エピローグ

『華麗なる美の演舞、カレンセイクラブに絶賛の声多数!


聖女様の意外な一面に驚きの波が広がっている。この秋、社交界は『カレンセイクラブ』の噂で持ちきりだ。先日行われたプレオープンは大成功に終わり、正式オープンを迎えた今、早くも連日大盛況となっている。贅沢な内装とドラマチックなストリップダンスが楽しめるこのクラブは、今や社交の中心地となっており、うるさ方の奥様方の評判も上々である。予約は殺到中なのでご注意を』


 華々しく書かれたゴシップ紙を投げ捨てます。今はゴシップを楽しんでいる場合ではありません。


 興行は大成功でした。

 ということは、ありとあらゆる事務仕事が待っています。


 せっかく綺麗にしたランカスターさんの執務室は今や混沌と化していました。

 私とランカスターさんは机に齧り付きで、山となった請求書と予約の問い合わせの手紙と複雑怪奇な帳簿をまとめていました。


 私とランカスターさんの仕事場を分けた意味がありません。


 ありがたいことにお客さんは途切れていませんが、楽しませるためにやる事は山程ありました。

 それに、来年に向けての計画も立てなければいけません。


「ランカスターさん。12月の支出が多くなっています。この数字なんですか?」


「冬季休みの前に、従業員に新年のお祝い金を渡す風習あるだろ。だから4割ほど多く予算を取ってる」


「え?」


 聞いたことがありません。


「新年のお祝いのお菓子ではなく?」


「いつの時代の話だよ。今は金だよ」


「王宮ではお菓子が配られていました!」


「残念、ここは下々の世界だ。年末に暇をもらって田舎に帰る従業員もいるだろ? 旅費代わりになるように包むんだよ」


「ランカスターさんもご実家に帰ります?」


「帰らないよ。あっち寒いし。でも俺にも払えよ」


「んんんんんん」ここでケチオーナーの称号を得るわけにはいきません。

「お菓子も付けましょう」予算をもう1割上乗せします。


「オーナー、来月のお花の仕入れについて質問が来てます~」

「内装屋さんからの請求書届きました」

「踊り子さん宛てに届いたプレゼントどうします?」

「マダム・キャビッシュからの新衣装デザイン上がってきました」

「支配人~、来月のメニューと仕入れ表見てください」


 入れ代わり立ち代わり、ひっきりなしに仕事が舞い込みます。


「んああああ、ランカスターさん! これはアレです! 事務専門の方をもっと雇うべきです」


「だな……総支配人仕事してたんだなぁ」

 仕事中毒気味のランカスターさんもげっそりとした顔でため息を付きます。


「そうだ!! 王立劇場の総支配人のハーシュさん引き抜きましょうか?」


「だめ」ランカスターさんが即答します。

「俺の元上司だぞ?! 絶対俺の下では働かない。あと給与が高すぎる」


 今や私とランカスターさんは予算の奴隷です。たぶん、ずっとそうなのでしょう。少なくとも借金を返し終わるまでは。


「職業案内所行って来い」


 ランカスターさんが出口を指さしてキッパリと言いました。

 善は急げ、残った書類を押し付けて部屋を出ます。


 昼のお屋敷は夜の賑わいが嘘のようにシンとしています。


 前庭に出ると朝方まで降っていた雪は止んでいました。

 空には雲ひとつ無く、底抜けに明るい冬の空がどこまでも広がっています。

 王都全体が雪に覆われ、真っ白な銀世界が広がっていました。


 キンと冷え切った空気が鮮烈で、思わず背筋が伸びます。

 冬はまだ始まったばかりです。


「行ってきます!」


 玄関のエンブレムへ声を掛け、私は一歩を踏み出しました。

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聖女には向かない職業 落ちこぼれ聖女ストリップクラブオーナーに転職す 相良徹生 @jmnitetuo

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