第46話 覚悟


「くそっ!」


「おっと、動くんじゃねえ! お前らがAランク冒険者だってことは分かっているんだ。少しでも何かしようとしたら、すぐにこいつをブッ殺してやるぜ!」


 そう言いながら、俺の首元にナイフを突きつけるラウレ。確かにどんなにアンリが速くても、エルネの魔法の詠唱速度が速かったとしても、さすがにこの状態ではラウレが俺の首元にナイフを突き立てるほうが速い。


 ……首元にナイフを突きつけられては、さすがの俺もビビりまくっている。その証拠にさっきからラウレの胸が俺の首元に押し付けられているというのに呪いは発動していない。


 いくら俺でもこの状況では性欲よりも恐怖の方が勝るらしい。そして性欲と恐怖の狭間でなぜか妙に冷静になってしまっている。


「こいつらはAランク冒険者だったのか。さすがにあのまま戦っていたら危ないところだったぜ」


「へへっ、うまくいきましたぜ。それにしても本当に綺麗な男だな! 早くめちゃめちゃに犯してやりてえぜ!」


 そう言いながら左腕を俺の首に回し、右手で持ったナイフを俺の首元に突き付けながら、自らの身体や股を俺の身体に押し付けるラウレ……


 あっ、ちょっ!? これ以上は俺の呪いが発動しちゃうから、今は本当にやめてって!


「てめえ……!」


「トオルから離れろ!」


 アンリとエルネが声を荒らげるが、さすがにこの状況では2人とも動くことができない。


 真剣に怒ってくれている2人の姿を見て、俺も何とか気を静める。いかんいかん、今はそんな状況じゃない!


「ちっ、この状況じゃあこの村は諦めるしかねえな。おいてめえら、さっさと他の連中を起こせ。さっさと撤収するぞ!」


「お、おう!」


「分かりました!」


 どうやらこの女盗賊たちはこのまま俺を人質に取りながら、アジトへ撤退するようだ。


「てめえら村の連中にはいつかこの礼をきっちりとさせてもらうからな! くっくっく、冒険者の連中はざまあえねえな。お前らの男は俺たちがアジトでたっぷりと可愛がってやるぜ。まあ、安心しろ。こんないい男は絶対に殺しはしねえからよ。せいぜいあてもなく俺たちのアジトを探してみな」


「……くそっ」


「……殺す」


 まずいな……このまま俺が人質に取られている限り、みんなは手を出すことができない。こいつらをこのまま逃がしてしまったら、みんながいなくなった間に盗賊たちはこの村を襲うだろう。もちろん次は交渉などなく、問答無用で女性は殺されて、男性は非道の限りを尽くされるだろう。


 そして俺の方はというと、この女盗賊たちのアジトへ連行され、こいつら全員に犯され続けてしまう。


 ……意外と悪くないんじゃね、とか一瞬でも考えてしまった自分が憎い!


 落ち着け俺! 呪いのこともあるし、俺は女性に責められるよりも、女性を責めたいんだ! いや、そんな俺の性癖のことはどうでもよくて、俺はなんとしても呪いを解いて、この素晴らしい世界で女の子とイチャイチャしながら暮らすんだ!


 そのためには多少の無茶だってしてやろうじゃないか!


「おいラウレ、ゆっくりとこちらに来い。てめえらはそこを一歩も動くんじゃねえぞ!」


「くっ……」


「ちくしょう……」


 俺が女盗賊たちに引き渡されてしまうここが最後のチャンスだ。この機会を逃せば、もうチャンスはない! 男なら覚悟を決めていけ!


「うああああ!」


「んなっ!?」


「トオル!」


 俺はラウレが首元に突き付けてきていたナイフに向けて、自分の頬を自ら突き刺した。


 痛い!


 今までに感じたことのない鋭い痛みが頬に走り、口の中に血の味が広がる。手加減などせずに思いっきりいったため、口の中にまで貫通してしまったようだ。


 だけどこれまで冒険者ギルドでひたすら限界ギリギリのところで鍛え続けてきたんだ、これくらいの痛みなら耐えられる!


「な、何をしていやがる!?」


 自らの頬を傷付けるという行為によって、ラウレに一瞬隙が生じた。この世界では男性が自らの顔を傷付けるなんて行為をするはずがないと、みんなが思っている。


 先ほどまで女性のものとは思えない力で俺の首元を絞めていた左腕の力が緩む。その隙に左腕を振りほどき、驚愕しているラウレの顔に思いっきり右ストレートを放った。


「ぐはっ!」


 これでもルハイルさんにみっちり鍛えられてきたんだ。アンリたちみたいに何メートルも吹き飛ばすことはできなかったが、ラウレを後ろにのけぞらせるくらいのことはできた。


 そして当然追撃などはせずに、みんながいる後ろの方に走り出した。


「クソが!」


 しかし、敵のボスの反応も早かった。俺が行動を起こした時には、もうすでにこちらに向かって走り出していた。


 このままでは追いつかれてしまう!


「バインド!」


「ちっ、なんだこりゃ!?」


 だが、すぐに行動を起こしていたのはボスだけではなかった。エルネの拘束魔法が発動し、地面から出てきた鎖がボスの身体に絡みつく。


「くそっ、邪魔だ!」


 その鎖を強引に引きちぎる。Cランク冒険者のルナさんでさえ、身体能力強化魔法を使って破るのがやっとだったエルネの拘束魔法を腕力だけで破ったのだ。力だけならルナCランク冒険者以上ということだ。


「終わりだ!」


「なに!? がはっ!」


 しかし、拘束魔法でできた一瞬の隙により距離を詰めていたアンリの大剣がボスを襲う。とっさに巨大な斧で防御をしたようだが、アンリの一撃はその斧を一刀両断した。


「ちく……しょう……」


 防御した斧ごと両断されたボスの身体から血が流れた。


「急所は外れているみてえだな。悪運の強いやつだぜ」


「お、お頭がやられちまった……」


「も、もう無理だろ、これ……」


 人質に逃げられ、ボスを失った他の女盗賊たちは完全に戦意を喪失していた。


「大人しく投降したまえ、そうすれば命までは取らないよ!」


 周りにいた村人たちも動き出し、鍬や鎌や弓を持って残った盗賊たちを取り囲む。


「わ、分かった、降参する!」


「頼む、命だけは助けてくれ!」


 武器を捨てて投降する女盗賊たち。どうやらボスを失って完全に抵抗する気はないようだ。確かにあの女ボスは相当強かったようだからな。

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