第19話 Aランク冒険者
「バインド!」
「んなっ!?」
「なっ、なんだこれは!?」
「こ、拘束魔法!?」
俺のズボンに手がかけられ、俺の貞操が絶体絶命のまさにその瞬間、突如地面から3本の鎖が現れ、その鎖が3人をグルグル巻きにして拘束した。
「えっ……」
何が起こったのかさっぱりだが、もしかして俺の貞操――はどうでもいいんだけど、俺の命は助かったのか?
「くそっ、そこにいるのは誰だ!」
鎖で縛られたルナさんが後ろの方を振り向く。
素肌の上から鎖でグルグル巻きに縛られている巨乳の美人てエロ過ぎる……いや、そんなことを考えている状況ではないことは分かっている。これはきっとメラルさんの男を発情させる魔法のせいに違いない!
……うん、きっとそうだ!
「ったく、男を複数人で襲うとは女の風上にも置けねえやつらだな」
「……完全に同意。女の腐ったようなやつら」
なんとか鎖で拘束されたルナさんの下から脱出すると、洞窟の入り口に2人の女性が立っていた。
鮮やかな橙色をした瞳と同じ色のポニーテールをたなびかせている女性。その大きな胸は黒いバンドのような服で押しつぶしても、なおその大きさを強調している。両手には金属製の籠手、そしてその右手には長身の身の丈と同じくらいの大きな大剣を片手で軽々と持っている。
もう一人の女性は赤い髪の女性と比べるとかなり小柄で、細くスラリとした可愛らしい女性だ。輝くような金色 髪をツインテールにまとめており、青く透き通った宝石のような碧眼をしている。右手には魔法の杖のようなものを持ち、漆黒のローブを身にまとっている。
「アンリさん、エルネさん……?」
そう、この2人は俺が給仕をしていたヨーグル亭の常連さんの冒険者であるアンリさんとエルネさんだ。
「おう、トオル。災難だったようだな」
「……無事で何より」
やっぱりアンリさんとエルネさんで間違いないようだ。それにしても、どうしてこんなところに?
「くそっ、なんだよこれ! こんな拘束魔法の鎖がなんで引きちぎれねえんだ!」
「ぐっ、なんて強度だ! 相当な魔力が込められていやがる!」
ミーニさんとメラルさんが拘束魔法による鎖を引きちぎろうと暴れているが、この鎖の強度は相当なもののようで、引きちぎれずにいる。
「ぐうう……舐めるなよ! フィジカルブースト!」
バキンッ
「身体能力強化魔法か」
エルネさんが放ったっと思われる拘束魔法による鎖を、ルナさんが無理やり引きちぎった。ルナさんは自身の身体能力を強化する魔法を使える。ただでさえ、強い身体能力を持ったルナさんの力が数倍に引きあがった。
「エルネ、俺が行くから下がっていろ」
「了解」
「ふんっ、この拘束魔法は術者を倒せば解けるのだろう!」
ルナさんはアンリさんの方ではなく、拘束魔法を唱えているエルネさんへと一直線に駆ける。そのスピードは身体能力強化魔法で強化されているため、俺の目にはほとんど捉えることができなかった。
「死ねっ!」
「………………」
ルナさんのロングソードが迫るが、エルネさんは微動だにしない。
「がはっ……」
「えっ……」
思わず声が漏れた。エルネさんに迫っていたはずのルナさんがいきなり洞窟の壁へと吹き飛ばされた。
「はんっ、口ほどにもねえな」
見るとアンリさんがその大きな大剣を振るっていた。どうやらその大剣の側面の部分でルナさんを打ち付けたらしい。そしてルナさんはアンリさんのたった一撃で、地面に伏せたまま起き上がってこない。
アンリさんの動きはほとんどどころか、俺にまったく捉えることができていなかった。
「ば、馬鹿な! ルナの野郎がたった一撃だと!?」
「それにこの拘束魔法、かなりの魔法の使い手だぞ!?」
そうだ、この3人はオリオーの街の中でも指折りのCランク冒険者。2人は不意打ちだが、ルナさんを真正面からたったの一撃で戦闘不能にしていた。もしかしてこの2人は強い冒険者なのか?
「……っ!? おっ、おい! この橙色の髪の女と漆黒のローブの女、まさかこいつら、Aランク冒険者じゃねえか!」
「な、なんだと! なんでそんなやつらがこんな場所に!?」
「えっ……!?」
アンリさんとエルネさんがAランク冒険者!?
Aランク冒険者とは冒険者の中でも最高ランクの冒険者だ。聞いた話だと、王都ならともかく、王都から離れたこのオリオーの街では一人見かけるかどうかのレベルらしい。
いやいや、嘘だろ。まさかそんな高ランクの冒険者がヨーグル亭のような安い食事処に来るわけがない。
「私たちのことを知っているなら、話は早い。これ以上の抵抗は無駄、次に暴れるようなら命の保証はしない」
「ああ。次は真っ二つにぶった切ってやるからな」
「うぐっ……」
「ひいっ!?」
アンリさんが睨むとミーニさんとメラルさんが震え上がる。どうやら圧倒的な2人の力を前に、完全に戦意を失ってしまったようだ。確かにアンリさんがその気になっていれば、今頃ルナさんはあの大剣で真っ二つだったもんな……
どうやら俺は助かったらしい。
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