第21話 雑用係


 今アンリさんとエルネさんの2人はなんて言った?


 いやいや、さすがに今のは俺の聞き間違いだろう。なんたって2人は冒険者の中でも最上位に位置するAランク冒険者。冒険者になったばかりで、Eランク冒険者に上がれるかどうかの俺なんかを誘う理由がこれっぽっちもない。


「……あの、どうやら聞き間違えてしまったみたいです。すみませんが、もう一度いいですか?」


「俺たちのパーティに入ってくれないか!」


「私たちのパーティに入ってほしい!」


「………………」


 どうやら俺の聞き間違いではなかったらしい。いったいどういうわけだろう。Cランク冒険者たちを圧倒できるAランク冒険者のこの2人が俺なんかを冒険者パーティに誘うなんて。


 さすがに先ほど俺を助けてくれたこの2人が何か悪いことを考えている可能性はないだろう。というか今なら、男の俺一人なんて煮るなり焼くなり自由にできる。だけどこの2人が俺をパーティに誘う理由がさっぱりわからない。


「えっと、俺は少し前に冒険者となったばかりの新人ですよ。それに俺は男でまだ回復魔法くらいしかまともに使えないですし……」


 自分で言っていて悲しくなってくるが、俺はまだペーペーのペーペーだ。この1週間でようやくゴブリンくらいは倒せるようになったが、一般的な冒険者の実力とは比べるまでもない。


「言い方は悪いかもしれないけれど、戦闘力的には私とアンリだけで十分。でも私たちは全然料理ができないし、身の回りの雑事が少し苦手。それに私は攻撃魔法を使えるけれど、回復魔法は使えない」


「そういうことだ。もちろんちゃんと報酬は払うぞ。少なくともさっきのやつら以上の報酬は約束するぜ」


「なるほど……」


 ふむふむ、そういうことか。


 簡単に言ってしまえば、身の回りのことを行う雑用がほしいというわけだな。2人はAランク冒険者だし、泊りがけで依頼をこなすことも多々あるだろう。こちらの世界では家事を基本的には男性がやるものだから、女性で料理ができない人も少なくない。


 俺も最近ではヨーグル亭の接客だけではなく、簡単な料理も手伝っているから、雑用ならできそうだ。それに回復魔法が使えるから、普通の雑用よりもまだマシという判断なのかもしれない。


 更に報酬もくれるというのだから、俺的にはまったく問題ない。そしてなにより、この俺のくそったれな呪いを解く手段も、この2人と一緒にいた方が集まる可能性も高く、俺としては願ったり叶ったりだ!


「わかりました。俺なんかでよければ、2人のパーティにぜひ入れてください!」


「ほ、本当にいいのか!」


「私たちのパーティに入ってくれるの!」


 なぜかまたしても驚く2人。


「はい。……でも、アンリさんとエルネさんはAランク冒険者ですし、たとえ料理や雑事だけの募集でも大勢の冒険者が希望しそうですけれど?」


「ああ……いや、前に何度か人を雇ったこともあったんだが、ろくなやつがいなくてな」


「報酬を誤魔化して横領しようとしたり、お金に目がくらんで私たちを裏切ろうとした……」


 おっと、いきなり2人が遠い目をし始めた。どうやら前の雑用係がいろいろとやらかしたらしい。


「失礼しました。もちろん俺はそんなことしませんよ。助けていただいた恩をお返しするために頑張ります!」


 ルナさんたちとのパーティは当然解散だし、今日みたいなことがあって、新しいパーティに入れてもらうのも少しためらうところだったから、パーティに誘ってくれてとても助かる。


 危ないところを救ってくれた2人なら信用もできる。というか、今やろうと思えば、ルナさんたちに罪をかぶせて、俺なんてどうにもできるもんな。


 助けてくれた2人に少しでも恩を返せるように頑張ろう。


「そ、そうか。本当に助かるぜ。よろしくな、トオル!」


「これからよろしく、トオル!」


「こちらこそよろしくお願いします!」


 アンリさんとエルネさんと握手をした。


「それじゃあ、あいつらを洞窟から連れてくるから、少しだけ待っていてくれ」


「はい、わかりました」


 2人が洞窟に拘束しているルナさんたちを連行するために洞窟へと入っていった。





――――――――――――――――――


「さすがエルネだぜ! 誤魔化すどころか、まさかトオルみてえな綺麗な男がパーティに入ってくれるとはな!」


「身の回りのことをしてくれるなら、断然男のほうがいい。それにトオルの手料理が毎日食べられるなんて最高!」


「おお、男の手料理を毎日食べられるなんてな! こいつらには逆に感謝しなくちゃいけねえかもしれねえ。ああ、でもトオルに悪いか。この周辺をしらみつぶしに探していたら、本当にギリギリになっちまって、トオルには怖い思いをさせちまったもんな」


「こいつらみたいな男の敵はここで埋めてもいい気もする」


「確かにな。だが、一応はこの街の領主の関係者だし、面倒だけど街まで連行しねえと。それに他のやつらだとこいつらにもみ消される可能性もあるから、俺たちがきっちりと処理しておかねえとな」


「こういう時にAランク冒険者の称号は便利。でもそんなことより、トオルみたいな綺麗な男と結婚してさっさと引退したい」


「ちげえねえな。まあ、トオルがパーティに入ってくれるわけだし、俺たちみたいな女にもチャンスくらいはあるだろ」


「トオルは私たちみたいな女には不釣り合いな男だけど頑張る」

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