に残る陽向の言葉。


悪いな。この計画だけ......俺は一人で戦う。


「さて、それじゃあたしたちも着替えてこよっか、光ちゃん」

「ですね、いきましょう陽向さん」


「ん?着替えるって、もうライブ用のパーカー着てるでしょ」


不思議に思っていると控室の扉が開き、ukaとkurokoが入ってきた。


「......え?」


目をやると二人共俺と同じ様なゴスロリ衣装を着ていた。


「あら、aoすごく似合ってますわね!」『かーわーいーーーい!!(ㆁωㆁ*)』


「いや、二人こそすげえ似合ってる......って違う!え!?今日はみんなこれでやるの!?」


「当然ですわ!SNSのトレンド掻っ攫うにはインパクトが必要でしょう!」

『せっかくの顔出しなんだしね!(*´∀`*)』


「は?いや、顔出すのは俺だけで」


陽向が横を通り過ぎるとき、ピタリと足を止めこう言った。


「一人ではやらせないから......頼ってくれるんでしょ?」


「陽向」


計画は俺と橙子しか知らない。


「また同じことするのは無しだよ、お兄ちゃん」


にこりと微笑む橙子。


「私たちは仲間です。どこへでもご一緒に」


rayさんがぎゅっと俺のスカートをつまんだ。


「一人で危険な橋は渡らせませんわよ。落ちる時は、皆で......仲間でしょう」


ukaがにやりと笑う。


『私たちならどこへ行ったとしても、笑えるよ。仲間だから、皆で一緒に冒険に行こう』


kurokoは眠そうな目で俺を見据えている。


「結人、私たちは仲間だよ。......一人でもかけたら【Re★Game】はクリアできないんだから」


この口ぶり。俺がどこへ向かおうとしているのか理解しているのか。それでも、尚......一緒に同じ場所へと進もうとしている。


「わかった。行こう、皆」



――それからライブが始まる。橙子は待機中のメンバーを少し撮影したあと客席へ移動した。

今日のライブは俺たち【Re★Game】がトップバッター。暗くなったステージ上で配置につく。ざわざわと人の気配がする。


さっきまで落ち着かなかった心がいつの間にか静まり、自分でも驚くほど冷静だ。皆がいるからだろうか.......こんな状況なのに、どこか安心感を感じている。


――カン、カン、とukaがドラムスティックで開戦を合図する。そして炸裂する陽向、uka、kuroko、rayさんの音色。楽器隊の前奏がハコを満たすと、それに負けないくらいの観客の声援が迸る。


四人が道を切り拓く。その先に何があるのかはわからない。でも、光があると信じて俺は走り出した。


青色に点滅するライト、俺たち五人のシルエットが現れ会場のボルテージがまたひとつぐんと上昇する。


――ワアアーーー!!と悲鳴にもにた叫びが体を打ち心地よさを感じる。客席全ての視線がメンバーに刺さり、演奏に熱が入る。


やがて一曲目が終わり、次曲へと移り変わった。練習の成果が出た。するりと変わるメロディーに再び会場が湧く。


「すげえええ!」「カッコいい――」「やべえええ!!」


光をイメージした二曲目。ライトが白く照らし、俺たちの姿がはっきりと現れた。


「ぎゃあああー!!」「なんじゃこりゃああ!?」「え、嘘!?顔みえてる!?」「え、マジでみんな可愛くね!」「いや曲きけよ、ってうおおao様お美しいい!!」「ビジュアルもいいとかバケモンすぎて笑うんだが!!」


なんかすげえ盛り上がり方してるーーー!?


前に前にと押し寄せてくる観客に若干恐怖心が芽生える。熱気がヤバい。


「aoーー!!こっちみて!!」「ukaさまぁああ!!かっこいいい!!」「hina!!マジで可愛すぎぃ!!」「美人すぎかよkurokoさん!!」「rayちゃん天使でござるぅ!!」「aoおおお!!」


「ゴスロリいいね!」「似合ってる!!」「まじでaoってあのaoじゃねえか!!」


会場の盛り上がりとは裏腹に俺はどんどんと曲の中へ深く潜る。これは俺たちの曲、想いを伝えるライブだ。ビジュアル負けなんてさせない。


あくまで、曲で......魅せる――。


「お、おお......」「歌唱力たけえ」「つか安定感すげえな」


頰を伝う汗、目が合う観客、揺れるステージと、背を包む四人の温かさ。


『こんばんはー!【Re★Game】でーす!!』


「「「「うおおあおああーーー!!!」」」」



あの暗くて狭い場所が、こんなに広く明るい世界に通じていたなんて思わなかった。


「おにーちゃーん!ほら笑ってー」


橙子が手を振る。その後ろには父さんと母さんが笑顔でこちらをみていた。



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