第42話 作戦会議


「……そうだな、少しみんなと相談させてほしい」


「もちろんでございます」


 アンリは即答をせずに、一旦みんなで話し合う時間がほしいと要求した。


 そのまま俺たちは村長さんと村人から少し離れたところで、話し合うことになった。


「さて、どうしたもんかな……」


「できることなら助けてあげたいところ」


「僕からもお願いするよ。この村には何度か来たことがあるし、この状況を知ったら、助けになってあげたいからね。なんならトオルの件での貸し借りは今回手伝ってくれればそれでいいよ」


「俺もできれば助けてあげたいかな。もちろんできればだけれど」


 気持ち的にはもちろん村の人たちを助けてあげたい。しかし、俺には盗賊を追い払うような力がないことは自分自身で理解している。


 ジスエルさんとの特訓によって、普通の盗賊と1対1なら何とかなるとは言われていたが、相手は複数の盗賊だし、何より実際に人を相手にして命のやり取りなんてできる自信はない。


「そうだな、もちろん俺も助けてやりてえところだ。普通の盗賊レベル相手なら、俺とエルネがいれば50近くはどうとでもなるが、相手の盗賊の戦力が分からねえのは怖えな」


「……予想外の強い盗賊がいた場合は村の人たちを見捨てることもちゃんと視野に入れるべき」


「ああ、非情なようだが、撤退時はちゃんと見極めねえとな」


「うん、もちろん我が身が一番大事なのは当然だよ。そこは村の人たちも理解してくれているさ。それを分かった上でも、みんなが手伝ってくれるだけでだいぶ違うからね」


 そういえば、冒険者は冒険をしてはいけないという言葉をジスエルさんから聞いた。自分の力量を正確に理解し、決して無謀なことはしてはならないと。みんなは高ランクの冒険者だし、撤退時をしっかりと見極めてきたからこその今があるのだろう。


 薄情なようにも見えるが、自身の身の安全が第一なのはむしろ当然とも言える。


「わかった。それじゃあできる範囲内で協力するという話で良いな。俺たちの手に負えないような相手だった場合は撤退するということもちゃんと村長に話しておくぞ」


 俺たちができる範囲だが村に協力するという答えを村長さんたちに話すと、とても喜んでくれていた。もちろんちゃんと冒険者としての報酬も支払ってくれるそうだ。みんなも命を懸けるわけだし、それも当然の話である。無償での善意は相手のためにも良くないからな。


 そして当然のことながら、この状況で俺の呪いの確認と解呪をルベルさんにお願いするというわけにはいかず、盗賊を無事に撃退できたあとの報酬となった。盗賊がいつ攻めて来るか分からない上に、盗賊たち撃退の準備を早くしなければならないわけだからな。


 そのまま村の家を1軒借してもらえ、食事などもご馳走になった。やはり屋根のある家だとぐっすりと休むことができた。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「たぶん盗賊たちが来るのは今日か明日。たぶん私たちがこの村にいるのを知らないから、そのことはこちらの最大限の強み」


「なるほど」


 盗賊たちと戦うという緊張もあったが、一昨日はあまり眠れなかったことと、馬車での旅で疲れていたこともあって、昨日の夜はぐっすりと眠れた。村で朝食をいただいて、すぐに作戦会議をするために村の主要なメンバーとみんなで話をしている。


 エルネの話によると、盗賊たちは今日か明日には現れるということだ。というのも、この村から一番近い大きな街はオリオーの街で、そこにいる騎士や冒険者たちに助けを求めたとしても、あと2~3日はどんなに早くてもかかる。


 助けの来る可能性がない明日までに盗賊たちが村に来る可能性が高いわけか。この村へ来るために通った道で盗賊たちの見張りがいなかったことからも、見張る必要なんかがないとこの村を舐め切っている証拠だ。


 50人くらいの小さな村だと盗賊たちが油断しており、Aランク冒険者であるアンリとエルネ、そしてBランク冒険者のデジテさんがいることを知られていないのはこちらの強みだ。


「一度提案を受けるフリをして、盗賊たちを完全に油断させてから、一気に殲滅してもいいな」


「なるほど、村の中に罠などを仕掛けておいて、提案を飲んだと見せかけて村の中に引き寄せるわけだね」


 ふむふむ、その手も全然ありだ。盗賊を相手に汚いなんてことを言う気はないし、みんなもそんな気はないようだ。そもそも向こうから先に仕掛けてきたわけだしな。


「あとはこちらの戦力を把握しておきたい。それと武器や使えそうなものを見せて」


「ああ、今のうちにこの村でできる限りのことをしていくぜ」


 エルネとアンリが中心となって、村人たちに指示を出していく。その姿を見ると、盗賊たちの数が多くても、何とかなる気がしてきたぞ。

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