第7話 天職の候補


「お、俺だって処女なんてさっさと捨ててえよ! でもそんないい男なんていねえんだよ!」


「俺の村なんか同世代の男なんて、ひとりもいなかったんだぞ!」


 そうか、男女比が偏っていると、そういうこともありえるのか……


 思春期の学生時代に同年代の異性がいないのはさすがに辛い。確かにそんな環境なら経験をしたことない女性が大勢いるのも仕方のないことなのかもしれない。


「まったく、男性ならともかく女の処女なんてなんの価値もないっていうのにね」


「くそ、これだから男と結婚できた勝ち組ってやつは! 俺も男とお付き合いしたい!」


「あ~あ、俺も一度でいいから童貞の男とヤってみてえぜ! そんでもって複数の男と結婚したい! ハーレムを作って10人くらいの婿がほしい!」


 なるほど、どうやらこの世界では処女であることはむしろ良くないことらしい。逆に男性は童貞のほうがより価値があるようだ。改めて考えると、本当にとんでもない世界だな……


 そしてこの世界では重婚が可能なようだ。さすがに男女比がこれほど偏っていると、子孫を残すことも考えて重婚を可能にするしかないのかもしれないな。


 しかしこの世界なら元の世界ではまったくモテなかった俺でもハーレムを作れるかもしれない! ……いや、こっちの世界だと逆ハーレムということになるのか。


 なんだか、ややっこしいな


「まったく、変に処女をこじらせる前にさっさと娼館にでも行けばいいのにね。変にプライドだけはあるんだから……」


「う、うるせえよ!」


「この街には女性用の娼館なんてものまであるんですか!?」


 娼館と聞いては黙っていられない! なにせ女性用ということは、男性が複数の女性を相手にするということなんじゃないか?


「おっと、トオルちゃんの前でこんな話をして悪いね。あることにはあるけれど、トオルちゃんみたいな可愛い男には縁のない場所だよ」


「そうそう。娼館にいるの男なんてジジイやデブしかいないからな! トオルみたいな可愛い男だったら、他にいくらでも稼ぐ方法はあるよ。むしろなんでこんな寂れた飯屋にいるのか分からないだぜ」


「大きなお世話だよ。まあ確かにこんなにこんな綺麗な男がうちで働いてくれるとは思ってもいなかったけれどね。ほら、もういいだろ。トオルも仕事に戻りな」


「はい」


 それにしても女性用の娼館か……女性とヤれてお金をもらえるなんて最高すぎるな! この世界では綺麗な女性が多いし、いろんな種族の女性もいるし、俺にとっては最高の天職かもしれない。とりあえず仕事の候補のひとつとして十分に検討させてもらうとしよう!




「トオル、お疲れさま。初日なのに疲れただろう。あとはいいから今日はもう休みな」


「ああ、トオルが来てくれてとても助かったよ。お客さんからの評判もいいし、明日からは噂を聞いた他のお客さんも増えるだろうね。明日からもよろしく頼むよ」


「こちらこそ雇ってくれて本当に助かりました。明日からもよろしくお願いします」


 1日目の給仕の仕事が無事に終わった。給仕の仕事は思ったよりも忙しかったが、マーリさんとレイモンさんはとても優しかった。


 何度かお客さんからデートのお誘いを受けたが、すべて断らせてもらった。本当ならばすぐに飛びつきたいところだったが、今日この世界に来たばかりで、この世界の常識というものが圧倒的に欠如しているからな。


 もう少しこの世界に慣れてからでないと簡単に騙されてしまいそうだ。……いや、騙されて襲われるくらいならむしろドンと来いなのだが、下手をしたら誘拐されて身ぐるみ剝がされたりと、それだけですまない可能性も十分にある。


 この世界では女性のほうが力や権力もあることだし、多少は慎重に行動したほうがよさそうだ。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……やっぱり夢じゃなかったか」


 目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。昨日泊まった空き部屋の天井だ。ベッドはとても固かったが、おなかをすかせてお金や持ち物が何もない状態で野宿するよりも何十倍もマシである。


 このお店を紹介してくれたコニーさんや俺を雇ってくれたマーリさんとレイモンさんには本当に感謝しなければならない。


「おはようございます」


「おはよう、トオル」


「ああ、おはよう。ちょうど朝食ができたところだ。一緒に食べよう」


「ありがとうございます」


 下の階に降りると、2人ともすでに起きていて、いい匂いがしてくる。昨日はお腹いっぱい食べさせてもらったが、その後にだいぶ働いたこともあって、朝からお腹はペコペコだ。


 レイモンさんが作ってくれた朝食はお腹が空いているのでとてもおいしく食べられた。


「昼からは仕事に出てもらうけれど、午前中は自由にしてもらっていいからね。私は仕入れのために市場へ行くけれど、もしよければトオルも一緒に来るかい?」


「はい、ぜひ一緒に行ってみたいです!」


 レイモンさんはここに残って昼からの仕込みがあり、マーリさんは食材を仕入れに市場へ行くそうだ。俺も異世界の街にはとても興味があるので、マーリさんに同行させてもらうことにした。


「それじゃあ昨日の分と、今日の分の給料も先に渡しておくよ。持ち物が何もないなら、替えの服とかは買っておいたほうがいいかもね。古着だったら安い物もあるだろうし、その店にも案内するよ」


「はい、助かります!」


 異世界の街かあ、それはかなり楽しみだな!

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