第20話 お礼


 アンリさんとエルネさんは気絶したルナさんを拘束し、他の2人と一緒に洞窟の中に入れたまま、俺と一緒に一旦洞窟の外に出てきている。


「トオル、状態異常を回復する薬。まずはこれを飲んで」


「ありがとうございます、エルネさん」


 エルネさんから緑色の薬を受け取って飲み込む。すると途端にぼーっとしていた頭がスッキリとして、マイサンもようやく落ち着きを取り戻してくれた。


 それにしても、ものすごい効力だな。もしかしたら、高価な薬だったりするのかもしれない。


「アンリさん、エルネさん。この度は助けていただいて、本当にありがとうございました!」


 アンリさんとエルネさんに向かって深く頭を下げた。


「ああ、気にするな。とりあえずトオルが無事でよかったぜ。遅くなっちまって悪かったな」


「ギリギリになってごめん」


「いえ、何を言っているんですか! 2人のおかげで本当に助かりました。2人が助けてくれなければ、今頃俺はどうなってしまっていたことか……」


 おそらく一時的に最高に幸せな体験を味わうことになるが、その代償として、呪いで俺の身体がどうなっていたのかも分からない。下手をすれば、この呪いで死んでいた可能性だってある。


「実はトオルとパーティを組んでいたあいつらのことを調べていたんだ。どうやら今回と同じようなことを新人の男冒険者や宿の男たちにしていたらしいが、被害にあった男は報復を恐れて訴えられなかったみたいだな」


「相手がCランク冒険者であることと、オリオーの街の権力者だから言い出せなかったらしい」


「なるほど……」


 洞窟の中でルナさんたちが言っていたように常習犯だったようだ。不覚ながら、まったく気付かなかった……


 どうやら女性をチョロいと思っていた俺の方が甘かったらしい。


「アンリさんとエルネさんはAランク冒険者だったんですね。ヨーグル亭で他の冒険者の人と同じように食事をしていたから、そこまで有名な冒険者だとは思っていませんでした」


「あの店は私たちが駆け出し冒険者になってからの行きつけのお店」


「おう、俺たちがまだ金のない時から世話になっていたからな。たまには寄ることにしているんだ」


「なるほど、そうだったんですね。でも、どうしてルナさんたちを調べていたんですか?」


 もしかしてAランク冒険者って衛兵の手伝いなんかもしているのかな?


「えっと、そいつはあれだ。なあ、エルネ!」


「……マーリからお願いされた。トオルが冒険者になるから気をかけてやってほしいと」


「本当ですか! マーリさんにはあとでお礼を言っておかないと!」


「陰から見守ってほしいと言われていたから、マーリにお礼を言う必要はない」


「なるほど、分かりました」


 そういえばヨーグル亭の女主人であるマーリさんと2人が仲良さそうに話しているのを見たことがある。2人が駆け出し冒険者のころからお世話になっているということは、マーリさんとは長い付き合いなのだろう。


 それにしても、マーリさんのおかげで本当に助かった。まさかわざわざAランク冒険者である2人にそんなことをお願いしてくれていたとは!


(さすがエルネ。ナイスな言い訳だぜ!)


(まさか、トオルがあまりにも綺麗な男だったから、周りのことをこっそり調べたとは言えるわけがない……)


(一歩間違えれば、俺たちがストーカーだもんな。だけど結果オーライで、うまくトオルには恩を売れたみたいだぞ)


(あとはどうやって例の話に持っていくか……)


(確かに恩があるとはいえ、難しそうだよなあ……)


 なにやらアンリさんとエルネさんで話をしている。女同士でなにか話すことがあるのかもしれない。


 それにしても困ったな。この2人には本当にお世話になったのに、お礼に返せそうなものが何もない。俺が持っているわずかなお金もAランク冒険者の2人にとってははした金だろうからな


 ……いや、もう直接本人たちに聞いてみよう。


「アンリさん、エルネさん。今日は本当に助かりました。お礼をしたいのですが、手持ちも少なくて、お礼できそうなものを持っていないんです……あの、何か俺でも2人のためにお礼できることはないでしょうか!」


「「……っ!?」」


 なぜか2人が驚いた顔をする。


「い、いや、別に礼なんていらねえぜ!」


「う、うん。私たちは当然のことをしただけ!」


「アンリさん、エルネさん……そう言ってくれるのは嬉しいですが、命の恩人に何も返せない方が辛いです! 何か俺にしてほしいことはないですか? 俺にできることなら何でもします!」


「「な、何でも!?」」


 なぜかまた驚愕する2人。


 うっかり、お礼は俺の身体でなんて言えるほど、俺はうぬぼれてはいないぞ。いくら他の女性にちやほやされているとはいえ、ついさっき調子に乗って痛い目を見たばかりだからな。


「ト、トオルみたいな綺麗な男が何でもするなんて言うものじゃない。でもそれだったらひとつだけお願いしたいことがある」


「そ、そうだな。トオルがそこまで言うのなら、ひとつだけトオルに頼みたいことがある」


「本当ですか! 俺にできることなら、何でも言ってください!」


 アンリさんとエルネさんは互いに顔を見合わせてから、俺の方を真っ直ぐと見る。


「俺たちのパーティに入ってくれないか!」


「私たちのパーティに入ってほしい!」


「………………えっ!?」

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