第22話 パーティハウス


 そのあとアンリさんとエルネさんと一緒に俺へ暴行を加えようとしたルナさんたち3人を拘束したまま、オリオーの街まで連行していった。ちょうど門番はコニーさんで、本当に俺のことを心配してくれていた。


 相手がこの街の領主の関係者ということもあって、事情を細かいところまで聞かれていろいろと大変だった。しかし2人がAランク冒険者だったこともあって、規定通り裁かれることになるらしい。


 実際のところ、あいつらを連行したのが俺や普通の冒険者だったら、お金や権力によってもみ消されていた可能性も十分にあった。この世界の権力マジ怖い……


 だいぶ時間はかかったが無事に解放されてヨーグル亭へと戻ってきた。どうやら、ルナさんたちはどこかの炭鉱で強制労働になる可能性が高いらしい。この世界での婦女暴行……ではなく男性に暴行を加える行為はかなりの罪になるようだ。他にも余罪があったらしいから、同情の余地は欠片もないけどな。


 ヨーグル亭に戻ってからは俺のことを心配してくれていたマーリさんたちにお礼を伝えた。特にマーリさんはこっそりと俺のことを心配して、アンリさんとエルネさんに俺のことを頼んでくれていたらしいからな。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ふあ~あ、よく寝た」


 昨日はあんなことがあったというのに、ぐっすりと眠ることができた。まあ、俺にとっては怖いというよりもおいしい経験だったからな。


 しかし、こんな素晴らしい世界というのに、この呪いだけは本当に辛いぜ……早くこの呪いを解く方法を探さないとな。




「それではマーリさん、レイモンさん、本当にお世話になりました!」


「こっちこそ、トオルのおかげでお客さんが増えて本当に助かったよ。アンリとエルネのとこなら大丈夫だと思うが、何かあったら、いつでも戻ってきてくれていいからね」


「ああ、トオルなら大歓迎だ」


 今日からお世話になったヨーグル亭から出る。アンリさんとエルネさんはこの街にパーティハウスを持っているらしいので、そこでお世話になる。さすがAランク冒険者だよな。


 いきなり右も左も分からないこんな世界にやってきて、持ち物やお金がない状況から、俺がまともな生活を送れてきたのは門番のコニーさんとこの2人のおかげだ。本当に感謝している。


「ありがとうございます。また人手が足りなくなったら、いくらでも手伝いますから声をかけてくださいね」


「ああ、その時は頼むよ。身体には気を付けるんだよ」


「怪我をしないように頑張るんだぞ」


「はい!」


 ヨーグル亭での生活も悪いものではなかった。それこそ、この呪いのことがなければ、ずっとここで働いてもいいと思えるほどにな。ここで出てくるご飯はおいしいし、アンリさんとエルネさんもこの店の常連だし、今度はお客さんとしてもまた来るしよう。




「エルネさん、アンリさん、今日からお世話になります!」


「……うん、今日からよろしく、トオル」


「こちらこそよろしく頼むぜ、トオル」


 教えてもらっていた地図を頼りに2人のパーティハウスへとやってきた。


 目の前にある2人のパーティハウスは普通の一軒家だ。さすがに数人で生活するため、そこまで大きな屋敷というわけではないようだ。


 ……というか、今冷静に考えると、この綺麗な女性2人と一緒に暮らすということになるんだよな。今更だが、前世では彼女なんていたことがない俺にとってはかなりハードルが高くないか?


 一緒のパーティハウスで生活するのは本当に大丈夫かと2人に何回も確認された。俺としてはむしろこちらがいいのかと聞きたくなってしまったが、こちらの世界では男性が女性の家でお世話になる方が珍しいんだよな。


「さあ、中を案内するぜ」


「こっち」


 2人に案内されてパーティハウスの中へ入る。1階は大きな居間、キッチン、トイレ、水浴びをする浴室といった共同で生活するスペースとなっている。2階には各々の個人的な部屋が5つある。


 なんだ、もしかしたらパーティハウスはとても汚れているのかと思ったら、全然そんなことはなかった。


「あっちが私の部屋で、その正面がアンリの部屋。トオルの部屋は一番奥のこの部屋を使って」


「えっ!? こんな立派な部屋をお借りしてもいいんですか!」


 俺の部屋として案内された部屋はヨーグル亭で借りていた部屋よりも、広くて立派な部屋だった。


「ああ、どうせ部屋は余っているからな。そ、それよりも、これから一緒に生活するんだから、もっと気楽に接してくれた方が嬉しいぜ」


「私たちのことは呼び捨てで呼んでほしい」


 そういえばこの世界では名字がないため、お互いフランクに名前で呼ぶことが多い。だいたいの人は俺のことをそのままトオルと呼び捨てで呼んでいる。


 確かに雑用とはいえ、これから長時間お世話になるわけだし、あまり畏まりすぎるのもよくないかもしれない。


「わかったよ。アンリ、エルネ、改めてよろしくね」


「お、おう!」


「う、うん!」


 自分たちで言いながら、少し照れている2人。そういう俺も同年代の女性を呼び捨てで呼んで、若干照れてしまった。

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