第24話 ライブ②



――四組目の演奏が聴こえる。会場が湧いている声もこの控室まで届く。


「そろそろ、だね」


陽向がそう言って黄色のパーカーを羽織る。皆で決めたデザインのパーカー。色はそれぞれ、違っていて俺は青。kurokoは黒、ukaは赤でrayさんは白だ。


「なんだか思い出しますわね」


ukaが赤いグローブを装着しながらつぶやく。


「思いだす?」

「ネトゲでの初ダンジョン。このメンバーで行った時の事を思い出しますわ。あの時もこんな風に緊張してました」


「ukaって緊張するんだ」

「そりゃしますわよ。あなた、わたくしが緊張をしらないような図太い女に見えますの?」

「あ、いや......俺の口からはなんとも。へへ」

「なにわろてんねん!?それもう言ってるのと同じじゃないですか!!」


「ぷっ、あはは」「ふふふっ」『笑(*´ω`*)』


『あの時もそうやって絡んできたaoとケンカしてたよね(*´∀`*)』

「そうそう、喧嘩しててダンジョンの攻略どうなるかと思いましたよ」


「懐かしいね。ダンジョンだけじゃない......色んなことをこの五人で乗り越えてきた」


陽向が髪を後ろで結いながら目を瞑る。これまでの事を思い出しているのだろうか。

俺は皆の顔を見回し、笑う。


「これもネトゲと同じさ。楽しんでこよう」


――これから人前に出る。


クラスで先生に当てられ皆に注目された時の比ではない。


本当なら、足が竦んで吐き気が止まらなくなる。そんな場面。


(......なのに、不思議だ)


皆といると、不安も緊張も感じなくなる。


「行こうか」



廊下を歩き舞台袖へと移動。四組目のMCが終わり、ラストの曲が始まった。

彼らもまた有名なバンドで、YooTubeやニヨニヨ動画、TikTop、Pwitterなど様々な所で活動しているのを名を目にする。


曲の残り時間が僅かになり、メンバーを見渡す。ukaがドラムスティックをくるくると回しリズムをとっていた。

rayさんが俺の視線に気がつく。なにかあるのかとそばまで寄ってきて彼女は首を傾げる。

kurokoは背伸びをするように、ぐぐぐっと全身を伸ばし柔軟をしていたが、視線に気が付きこちらへ寄ってきた。


陽向がちょいちょいと俺の肩をつつく。振り向こうとしたら指を頬にさされた。


にやりと笑う陽向。他の三人が声を押し殺し腹を抱え笑っていた。ぐぬぅ。


改めて俺の顔をみた陽向は微笑み、手を差し出す。そこにukaやkuroko、rayさんも重ねた。

そして最後に俺が皆の手の上へ被せる。


陽向が小声でコールする。


「――Re★Game」


『「「「Go!」」」٩(๑òωó๑)۶』


【Re★Game】俺たちのバンド名。黒星は一度挫折した事のある俺たちメンバーを表す。そして再び始めた、このゲーム。



――四組目のバンドが演奏を終え、舞台袖へと戻って来る。入れ替わり、俺たちが舞台上へ。会場が薄暗く、気をつけてあるく。やがて、ざわざわとざわめく客席をよそに定位置へとついた。


見えない道を歩いていると、押し入れに籠もり歌い続けていた日々が過る。

どこに続いているかもわからない道を歩いてきた。


やがて、陽向をみつけそこに仲間が集まり、そして――


パッ、と陽向へ照明が当てられる。現れた五人はフードを深く被り顔が見えない。


(ここに辿り着いた)


