第22話 融資のお願い
私はノーフォーク伯爵邸の前にいました。
最近はめっきり春めいて天気が良い日が続いていましたが、今日は曇り空です。
どんよりと濁った灰色の空が遠くまで続いています。まるでこれからの成り行きを暗示しているようでした。
エレニア夫人のノーフォーク伯爵邸は立派でした。尖塔が特徴の古典的な様式でしたが、藍色に壁面が塗られとてもおしゃれです。
前庭には白バラが綺麗に咲き誇り、しっかりと手入れされています。
ノックをするまでもなく、正面玄関が開かれました。予め手紙を書いて訪問を知らせていたので待っていてくれたのでしょう。
ピシリと身だしなみを整えた執事さんが立っています。
「聖女様、ようこそいらっしゃいました。奥様がお待ちです」
執事さんは全てお見通しのようでした。
王宮並の丁重な挨拶をいただき、執事さんの後に続いて屋敷を進みます。エレニア夫人のお屋敷は王宮とはまた違った豪華さがあり、キョロキョロとしてしまいます。
王宮も豪華な造りでしたが、ノーフォーク伯爵邸は主の人柄を感じるような不思議な美しさがありました。
壁は明るい色で統一され、廊下からは裏庭がよく見えます。点々と壁際に小さなテーブルが置かれ、珍しい葉っぱの花がいけられていました。きっと壁と床の色に合わせているのでしょう。館の主のこだわりが随所に見えます。
これを見ると、私のお屋敷に足りないものがよくわかります。
執事さんに案内され、1階の中庭に面した応接間に入ります。エレニア夫人はソファに優雅に座り本を読んでいました。
薄い水色に白バラと蔦模様の壁紙に、絨毯は濃い緑。淡い色のドレスを来たエレニア夫人は館の主としてとても輝いて見えます。
私もこんな堂々とした女主人になれたら、とぼんやり思います。
「暁の聖女様が到着されました」
執事さんに促されて、ソファに座ります。
メイドさんがカートでお茶を運んでくれました。
「ようこそ。聖女さんから訪ねて来てくれて嬉しいわ」
「すばらしいお宅ですね。全て夫人がコーディネートされたのですか?」
エレニア夫人は微笑んで頷きました。
私のお屋敷の内装に興味津々だったり、応接間のソファの価値を見抜いたり、伯爵夫人はとても彗眼なのです。
「ここは白薔薇の間って呼んでるの」
「素敵です」
「それで、今日はどんな御用かしら。噂話をしに来たの? それでもわたしくは構わないのだけど……」
私は姿勢を正しました。冷たくなって手をギュッと握り、手の感覚を取り戻そうとします。
「今日は、ストリップクラブの融資のお願いに参りました」
夫人は変わらず笑みを浮かべています。
きっと私からの手紙が届いた時点で予想していたのでしょう。
「これが計画書です」
カバンからランカスターさんとミトが用意してくれた紙の束を取り出し、ペラリとめくります。
表紙の次の2ページ目にはストリップクラブの開店に必要な金額が書かれていました。
ものすごい金額ですが、夫人はちらりと書類に目を落としても眉一つ動かしません。
「そういう事だと思っていましたよ」
夫人はおっとりと言うと、お茶を注いでくれます。美味しそうなケーキも取り分けてくれますが、喉を通るとは思えません。
「立派なストリップクラブになりそうね」
「銀行には行ってみたの?」私は頷きました。
「何件かまわりました。わたしの経歴から言ってこの金額は融資できないと言われました」
「そうでしょうね」
エレニア夫人の声は穏やかです。
「とても素敵なお店になりそうだけど」エレニア夫人は唇に指を立てて首を傾げました。はしばみ色の瞳はまっすぐこちらを向いています。
「融資したらわたくしになにか得があるのかしら」
お部屋の温度がさぁっと下がっていくのを感じます。
さぁ、本番です。
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