第40話 手の温もり
俺の視線の先にはテントの天井が映っている。すでにテントの外は真っ暗になっており、俺の身体には毛布が掛けてある。
「く~く~」
「す~す~」
そして俺の両隣からはすでに眠ってしまった2人の寝息が聞こえてくる。
野営のテントの中でどう寝るかという話で少し揉めたが、結局俺の両隣にはアンリとエルネが寝ることになった。
盗賊や魔物が襲ってきた時のために対処できる者がひとりはいた方が良いという話になり、隣に寝る人を俺が選べという無茶ぶりに対して、結局誰かひとりを選ぶことができなかったので、アンリとエルネの2人にお願いすることとなった。
……さすがにこの状況で誰かひとりを指名するなんてことは俺にはできない。デジテさんについては夜に何をするか分からないという理由から全員で却下することになった。この呪いさえなければ、むしろデジテさんにお願いしたいくらいなんだけれどね。
「………………」
いや、この状況で普通に眠るのは健全な男子高校生にとってはなかなかにハードルが高い。いくら広いテントで一日中慣れない馬車に乗って疲れているとはいえ、両隣の方を向けば、美女と美少女の寝顔が見える中で図太く寝られるほど、俺は枯れてはいないぞ。
しかし、こんな状況の中で何もしないのは逆に失礼なんじゃないとも思う。特に2人には俺の事情を伝えているわけだし、ほんの少しだけ身体に触れるくらいなら頭痛もしないし、許されるんじゃないかという淡い期待もあったりする。
2人とも俺にここまでしてくれているわけだし、多少は好意を持ってくれているはずだ! ……はずだよね?
というわけで、寝たふりをしながら、毛布の下でゆっくりと両手を2人の方へ移動していく。大丈夫、手を触れるくらいだけだ。それなら俺もそこまで興奮しないし、呪いは発動しない。呪いがストッパーとなってくれるから、今だけは呪いがあったとも思えるな。
「「「……っ!?」」」
俺の両手の先に人の肌へと触れる感覚があった。それと同時に身体がビクッと跳ねるが、それは俺だけではなかった。
俺の両手は少しだけ進んだところで、アンリとエルネの手の甲に触れた。それはつまり、2人も俺の方に向かって手を伸ばしていたということになる。さっきまで聞こえていた2人の寝息も聞こえなくなったし、2人とも寝たふりをしていたみたいだ。
どうやら俺を含めて、手に触れるくらいなら大丈夫だろうと、2人とも同じ発想をしていたらしい。
「………………」
ビクリとはしたものの、まだ2人の手の甲の感触が残っている。さすがに手に触れただけで呪いは発動しないみたいだ。とはいえ、俺の心臓はものすごくドキドキしているから、この呪いは性的な興奮に反応するのかもしれない。
女性ばかりの世界にやってきても、これくらいのことでドキドキしてしまうのは悲しい童貞男子の性である。
……2人とも手を離す気はないみたいだし、俺もこのまま手と手が触れた状態でいいか。この呪いが解けたら、これからどうするかも考えないといけないな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ああ、もうこんな時間か。朝日がとっても眩しいね。みんなそろそろ起きようか」
「……おはようございます」
「……ああ、おはよう」
「……おはよう」
デジテさんの言葉で体を起こす俺たち。
案の定というか、アンリとエルネも、昨日はそれほどよく眠れなかったようだ。異性の隣で、しかも手に触れながら眠るのって意外とハードルが高いんだな……
この世界にやってきて、女性の胸を見たり触ったりしてきた俺だが、そのあたりは何ひとつ成長していないみたいだ。
簡単な朝食を食べてから、すぐに馬車でコーデリックの村へ向けて出発する。予定通りにいけば、今日の日が暮れる前には村に到着する予定だ。
「おお、まだ少し先だけれど、コーデリックの村の村が見えてきたよ。どうやら無事に日が暮れる前に到着したみたいだね」
「おっ、ようやく見えてきたか」
「何事もなくて何より」
馬車にある窓から先を見ると、確かに何やら木の柵でできた囲いが見え、そして見張りが数人いることを確認できた。どうやら無事に村まで到着したみたいだな。
「……だけどちょっと様子がおかしいね。なにやら村が少し騒がしいみたいだ。前に来た時、こんなことはなかったんだけどね」
「えっ!?」
「確かにな。村の入り口に村の人が集まっているみてえだし、歓迎されているような雰囲気でもなさそうだ」
「うん、少し様子がおかしい。何があってもいいように、戦闘態勢はとっておいた方が良い」
無事に村まで到着できたのはいいが、何やら村の様子がおかしいらしい。みんな冒険者としての経験は俺とは比べ物にならないとはいえ、少し遠くから見ただけで、よくそんなことが分かるな。
呪いを解いてもらいに来ただけなのに、戦闘の可能性があるのは少し怖い……
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