ニルとストーナー・クレセント

「ニル、あれが私の兄よ」


 スティールクレセントは意外なことに筋肉隆々の大男だった。周囲の客が汚いヤジを飛ばす中でもガードを固めて足を動かしている。


「殴れば勝てそうだが、なぜ反撃しない」

「うん、殴った後がね、すごく遅いの。努力しているけど減量は無理そう」

「本当にそうだろうか、パンチを撃ち込みっぱなしにすれば相手が動けなくなる」

「なるほどね。セコンドにモールス信号を送っておく」


 手元の携帯無線でモールス信号を送るストーナーを見たニルはアンデルセンに渡された懐中時計をポケットから取り出した。ごくごく普通の国の功労者用のものらしいが異様に光り輝いて見えた。後一時間しかない。


「ニル、私、ラジオ局で働くことになった。意外と実況の才能があるみたいなの」

「それは良かったじゃないか。墓場の清掃より稼ぎが良いのだろう」

「まあトントンってとこね。いけ!殴り続けろ鉄人!やった、もう一発で。いけ!攻め続けろ!」

「いいよ行って。なんか、この国を救った人と良いムードになれそうにないし」

「ラジオ局の電話番号と周波数を教えてくれ。連絡することになりそうだ。アデル閣下とも連絡を取る必要があるからよろしく頼む」

「オッケー。じゃあお金はいいから顔を近づけて。オラッ!ダウン!」


「10.9!.…8.7.6.5.3.2!」

「1」

 スティールのキスは兄が取ったダウンの秒数の間続いた。

「KO!勝者!クレセント!」

「私の勝ち。じゃあねダージリン・ニルギル。幸運が在らんことを」

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