第29話 オーディション2※
素敵な踊り子さんが次々と登場しました。ここまで続けて踊りを見たことがないので、興奮しっぱなしです。
踊りのスタイルは皆様々で、夜光亭で見たように色っぽい踊りから、劇場のような正統派までさまざまです。
目まぐるしく変わる様は万華鏡のようで、目眩がしてます。10人に絞って正解だったのかもしれません。
「ありがとうございました!」
皆さん、踊りが終わると打って変わって爽やかな笑顔で挨拶されます。それがまた可愛くて思いっきり拍手をしてしまいます。
「素敵でした~」
「次の方!」そんな私を咎めるように、ランカスターさんはサクサクと進行していきます。
劇場の支配人は劇のオーディションもしていたのでしょうか。
六番は唯一の竜人の方でした。艶のある暗い肌に、青みがかった黒髪がとても綺麗です。
神話に出てくる騎士のような精悍さと、森の女神のような神々しさを感じる相貌です。見たことがないくらいの絶世の美女でした。
黒いローブには、キラキラと光るビーズの装飾が文様のように浮かび上がっています。
他の竜人と同様に、背の高い方でした
すみれ色の虹彩がランプに反射し、目があった瞬間にドキリと心臓がとまります。
鱗のあるしっぽがムチのようにしなり、身体に這う様子は妖艶としか言いようがありません。
踊りは異国の香りがしました。ダイナミックに動く腕と尻尾にベールがまとわりつき、身体のラインをハッキリと見せています。
しっとりと汗ばんだ肌が黒曜石のように輝いて見えました。
はらりとベールが落ち艶のある胸に手をやる仕草に目が離せませんでした。彼女の香りまでこちらに漂ってきそうな、そんな踊りでした。
音楽が終わると、踊り子さんが王宮風の挨拶をします。不思議と上品な雰囲気のある方でした。
「素敵でした~」もちろん大拍手です。
いくつかランカスターさんが質問した後にオーディションは終わります。結局踊り子さんとの会話は全てランカスターさんがしていました。
私ときたら、皆さんのオーラに圧倒されて、ため息をついて身体を眺めているだけでした。
「ありがとうございました」ランカスターさんが言います。
踊り子さんは無言で頷くと颯爽と幕間に消えていきました。最後まで美しい方でした。
「素敵な方でしたね。お美しい」
「そうだな。ダンスは東風だったけど、ゾッとするほど美形だし品がある」
「息をするのを忘れてしまいそうです」
「ちょっと休憩するか?」
「いえ、皆さん待たせてますし、一気に最後までいきましょう」
花茶を飲んで再開です。
王都中の美女がこの屋敷に集まったかのようでした。続く方もエルフの姫君のような可愛らしい方です。
人種問わず募集したお陰で、踊り子さんの人種は様々でした。ドワーフ、獣人、エルフ、暗色エルフ、竜人、そしてヒューマスです。さすがに王都には有翼人の踊り子さんはいないようでした。
ここはヒューマスの国なので、踊り子さんもヒューマスを2人は入れるべきと、ランカスターさんと相談した覚えがあります。
ただ、皆さんの踊りを見るとその絢爛豪華な多様さに、前提条件を忘れてしまいそうです。
9番の方はヒューマスでした。
腰まである艶のあるウェーブの黒髪が身体を隠しています。色白の柔らかそうな肌に、トロンと潤んだ真っ黒の瞳が色っぽいです。
反面、うっすら微笑を浮かべた真っ赤な唇にドキドキします。目が合うと、ふふふと笑い声が聞こえるようでした。
彼女の踊りは妖艶でした。
どうすれば、自分をよく見せられるかわかっているようです。ゆっくりとした手の動き一つ一つを目で追ってしまいます。
彼女の唇を手が滑り、首元、胸元、おヘソまで動く仕草に呼吸も忘れます。
たっぷりとした髪の毛が引き上げられ、白な身体が照明をいっぱいに浴びても、彼女の身体はどこか秘密に隠してある場所があるような底知れない色気がありました。
*
全てが終わった後は、疲労困憊でした。
自分が踊ったわけでもないのに、ぼんやりと脱力しています。でも心地よい疲労感です。たくさんの美しい女性の踊る姿が瞼に焼き付いたようです。
モーニングルームに移動して、お茶を飲んで一息つくと同時にランカスターさんが言いました。
「おっし、合格者選ぶぞ」
「え、もうですか?!」
「当たり前だろ。踊り子だって時間とってオーディションに参加したんだ。さっさと決めた方がいいだろう」
「余韻というか……心の準備が」
「今決める。さっさと番号言え。3人だぞ。3人」
泣いても笑ってもここで私のクラブの踊り子さんが決まります。
責任重大でクラクラします。ただし、これは私のクラブで私が決めることなのはわかります。
私は思い切っていいました。
「い……1番、6番、9番の方!!」
飛び抜けて心を掴まれた方達でした。全員順位が付けられないほど美しかったのですが、あえて選ぶとなるとこれしか考えられません。
「俺も1番、6番、9番」
「え?」
2人の目が目を合います。ランカスターがニヤリと笑いました。
「決まりだな」
「き、決まり?」
「この3人が抜群によかった。擦れた感じがしないし、品があって色っぽい」
「ですよね! 擦れたという意味がわかりませんが。素晴らしかったです」
「決まったな」
ランカスターさんが肩をポンと叩きました。
決まりました。私のクラブの踊り子さんが決まりました
ここは大喜びしてもいい場面です。
「やったぁぁぁぁ!!」
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