第46話 甘え



――ライブ後、皆の事情が絡み打ち上げは後日行われる事になった。なので、俺は橙子と共に家へと車で帰宅。ちなみに他のメンバーも遅いからと家へと父さんが車で送ってくれた。めっちゃ頼りになる。


そして今はリビングで夕食中。お寿司をお持ち帰りしてきてそれを食べている。サーモンうめー。

ちなみに橙子は俺のメイクを落としたあとすぐに風呂へ。母さんは今緑茶を入れてくれてて、父さんはビールでご機嫌状態だった。甘エビうめー。


「いやあーしかし凄かったなぁ、結人!めちゃくちゃ盛り上がってたな!!父さん感動して泣けてきたぞ!」

「......ども」


こう、正面切って褒められるとどうリアクションしていいかわからない問題って無いか?別に父さんが嫌いとかじゃなくて、どうしてもぶっきらぼうに返答してしまう。いやほんとは嬉しいんだよ?


「お母さんもびっくりしちゃったぁ!結人ってあまり目立つの好きじゃないじゃない?なのにあんな沢山の人の前で......すっごくどきどきしちゃった、お母さん」

「そ、そっか」


まあネットではあれより遥かに多い観客を相手にしてるわけなんだが。しかし、こうも喜んでくれるとは......マジで反応しづらい。はやく橙子戻ってこないかな。


「でもまあ、歌はずっと練習してたもんな。押入れまで改造して......努力してきたもんなぁ、結人は」


ぐすぐすと泣き始める父さん。あれ、父さんって泣き上戸だっけ?と思いきや隣の母さんも涙ぐんでるし!母さんは酒飲んでないはずだぞ!?


「ふふっ、泣けてくるわね。結人が立派になって......」


そうか......そうだよな。二人には心配ばかりさせてる。いじめで不登校になり、引きこもって......そりゃ涙も出てくるか。

俺が苦しんだ問題は親にとってもかなりの苦しみだ。どんだけ手を尽くしたところで状況を変えられないことはざらにある。だからこそ、不登校になったとき俺を責めたり無理やり学校へいかそうとはしなかった。


思うようにしていいと、あの時二人が言ってくれたからこそ、今の俺があるんだ。


「結人のね、あの......ゴスロリっていうのかしら」

「そうだ、お母さんゴスロリ」

「あれすっごく似合ってた」

「なあ、あれよかったよな!あれを選んでくれた子に赤スパなげたいもんお父さん」

「お母さんね、ロリータも似合うと思うんだ」

「ああー!あれな?絶対似合うよ!結人ってすっごく可愛らしい顔してるし」

「そうなの。お母さんの目には狂いはないはず、だから一度だけ着てみて」

「お父さん赤スパなげちゃうぞ!ついでに写真もとらせてくれよ!」

「写真!そうだ、撮影会とかないのあなた達のバンド」

「撮影会いいなぁ、結人?撮影、ないのかなぁ?お父さんカメラ新調しちゃうぞ」

「お母さんもビデオかっちゃう!」

「お父さんさぁ、職場で結人の写真みてるんだよ。そしたらさ、どんなに辛いときでも頑張れちゃうんだよね」

「それはそう!結人の可愛さは人を癒やす力を持ってるのよ!」

「あー、やっぱりかぁ!」

「だから結人、撮影会ひらいて?」




......いや、ええーっ。この人ら俺に可愛い服着させたいだけじゃねーか!

目を子どものようにキラキラと輝かせるんじゃないよ!


し、しかしこの二人に恩返ししたいとは前から思っていた事は事実。


「......ま、まあ、善処します」


「「やったぁー!!」」


その時、物陰で事の始終をみていたであろう橙子を発見。にやにやと邪悪な笑みを浮かべていたが、目が合うとにこりと微笑み取り繕った。


「お兄ちゃん、お寿司美味しい?」

「いや誤魔化し方下手か」

「え、なにが〜?」

「こいつ......ほら、お前の分」


俺は橙子にとっておいた寿司を差し出す。彼女の好きなネタはイクラとイカオクラ、そんで玉子。


「わあ、ありがとうお兄ちゃん!はい、あーん♡」


目をつぶり小さな口を開く。


「え、なんで?」

「これはPC作業のご褒美かなぁ」

「なん、だと......」


確かにそれに関して橙子に対価は支払われてはいない。仕事をした者にはそれ相応の報酬を支払うのはこの世の道理か。

仕方ない......いやむしろ食べさせるくらいで済むなら全然有りか。


「わ、わかった」

「ではお願いします」


あーん、とまた口を開く。小さく白い歯が可愛らしいく、すーすーと鼻息が微かに聞こえる。なんか妙に艶めかしいな。


「てか、寿司、おっきくない?これ一口じゃいけないだろ」

「大丈夫」

「マジでか」

「顎いたくなるんで、はやくお願いしまーす」

「......はい」


俺はイクラを箸で持ち上げ、彼女の口へと運ぶ。そして開いた口へ押し当てた。


「――......ンッ」


橙子は妙に色っぽい声を漏らし、寿司を咥えた......って、いやまて。やめろ、お前。

絶妙に気まずい気分になる俺。ふと父さんと母さんのほうを見ると赤い顔でじーっと俺と橙子の様子を眺めている。なんで?


「は、はやく食べて」


焦りだす俺。


「おいひぃよぉ、おにーひゃん♡」

「喋んな!!」


もぐもぐとゆっくり口内へ吸い込まれていくイクラ。もう、なにもかもが卑猥に見えてしまう。やはく、はやく......食え!


こうして俺に対する地獄のような辱めは十数分おこなわれ、最後にソフトクリームぺろぺろさせられた。いや、させてあげたか。




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