陽向がギターソロを始める。これは有馬へのメッセージ。十秒にもみたない僅かな時間。しかしそこには「私の方が上だ」と、確かな自信と言葉が込められていた。


――一気に客席から大きなどよめきにも似た歓声が上がる。


「おお!?」「なんだなんだ!?」「上手え!!」


まさに弓師。真っ直ぐに放ったその音色は有馬だけでなく、会場にいる人間を例外なく貫いただろう。


やがてギターソロの終わり際、ベースとドラムが走り出す。


戦士でありタンクのukaが大剣のようにスティックを振り敵地に突っ込んでいく。それを魔法使いであるkurokoが破壊力抜群の黒魔法で援護する。


重々しく迫力のあるベース。


まるでグラビティにかかったかのように、席を離れようとしていた観客の脚を白黒の床にはりつけていた。


直ぐ様rayさんのキーボードが会場全体を覆うように音色を打つ。まるでヒール、心を癒やす白魔法のような耳ざわりの良いメロディ。

しかし、hina、uka、kurokoの演奏を邪魔するでもなく、むしろその逆で魅力を引き出していた。


――全てが混ざり合い、一体となる。


今、俺は皆と音で繋がっている。


(さて、行こうか。......俺は盗賊シーフ




――観客の心を盗んでみせる。





――



『――先生、これ』


そう言われ渡されたチケット。私、紫堂しどう 実花みかは教え子である青山のライブを観に来ていた。


「この次が青山達のバンドか」


(しかし驚いたな。バンド組んでいたとは......しかもネトゲの友達と)


らしいといえばらしいか。ネトゲというのは外界から切り離された場所だからな。あの世界では自分と同じ人間と会いやすい。

それこそ同じ趣味で始めたゲームだ。自然と似た奴と出会うことは多い。


いい仲間と巡り会えたんだな。


――ステージが暗くなり、バンドが入れ替わる。


私は担任になりはじめて青山の自宅へ行った時の事を思い出した。

部屋の前、扉一つを隔てた向こうで、「俺に構わないほうが良いです」と拒絶し呟く彼に「また来る」と言って帰った。


その後、彼と仲の良い黄瀬陽向から聞き、偶然にも当時私もプレイしていたネトゲに青山がいると知り会いに行ったんだ。



――ステージに光が落ちる。現れたのは黄色のパーカー、フードを被った少女。同色のギターを構えていた彼女はその瞬間、ソロを弾き始めた。



(あれは、黄瀬か.....!?)


――......上手い.....!!


胸を穿つ鋭くもくすぐるようなギターの旋律。会場の客は皆、彼女の演奏に釘付けとなっていた。

彼女のソロに続いてドラムとベースが演奏を開始する。


やがてキーボードが加わり、楽器隊が場を固める。


レベルが高い、なんてもんじゃない。個々のスキルがこれまでに演奏したバンドの中で頭一つ抜けている。


それにこの曲は.....聴いたことの無いメロディだが、惹きつけられる。もしやオリジナル曲か?


マイクスタンドの前、立ち尽くす小柄な少女。


青山が、マイクを握り歌い出した。


歓声、楽器の音、その他の雑音。それらによりボーカルの声というのはライブにおいて聞き取りにくい事が多い。


(......青山、お前......本当に初ライブかよ)


その歌声はこの爆音にみちた会場でハッキリと響き渡った。通る声、楽器に負けないがけして声を張り詰めての発声ではなく。


フードにより口元しか見えない彼は少し笑っているように見える。


会場の誰もが口々に言葉にする「このバンドはなんなんだ」と。


リラックスしている青山の歌声は巧みな感情表現を容易にしていた。

本来、はじめてライブを行うボーカルというのは、練習との環境の違いもあり、自分の声が聞こえなくなる。

そのため、声を張りがなったり大声をだそうとし、ピッチが狂ったりする。


(しかし、青山の歌声にはそれが無い)


――演奏が始まるの前、初出演だった【Re★Game】の名を見てそろそろ帰ろうか、と話している客がいた。


「だれこれ」「別のバンドが良かった」「ここでよくわからんバンドかよ」「こういうのは前半にいれといてよ」「盛り下がるなぁ」


そう言っていた奴らが、食い入るように彼らの演奏を聴いている。


(......これが、青山のバンド......あの時、ゲームの中で私が見た、お前の仲間達か......)



――この会場の全ての人間が、僅か一曲目で心を奪われていた。


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