第4話 素晴らしい光景
「実は遠い国から来たのですが、この街に来る途中で道に迷ってしまいまして……さらに運の悪いことに、魔物の襲撃にあい、一緒に旅をしていた者とはぐれて持ち物もすべて失ってしまいました……」
とりあえず街に入るため、列に並びながら考えた嘘なのだが通用するだろうか。実際のところ道に迷って持ち物もないし、ひとりという部分はまったく嘘でない。
「……そうか、本当に大変だったな。確かに黒い髪の男性はこの辺りではあまり見かけないし、その服も見たことがない。うむ、通って問題ないぞ」
「ありがとうございます!」
よかった、どうやら無事に街に入れてくれそうだ。武器も持ち物も持っていないし、脅威としては見られなかったようだ。
「だがこの街で行くあてはあるのか? 今のところ君がはぐれたという仲間はこの街に来ていないようだが?」
「いえ行くあてはありません……しばらくこの街に滞在して、情報とお金を集めようと思うのですが、どこか良い働き場所はないでしょうか?」
一応俺は回復魔法を使うことができるが、まだこの世界で回復魔法がどういう立ち位置なのか分かっていないし、できることならまだ秘密にしておきたい。
「ああ、それだったらこの街にある仕事を紹介する場所を案内してあげよう。だが、さすがにもうすぐ夕方だし、すぐに雇ってくれるような場所もないだろうな……」
確かに、すでに日が暮れ始めているし、この時間からそこに行って今日中に仕事が見つかるとは思えない……お金を持っていないし、今日の食事と宿はどうしよう……
「そういえば、ある食事処の店員がひとり怪我をして店に出られなかったな。確か、臨時の給仕を募集していたはずだ。良ければそこに案内しようか?」
「っ!? ぜひお願いします!」
食事処なら、まかないくらいは出るかもしれない! とりあえず今は仕事を選んでいる余裕もない!
「ああ、わかった。おお~い、ちょっとここを代わってくれ!」
門番の人は別の人に事情を説明して交代し、俺をその食事処まで案内してくれるようだ。
「よし、それじゃあ食事処まで案内しよう。私はコニーだ」
「本当にありがとうございます、コニーさん。俺は……トオルといいます」
確か苗字は貴族しかないという可能性もあるんだよな。
「トオルか。今回は災難だった。ようこそオリオーの街へようこそ!」
門を通り、始めて歩く異世界の街はとても新鮮で驚きの光景だった。門の前には多くの人や荷馬車が行きかう余裕のあるほど広い道。その道を歩く人々の格好も様々であった。大きな荷物を背負った商人、農作物をたくさん持った農民、プレートアーマーを身につけた騎士か冒険者。
しかし、その通行人の大多数がやはりと言うべきか女性であった。やはりこの世界は10人に1人しか男性がいない世界のようだ。
うん、これはなんて素晴らしい世界なのだろう! この世界なら元の世界で童貞だった俺でもモテる希望があるかもしれないぞ! 気になるのは俺が受けた呪いというやつだ。今のところ体調的にはまったく問題ないように思えるが、いったいどんな呪いなんだ……
「うわっ!?」
「どうしたトオル、大丈夫か?」
「い、いえ! なんでもありません!」
ブンブンと首を振って、コニーさんに問題ないアピールをするが、内心では全然なんでもなくない!
少し先を歩いてくる女性は冒険者のような恰好をしており、腰にはナイフを携えているのだが、彼女は上に
そして驚くべきことに、そのことについておかしいと思う人が誰もいないのだ。そこに女性の胸が見えているのに、俺のように彼女たちを目で追う男性がひとりもいない。
そうか、男女の貞操が逆ということは、元の世界で言うと男の上半身が裸と同じことなんだな。プールや海で男性が上半身裸でいても女性は気にしないのと同じレベルか!
なんて素晴らしい世界なんだ! これだけ堂々と女性の胸を見ても何も言われないなんて! エロ本や動画で女性の裸を見たことはあるが、実際にリアルな女性の胸を見るのはこれが初めてだ!
「痛っ!?」
「おい、トオル! やっぱり体調が悪いんじゃないか!? 魔物に襲われた時、怪我でもしたか?」
「……いえ、少し頭痛がしただけです。あっ、もう大丈夫になりました」
突然鋭い頭痛がして、その場で少しうずくまったのだが、それもすぐに収まっていった。今まで頭痛なんてしたことがなかったのに、なんだったんだろう。とりあえずすぐに収まってくれたのは助かった。
「お~い、マーリおばちゃん、いるか?」
「なんだ、コニーじゃないか。どうしたんだい?」
連れてきてくれたお店は木造製の建物で看板にはヨーグル亭と書かれている。お店の中から50~60代くらいの女性が顔を出した。
「昨日臨時の従業員を探していただろ。あれってまだ見つかっていないか?」
よかった、コニーさんが先ほど言っていた話は本当だったらしい。俺も馬鹿ではないので、あのクソ女神に騙されたことによって学習した。
コニーさんが俺を騙してどこかに売り飛ばすなんてことも考えたくはなかったが、可能性のひとつとして考えており、何かあったらすぐに逃げ出そうと考えていた。
だがそれも杞憂だったようだ。コニーさんを疑ってしまって、本当に申し訳ない。
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