エピソード13 ポールド王国警察

「まったく、面倒な旅人が街に入り込んだものだな。1961年12月22日午前三時、取り調べを始める、私はポールド王国警察隊軽犯罪課所属、軍曹のメイス・ローネルだ。君の名前はダージリン・ニルギル。元南ベルリ軍戦地除霊隊所属の軍人なのか…。夜間に霊払いを行うエクソシズムインセンス。一応上層部に話しは聞いていたのだが実在する職業だったと言うわけだ。君には数軒の借金踏み立ての容疑がかかっている」

 ポールド墓地に隣接する警察署の取調べ室には窓がなく空調もないからなのか冷え冷えとしていた。テーブルを挟んだ椅子でコーヒーを飲むメイスと名乗った初老の男は顔中の皺を眉間に寄せて鼻をすすっている。サキュバスの霊払いを済ませた後に無線の男と看守の男たちはポールド警察に通報した。駆けつけた数人の警察官たちはヴェイプフェンサーを武器の違法所持で逮捕した。逮捕される理由は分かっていた。警察組織の青白い制服には十字架の紋様はないキリシテ教会の息がかかっていない組織なのかもしれない。

「金は返すつもりだった。悪いことをしたと思っているよ。だけど俺はこうして戻ってきたじゃないか。今回の墓地の霊害に関しては上手く解決できた。これで稼いだ金を返済に当てようとも思っているし多めに見てくれないかメイス軍曹。看守たちが意識を失ってズボンを下ろした姿を無線好きの男が証言してくれていると思うのだが、それくらいでは霊の存在を信じてもらえないことくらいは分かっているが軍曹の所属する組織の上層部には話がわかる奴がいるようだな。霊害のことくらいは知っているのだろう」

「看守が数人死んだ事件の解決については感謝をする。我々の組織にはエクソシストはいないものでね。キリシテ宣教会の上層部が飼っている数人がどうやらソレだとは噂で聞いているがね」

「なるほど、この国のエクソシストは身分が高いのだな。だから一般民衆は助けてくれないと言うわけだ。どうりで街の連中が多くの問題を抱えているわけだ。納得したよ」

 腕につけられた手錠をカチャカチャと鳴らしてから椅子の背もたれに寄りかかった。テーブルの上で腕を組んでいるメイスは舌打ちをしている。この国の警察組織がキリシテに対してどのような印象を持っているかによっては味方になり得る。今回のサキュバスは十年間潜伏したのち発霊した可能性が高い。キリシテ教会に霊について詳しい人間がいるとのであれば彼らは人為的な発霊を試しているのかもしれない。もしそうだとしたら祖国の巨大な霊を除霊するための良いヒントが得られるかもしれない。メイスは椅子にもたれかかってからため息をついた。

「一体君のようなエクソシストには何が見えているのだ?何度か見たことがあるが彼らは拳銃より大きな十字架を剣のようにぶら下げて歩いているじゃないか。君から押収したレイピアと拳銃はガソリンのタンクに繋がれていたな。一度分解しようと思ったのだが我々の上司のさらに上に位置するエクソシストの方々のことが頭をよぎってね。粗末にベタベタ触るのもどうかと思ってね。厳重に保管しているよ」

「それは正解だと思うな。あの武器で人を殺すことはない。現に俺は殺人の容疑をかけられていないから…わかるだろ。俺は人が住むことのできなくなったジャーマネシアの北南ベルリ地域に巣食う巨大な霊を除霊するためのヒントを探して旅をしている。今回の霊害の原因は変異型怨念霊と呼ばれる危険な霊だった。ここ数年、霊払いの仕事をしているがアレは見たことがないタイプの霊体だったな。放っておけば君たちは墓地の運営ができなくなっていたかもしれないぞ。できれば何かしらの報酬が欲しいのだが。ところで今日の新聞を見せてもらいたいのだが」

 エクソシストが拳銃より大きな十字架を持っているのか?それも見たことがない。その一言を喉の奥で押さえた。

「報酬をもらうあてがなかったのか?新聞くらいは自分で買いたまえ」

「それもそうだな。まあ多めに見てくれよ」

「君は近日の霊による殺人事件を解決した。仕事の報酬をくれてやるとあるお方が仰っている。十万ドルキャッシュで払うとのことだ。そこから君に金を貸したという人間たちに返済をする分を差し引いて二万ドルが君に渡される」

 要するに金を渡すからモナ・バートンの一件からは手を引けともとれる。五万ドルの借金だったはずだが思っているより多く借りていたようだ。

「その金を出すのはどこの組織の人間だ。まさかキリシテのお偉いさんなのかい」

「そんなわけがないだろう。墓場の運営をしているポールド冠婚葬祭社の社長が君にチャンスをくれたのだ。もっと敬意を払いたまえ」

 メイス軍曹の吐き捨てたそんなわけがないだろう…と言う言葉。やはりキリシテに対する印象は悪いようだ。もう一歩踏み込んで話を聞いても良さそうだ。

「失礼した。無礼を詫びよう。あとで感謝の意を伝えにいこうと思う。その会社の住所を教えてくれるとありがたいのだが」

「構わないよ。だがしかし、墓場の霊害と言うのは見たことがあまりないのでね。君がまともな人間かどうかをテストするために警察署に呼んだだけだ。リュックの中には最近利用した形跡のある普通の銃弾も入っていたし。世にも珍しい小型の蓄音機があった。再生の方法がわからなかった故、それを利用して君が悪事を働いていたかどうかもわからないが。まあいいだろう、さっさと出ていってくれ」

 軍曹がノソノソと立ち上がってからテーブルにある鉄のパイプに繋がった手錠の鍵を外した。

「君たちはキリシテの人間たちをどう思っているのだ。特にエクソシストの雰囲気がおかしいとか、気味が悪いだとかそういった印象はあるのかい」

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