第6話 やることリスト
「お疲れ様でした!!」
「うぇーい! お疲れ!」
盃をミトと合わせます。
数日かけて親方さん達の力をかりて、屋敷全体の計測を1からやり終えました。
今日はミトと夜光亭で早めの夕食兼お疲れ様会を開催です。
「しっかしなぁ~意外とできそうなもんだな」ミトは見取り図を広げて言いました。
ミト達の協力で出来上がったのは、神殿の見取り図です。
親方さんがサービスで見取り図の上から舞台とバーカウンターの簡易設計図を青インクを入れてくれました。
「でしょうでしょう」自分の手柄でもないのに胸を張ってしまいます。
簡易といっても設計図ができると。俄然計画の現実味を帯びてきます。
「親方の計算だと客の想定人数は120人か……。デカいな。バーカウンター大きいのはそのためだな」
「はい」
「ま、あたしはそこら辺は専門外だからなぁ。とりあえず改装突っ走るより、ルゥもしっかり計画建てないと破産するぞ」
その通りです。そもそも私は客商売の素人です。というか、生まれてこの方、修道院育ちで神殿暮らし、一般的な就労自体まともにしたことのない女です。
ストリップには踊り子さんも必須ですが、酒場にするにはウェイターやウェイトレスさん、バーテンダーも集めなきゃいけません。
「うむむむ……」
それに音楽を弾く方、料理人、お客さんの案内係、踊り子さんの衣装を用意する方も必要な気がします。と、いうか絶対必要です。
「これはですね……手のおえる規模感で練り直します……」
「お? おねぇさん、練り直すってなにを~?」
店員のアランくんが麦酒のおかわりと海老の香草焼きをもってやってきました。
「ランちゃん、この子酒場作りたいんだって」
ミトが言います。
「ホホウ!」アランくんの丸っこい耳がぴょこんと立ちました。
「えへへ、コレが設計図です」見取り図をアランくんに見せびらかします。
正確には設計図ではないのですが、もうできたも同然な気がします。
「いいですねぇ、いいですねぇ。僕絶対飲みに行きますよ! 開店はいつなんです?」
「まだまだ先です。最近思いついたばかりで……」
「おっ、まだ」
「そうです……」
アランくんは顎に手をやってなにやら考え込んでいます。
「でしたら、酒の確保はすぐやっといた方がいいですよ」
「お酒?」
「王都に流通している酒はグリフォン商会が取り仕切ってますから、早めに下ろしてもらう話しつけておいた方がいいですよ。お店で消費する量すぐには用意できませんからね。珍しい外来のお酒なんか出したいんだったらなおさら話しつけておかないと手に入らないですよ」
「え゛……」もちろん知りませんでした。
「ウチなんかは、田舎のブルワリーと契約して独自で下ろしてもらってるんだけど。地方回って飲み歩く必要あるし、コネもいるからおねぇさんにはしオススメしないかなぁ」
「勉強になります……」
「ま、何事も経験すよ。おねぇさんだったら大丈夫よ~」
アランくんは朗らかに手を振りながら去っていきました。
アランくんやさしいっっ。
しかし……――ミトと目を合わせます。
「こりゃ大変だ」
「はい……。もしかして思いつきで突っ走りましたが、めちゃくちゃ考えること多いのでは……」
「いや、それはそうだろ」
ミトにバッサリやられます。
それはそうでした。
*
「むむむ~」
次の日、私は屋根裏部屋で机に突っ伏してうめいていました。
机の上は紙でいっぱいです。
なぜ屋根部屋かというと、ここが私の寝室兼書斎です。
お屋敷2階の書斎にも応接間にも家具がまったくありませんでした。主寝室にはベッドがありませんでした。正確には、寝台はあったのですが、マットレスがなく木枠の豪華な天蓋付きの寝台がポツンと置かれていただけだったのです。
改築を途中でやめにしたのは本当のようです。
ありがたいことに使用人室にはベッドもマットレスがあったのですが、私は屋根裏部屋を寝室にすることに決めました。
使用人室は修道院の個室にそっくりな簡素な作りでした。一方、屋根裏部屋はガランと広く、ホコリが厚く積もっていましたが、斜めの天井を何本ものはりが走り、壁には巨大なステンドグラスの丸窓があったのです。
どちらが良いかは言うまでもありません。
酒場計画が現実味を帯びるほど、考えることは膨大なのが発覚しました。想像以上です。
というわけで、やることリストに片っ端から書き出しているのですが、なかなか終わりが見えません。
書き出す事を思いつかなくなると屋根裏部屋の掃除をして、掃除に飽きるとリストに戻るを1日中やっていました。
ウェイターさんや料理人さん等の裏方さん、料理やお酒の材料の手配、改築の方法、もちろん踊り子さんをどうやって集めるか。やることは膨大です。
手に負えない感じがプンプンとします。
アランくんや、夜光亭の店主さんに助言を求めれば応じてくれるかもしれません。
ただし、自分がなにを知ってなにを知らないかを知る必要もありますし、彼らには彼らのお店があります。お金を払ってアドバイスを貰うこともできますが、あの素晴らしいお店を切り盛りする時間を削ってでも、私に助言をくれるかというと疑問です。
貴族の方々は商売をするのは低俗だと思っているようですが、全然違います。
エレニア夫人のように賢く、見る目があり、大胆な素質がいることは間違いありません。
果たして私は賢く、見る目があり、大胆かと思い悩み始めた頃、ポーンポーンと日暮れを知らせる鐘が聞こえました。
気づけは丸窓から差し込む光も低くなり、部屋全体が赤く染まっています。
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