エピソード27

「まずは、王子の安全を確保する。地下の闘技場でプロプレイヤーをやっている男の妹がいるのだが」

 メイス軍曹が頭を抱えた。ベルバトール・ユーズは突然アレルギー症状が起きたかのように首を掻きむしった。

「スティール・クレセントかよ。頼りないな」

「掃除人のネエちゃんは地下住民だったな。確かに、格闘家達は戦争に駆り出される可能性があるから王族の精鋭部隊と役所には認知されているが監視はされていないかもしれない」

 ベルトのシガレッツケースに手を伸ばして一本取り出した。

「ある意味、闘技場の周辺にある居住区は聖域だ。この国の閉塞感を忘れるために存在する場所は賑わいと活気に満ちている。王子を隠すことができる場所はそこしかないだろう」

 アンデルセン騎士団長は警戒心をあらわにして周囲を見渡した。 

「それをしてどうする。アデル様はこれから先地下住民として生きていくことになるかもしれないぞ。あまりいいアイデアとは思えないな。俺は闘技場で戦うには歳をとりすぎているから食い扶持もない」

 この老人は働いて王子を養うつもりなのか。単純な思考回路ではあるが邪悪な気配が皆無であることは評価できる。

「限られているが今ある選択肢のどれかを選ぶ必要があるのは確かだ。王を暗殺する。街を巡回しているエクソシスト達とレジスタンスが交戦して倒す。ラジオの放送を通じて民衆を煽ることで混乱を生みそれに乗じて王子を国外に脱出させる」

 全員が黙り込んだ。先日ヴェイプフェンサーの力を目の当たりにしたアンデルセンはライフルを握り締めた。

「王子の側近であり家族でもある私たちに残された道はただ一つ。それはエクソシスト達の護衛が手薄になった隙を狙ってハルベルク・シュベルト王を暗殺することだ。君たちは好きにしたまえ。闘技場の女に王子を預けることだけは許可する。テロのあった周辺地域に調べが入るのは時間の問題だ。このマンホールの蓋の下にある町に王子の身の安全を託す」

 その手があったな。王がいなくなればエクソシスト達はただのサイコパスの集まりだ。現在、ルミナール・ロバート以外のエクソシスト達は街を巡回している可能性が高い。ルミナール・ロバートだけを呼び出すことができるかもしれない。背水の陣の真っ只中にある老兵らしい発想だ。レジスタンスのボスはまた腕時計を見た。

「ニルが選択肢といったがどれか一つではなく全て実行した方が良いのではないか」

「ヴェイプフェンサーならエクソシスト数人と戦うことができる、これから王の主戦力を削ることもできるはずだ。ラジオやメディアでテロ事件は王が従えるエクソシストの指示だったと報道する。ルミナール・ロバートと無線で交渉する、直接話をする機会を作り王からエクソシスト達を引き剥がす。そして王を殺害する。あるいは紆余曲折あって俺たちが処刑されるとする。その段階で最も戦闘に長けているヴェイプフェンサーが城に忍び込み王を殺害する。俺たちが実行した反乱に乗じて王子を国外に脱出させる。俺とメイス、ユーズ、その他のメンバーは死ぬ覚悟ができている。アンデルセン騎士団長と王子はどうか生き延びてください」

 レジスタンスの主犯格がヴェイプフェンサーになるな。レジスタンスらしい考え方ではあるが巻き込まれるのは厄介だ。むやみやたらと人を殺すことなどはできない。とはいえロバート司教がどのようにして人為的な発霊を行っているかを確かめる必要がある。アンデルセンの言う通りだ。巡回しているエクソシストを叩きのめして尋問しなければならないだろう。タバコの先を摘んで熱を加える。

「ポールド王の従えるエクソシストの数と君たち真の革命家のメンバーの人数を把握しておきたいな。俺はアンデルセンと王子の側について地下にもぐるつもりだ。どの道エクソシストとの交戦は避けられないだろうからその都度戦力を削ってやろうじゃないか」

 メイスとユーズがしゃがんでマンホールの蓋を外しにかかった。すでに死んだことになっているスティーブ・ハインリッヒは歯を剥き出しにして微笑んだ。

「エクソシストは七人。俺たちは二十五人だ。ラジオ局の連中が話を聞いてくれないのであればハイジャックしてやるさ。王子を狙ったテロ事件も俺たちの仕業になるかもしれないな。この時を待っていたんだ。きっとこれも運命だ。ダージリン・ニルギル、君には期待しているよ。無線の番号はいつもと同じだ。携帯型のものは少ないからすぐに俺に繋がるようにしておく。俺たちは先に地下に潜る。数人のメンバーを君たちによこすからアデル王子の命を最優先にしてくれ」

 この男もルミナール・ロバートに人生を狂わされている。自らの命と引き換えに王子を守りたいのだろうか。それとも王とエクソシストに復讐がしたいのか。

「すぐそばの骨董店の調べは済んでいるか?」

 地下に潜る準備を整えたレジスタンスの二人は「先に行きます」と言ってハシゴを降りた。

「骨董店にはエクソシストがいた痕跡はなかった。当然ではあるが発霊後の霊体を払う必要がなかったのだろう」

「ならどうやって発霊させた?十字架さえあれば可能なら君たちレジスタンスとは別でテロに関わった人間が地下にいるということになるが」

「なるほどな、だがレジスタンスの同志には断じてそのようなものはいない」

 やはりまだ人為的な発霊と降霊術の内容はまだわからない。王が従えるエクソシスト達が何を目的にして実験をしているのかを調べる必要がある。


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