第23話 初仕事
「よし、食材とかはこれくらいでいいな」
「これで十分」
パーティハウスを案内されたあと、アンリとエルネと一緒に街へ出て、必要な調理器具や食材の買い出しへとやって来た。2人が料理できないというのは本当のようで、パーティハウスにはまともな調理器具や食材がなかった。
ヨーグル亭ではマーリさんと一緒に買い出しの手伝いもしていたから、こちらの世界の食材についての知識も多少は身についている。
「あっ、俺も荷物を持つのを手伝うよ」
「大丈夫、女として男に荷物を持たせるわけにはいかない」
「エルネの言う通り、荷物は俺たちに任せておいてくれ」
「……えっと、それじゃあこっちの小さい荷物だけは持つね」
どうやらこちらの世界では買い物の際、女が荷物を持つのが当然のことらしい。とはいえ、俺も元の世界の男としてのプライドはまだ残っているので、小さい荷物だけは死守した。悲しいことに俺よりも2人の力の方が強いのは事実だからな……
アンリの方はいつものバンドを巻いただけの服装だが、籠手などの防具は外しており、身の丈ほどある大剣もパーティハウスに置いてきている。ミルネの方はいつもの杖を持っているが、漆黒のローブは着ておらず、薄着の格好だ。
なんだか、綺麗な2人と一緒にデートをしているようで、ものすごくドキドキした。こんなことで、この2人と一緒に生活することができるのか、若干……いや、かなり心配だ。
昼食は屋台で簡単なものを食べ、いろいろな物を買い込み、パーティハウスへと戻ってきた。そしてそのまま今後のことについて話し合った。
「うん、明日からはこんな感じで行動しよう」
「ああ、了解だぜ」
「ごめん、2人にはしばらく面倒をかけるね」
ルナさんたちの事件があったとはいえ、ワイルドボアの討伐の依頼は無事に達成され、俺はEランク冒険者に昇格した。とはいえ、Eランク冒険者はまだまだ駆け出し冒険者なので、まずは俺をDランク冒険者まで上げることを優先してくれるそうだ。
俺がある程度の冒険者であるDランク冒険者に昇格してから、本格的に2人の冒険者としての活動をサポートするという話になった。
「それを承知でトオルをパーティに誘ったんだし、問題ない」
「ああ、トオルは気にしなくてもいいぜ」
「うん、エルネもアンリもありがとう!」
明るい笑顔でそう言ってくれる2人には感謝しかない。ルナさんたちのパーティで殿プレイをしていた時も多少は心苦しかったが、今回はそれ以上に申し訳なく思う。
とはいえ、俺も急に強くなれるわけがないことは十分に自覚しているから、今の自分ができることに全力で取り組むしかない。
「よし、そんじゃあ明日からよろしく頼むな。っと、そろそろ腹が減ってきたし、飯の準備を頼んでもいいか?」
「うん、もちろんだよ!」
さて、いよいよ俺の初仕事だ。当分は戦闘面で役に立つことができそうにないし、料理や雑務で頑張るとしよう。
「うおっ、うめえ!」
「すっごくおいしい!」
「よかったあ。おかわりもあるから、遠慮なく言ってね」
今日俺が作った料理はから揚げだ。どうやらこちらの世界ではまだ揚げ物料理が広まっていないらしく、から揚げなんかは屋台では売っていなかった。
砂糖とコショウは多少高かったものの、油なんかはそれほど高くなかったので、揚げ物料理は十分に商売になるかもしれない。とてもお世話になったヨーグル亭の2人にはお礼としてレシピを教えたから、もう少ししたらヨーグル亭でも提供され始めるかもな。
元の世界の料理のレシピを売ってお金を稼ぐという商売もありかと思ったが、どうやらこちらの世界ではレシピの特許や商標なんかの販売はしていないようだ。
すぐに大きな商店に真似られてしまうのがオチだろう。それだけならまだいいが、調子に乗っていくつもレシピを提供すれば、後ろ盾のない男一人なんて、この世界ではどうとでもなるからな。少なくとも今は身近な人と楽しむくらいにしておくのがいいだろう。
「トオル、おかわり!」
「トオル、こっちもだぜ!」
「了解」
2人とも、本当に良い食べっぷりだな。こちらの世界では女性の方が食べる量は多いらしい。それにしても、エルネさんは普段表情の起伏がそれほどないと思ったのだが、本当においしそうに食べている。
もしかしたら、おいしい食べ物には目がないのかもしれない。
前世では家の手伝いで料理を手伝ったりしていたのが、まさか異世界で役に立つとは思っていなかった。母さんには感謝しなければならないな。
「いやあ、それにしても本当にうまかったぜ!」
「うん。屋台の料理よりもおいしかったし、初めて見る料理だった!」
「2人の口に合って良かったよ。これはから揚げと言って、俺の故郷の料理なんだ」
「男の手料理ってだけでもすげえのに、本当にうまかったぞ!」
「トオルは料理上手。良い婿になる!」
「……えっと、それは良かった」
確かに元の世界では女の子の手料理ってだけで、当社比1.5倍くらいおいしく感じるよね。
あとエルネのそれはたぶん誉め言葉で言っているんだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます