第3話 異世界の街


「うっ、ここは……」


 気が付くと俺はどこかの森の中にいた。身体を起こすと目の前には大きな木々が並んでいる。


「本当に死んで異世界にやってきたのか……あのクソ女神は呪いとか言っていたが、今のところ体調におかしなところはないな」


 手や足を伸ばしたり、その場でジャンプをしても、特に体調に異常は感じられない。何か条件によって発動するタイプの呪いなのかもしれないな。


 というか異世界転生で呪いってなんだよ……こういうのって、チートスキルをもらえるもんじゃないのかよ……


 くそっ、マジで覚えておけよあのクソ女神!


「これからどうするかな……」

 

 改めて俺の服装を見るが、学校帰りの白い半袖のワイシャツと制服のズボンのままで、持ち物は何もない。一応こちらの世界の言葉を理解できたり、回復魔法を使えるらしいが、あのクソ女神のことだからそれもちょっと怪しい。こういう時は……


「ステータスオープン!」


 ……何も出てこなかった。異世界ものだとステータスとかテンプレのはずなんだけどなあ。ちょっとだけ恥ずかしかったりもする。少なくとも回復魔法だけ使えるかは確認しておきたい。


「……っ!」


 爪を立てて、左手の甲を引っかいてみる。肌が切れて、赤い血が流れてくる。


 当たり前だが普段はこんな自傷行為をしたことはないので、どれくらいの力加減かわからなくてビビってしまい、何度も爪を立ててようやく血が出てきた。


「異世界ものの定番だとやっぱりこれか。ヒール! ……って、おおっ!」


 俺がヒールと唱えると、血が出ていた左手の甲が淡い緑色の光に包まれて、傷口がゆっくりと塞がっていった。どうやら回復魔法のほうは無事に発動してくれているようだな。そして若干ながら魔法を唱えた瞬間に多少の疲労感があった。これが魔法を使うという感覚なのか。


 本当は他にもいろいろと魔法の確認をしてみたいのだが、今ここで魔法のことを確認するよりも、これからどうするかを考えるほうが先だ。


「一応道があるのは助かるな。だけど飲み物がないのはかなりまずい……」


 食料はともかく、人は飲み物がなければすぐに死んでしまうと聞いたぞ。とにかくまずはこの世界の人に会わないと!


 あのクソ女神もこんな森の中じゃなくて、人がいる村や街に移動させろよな。このままじゃ本当にあのクソ女神の言う通り、この世界に来て早々に死んでしまう!


 元の世界では森や山で迷ったら、あまり動かずに助けを待つのが鉄則だが、ここは異世界で助けなど来るはずがないので、自ら動かなければならない。


「とりあえずこの道を進んでみるか……」




「……やった、街が見えた!」


 目の前にあった道に沿って歩くこと30分、ようやく視界の先に街の壁らしきものが見えてきた。


 森や山がない平地のほうの道を選んで正解だったようだ。持ち物が何もない状態だったし、下手をしたらあのクソ女神の言う通り、この世界に転生してきてすぐに死んでしまうところだったぞ。


 盗賊や魔物なんかに出会わなかったのは運が良かったと思おう。しかもこの世界だと男が少ない世界みたいだし、奴隷制度なんかがあったら、男の俺は捕まって売られてしまうかもしれないからな。


「とはいえお金や持ち物もないんだよなあ……街へ入る時にお金が必要とか言われたらどうしよう……」


 というか現状がすでに詰んでいる。お金も持ち物もないし、魔物を狩るような力もない今の状況だと、街に入っても何もできない可能性が非常に高い。あるとすればこのワイシャツと制服のズボンが高値で売れることだが、その可能性も低いように思える。


 あとはこの世界の男性が優遇されるというクソ女神の言葉を信じるしかない。




 街の入り口にある金属製の大きな門、その門の前では衛兵によって街に入る者の確認が行われていた。


 俺の前にいた人たちは金髪だったり、茶髪だったりとどう見ても日本人ではなかった。にもかかわらず、彼女たちの言葉は普通に日本語として聞こえているのは、あのクソ女神が言っていたように、言語を理解するスキルがあるからなのだろう。


 そして何より、俺の2組先にいる獣人の存在が、ここは元の世界とは別の世界であるとはっきり告げている。触ったら間違いなく気持ちよさそうなモフモフの毛並みをした犬の獣人。頭にはピョコピョコと動くネコミミに縞々のネコの尻尾が生えており、二足歩行で歩いている猫の獣人と話をしている。


 どうやらここは本当に異世界らしい。


「次の者、前へ」


「はい」


 俺の番がきて先へと進む。後ろから見ていたが、この街へ入るためにお金は不要なようだが、身分証がない者は門番のチェックを受けてから街の中に入るらしい。


「……見ない顔だな。それに男性がひとりで荷物も持たずに何をしている?」


 この門番の女性は20代前半くらいの女性で、槍を持ち鎧を着込んでいた。身長は女性にしては少し高く、可愛いというよりも綺麗なタイプの女性だ。


 普通門番といえば男のイメージだが、この街の門番は女性しかいない。


 街へ入るために並んでいる列の人も女性ばかりで男性はほとんど見かけなかった。やはりクソ女神に言われた通り、この世界での男性の割合は10人に1人のようだ。


 それにしても鎧姿の女性っていいよね。使い込まれた無骨な金属製の鎧の下に金髪の綺麗な女性が包まれているという、そのギャップがたまらない。

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