最終話 責任


「トオル、大丈夫!?」


「えっ……痛たたた!」


 俺も今の今までかなりの興奮状態にあったため、頬にまだ刺さったままのナイフのことを完全に忘れていた。本気で痛みを忘れることなんてあるんだな!


「ヒール! ヒール! ヒール!」


 急いでナイフを引き抜き、何度も回復魔法を自分の頬に重ねがける。3度ほど繰り返すと痛みは引いて、手で触ってみると、傷跡もすっかり消えていた。最悪傷跡は残ってもいいくらいの力で突き刺したのだが、この世界の回復魔法は本当に優秀だな。


「うん、なんとか大丈夫みたい。ほら、傷跡もちゃんと消えているみたいだよ」


「……トオル!」


「うわっと!」


 いきなりエルネが抱き着いてきた! 小柄だが、女の子特有の柔らかなあちこちの感触が全身に伝わってくる。


 あっ、これ無理! さっきはそんな状態じゃなかったから、興奮している暇はなかったが、今は決着がついたこともあって、むしろ今まで以上に興奮する! それになんだかいい匂いもするし!


「痛ててて!」


「トオル、大丈夫! まだどこか痛むの!」


「痛ててて、違うから! 今は別の理由で痛いから、ちょっとだけ離れて!」


「……そうだった、ごめん!」


 俺の呪いのことを思い出したようで、ようやくエルネが離れてくれた。いや、こっちも嬉しいんだけど嬉しくないような……


「おいこら、エルネはこっちを手伝え!」


「そうだよ、エルネだけずるいよ! 僕もトオルとハグしたいのに!」


「……分かった、今行く」


 盗賊たちをひとりずつ拘束しているアンリとデジテさんから不満の声が上がり、渋々ながらそちらを手伝いに行くエルネ。


 ふう~どうやら盗賊たちから村を守り切ることができたようだ。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ったく、トオルがあれほど頑張ったってのに、結局呪いは解けなかったのかよ……」


「まさか、ルベルの解呪魔法でも解けないとはねえ……これは確かに王都にいる教皇様か伝説級の魔道具じゃないと呪いは解けなそうだよ……」


 コーデリックの村で盗賊たちと戦った3日後、俺たちは来るときに乗ってきた馬車に乗って、オリオーの街まで帰っている道中だ。


 あのあと女盗賊たちを全員しっかりと逃げ出せないように拘束した。この女盗賊たちは後ほど、やってくる街の騎士団に引き渡され、取り調べの後罪に応じて死罪や鉱山などで強制労働の刑に処されるらしい。


 そして無事に盗賊たちを捕まえたということで、ようやくルベルさんによる解呪魔法を試してもらったのだが、残念ながら俺の呪いは解くことができなかった。多少予想はしていたとはいえ、とても残念だ。


「まったく、役に立たない情報だった。この発情ネコは本当に使えない」


「ああ。戦闘でもまったく役に立たなかったしな」


「ひどい!」


 相変わらずエルネとアンリはデジテさんに厳しい。


「まあまあ、2人とも。デジテさんのおかげで、あの村の人たちは誰も傷付かなかったんだし、今回はそれで良しとしようよ」


「……まったく、トオルはお人好しだな」


「……でもそんなところがトオルらしい」


「そう言ってくれるのはトオルだけだよ! 本当に天使みたいな男性だ。トオル、僕と結婚して――ふげっ!?」


「調子に乗ってんじゃねえ!」


「発情ネコは大人しく馬車を運転してて!」


 容赦のない2人のツッコミが前で御者をしているデジテさんに入る。


「それにしてもトオルの綺麗な顔に傷が残らなくて本当に良かったぜ」


「少しでも傷が残っていたら、あのラウレとかいう女は殺していた。それに完全に油断していた私たちの責任でもある」


「2人とも大げさすぎるよ。さすがに村の中に内通者がいるなんて誰にも分らないからね。……でもちょっと残念だな、少しでも傷が残ったら2人に責任を取ってもらいたかったのに」


「「せ、責任!?」」


 なんてな。こっちの世界では男のほうが少ないから、女性が男性の顔を傷付けたところで、そんなことにはならないだろうけれど。


「俺の故郷だと、昔は異性を傷付けたら、その責任を取って結婚しなくちゃいけないみたいな風習があったんだよ」


「「け、結婚!」」


 さすがに今ではそんな風習はないけれどな。それにこの怪我は別の2人の責任というわけじゃない。


「そもそも俺には呪いがあるから、誰かと結婚できる日がくるのかさえ分からないけれどね……」


 まあ、この呪いがある限り、女の子とイチャイチャすることなんてできないし、結婚なんて夢のまた夢だな。


「ちょっと待って! 責任なら僕にもあるよ! だから結婚して僕と一発――ふぎゃあ!?」


「いいからお前は黙っておけ! 結婚……」


「結婚……」


 なぜか2人は顔を赤くしながら黙ってしまった。


 本当にアンリやエルネみたいな優しくて綺麗な美女と結婚できたら、本当に最高なんだけれどなあ。


 どうにかしてこの呪いを解いて、この素晴らしい世界を心の底から楽しみたいところだ。


―完―




※ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました!


 この作品はノクターンのコンクール用に書いた作品で、1冊分の約10万字を超えつつ、この先が書けるような形で完結しております。ちょっと物足りないと思われた方は申し訳ございません。


 来週13日の0時よりカクヨムコンテスト9用の新作を3作品投稿予定ですので、そちらもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

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【完】男が少ない貞操逆転世界に転生して冒険者になったら、簡単にハーレムを作れると思っていた時期が俺にもありました… タジリユウ@3作品書籍化 @iwasetaku0613

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