第45話 形勢逆転
「……ったく、敵の力量も見極められねえ雑魚どもが」
苦い顔をしながらつぶやく盗賊たちのボス。どうやら彼女は戦わずとも、みんなの実力がある程度分かるらしい。
「多少は腕に覚えがあるみてえだな。大方、冒険者か騎士くずれってところか?」
「まあ、そんなところだ。そう言うてめえらはC……いや、Bランク冒険者ってところか。まったく、なんでてめえらみてえな面倒臭え連中がこんな寂れた村にいるんだよ……」
残念、アンリとエルネはAランク冒険者冒険者だ。さすがの盗賊たちのボスも、こんな場所にAランク冒険者がいることは想像なんてできなかったようだな。
「無駄な怪我をしないうちに投降したほうがいい。そこのやつみたいになる」
エルネが指差す先には先ほど吹っ飛ばされて起き上がることのできない盗賊がいる。
「……確かに1人でも面倒なのに、そんなんが3人もいれば、まともに戦えば俺らに勝機はねえだろうな」
どうやらあの女盗賊のボスも多少は強いようだが、それ以外の女盗賊たちにそれほどの力はないらしい。こちらには高ランク冒険者のみんながいるし、後ろには鍬や鎌を持った村の人たちも大勢いる。
敵の数も30数人ほどに減った今、もはや完全に勝負は着いたように見える。
……ただ、相手のボスがまだ余裕のあるように見えるのが少し気になるな。
「ちっ、しょうがねえな。ここは引き分けということにしかねえか? 俺たちは撤退するし、もうこの村には手を出さない。それで手打ちってことでどうだ?」
「この状況でそんなことを許すと思う?」
「そもそも君たちがそんな約束を律儀に守るような女には見えないね。どうせ僕たちがいなくなったらこの村を襲うだろうし、この村に手を出さなくても他の村を襲うんだろう? そんなことを許すと思うかい?」
デジテさんの言う通り、この女盗賊たちがそんなことを守るとは到底思えない。それに守ったとしても他の村が襲われてしまうわけだし、そんなことを許すわけにはいかない。
「……まあ、そうだよな。だが、これを見てもそんなことが言えるかな?」
なんだ、まだ何か奥の手があるのか? これ以上何をする気なんだ?
全員の視線が女盗賊のボスに集中する。
「てめえら、動くんじゃねえ!」
「痛っ!?」
前方の女盗賊に集中していたところ、なぜか後ろから身体を引っ張られた。そして首元に冷たい刃物の感覚が突き付けられる。
「んなっ!? ラウレ、何をしておるんじゃ!」
「てめえ、トオルに何をしやがる!」
村長とアンリがこちらに振り向いて声を上げる。
何が起こったのか、俺自身が理解していない。俺の後ろには村の人たちしかいなかったはずだ。盗賊たちが村の後ろから侵入した? いや、それなら俺の後ろにいた村の人たちが先に気付くはずだ。
俺の首に左腕を回し、右手で持ったナイフを俺の首元に突き付けたラウレと呼ばれる20代の女性。彼女はこの村の女性だ。
「ラウレ……貴様まさか裏切りおったのか!」
「へへ、悪いな村長。俺はこんなちっぽけな村で終わるような女じゃねえんだよ! 好きなもんを食って、自由に男を抱けるくらいビックな女になるんだ!」
「くっ……」
左腕を首に回されてナイフを突きつけられては手も足も出ない。それにこの世界では男の俺よりも女の人のほうが力は強い。冒険者ギルドで鍛錬をしてきたとはいえ、素の力だけなら農業や狩りをしてきた女性の方が強く、俺の力では振りほどけない。
「……まさか村の内部に裏切者がいるなんて」
「くっくっく、残念だったな。今回はこの村を攻める前に運よく1人を買収することができた。昨日連絡がなかったから、こちらが裏切られたのかと思ったぞ」
「す、すみません! 一昨日にこいつらがいきなり村に現れて、昨日いきなり巨大な罠を作り始めやがったんだ! それをずっと作らされていたから、村の外に出てみなさんに報告できなかったんです!」
「そういうことなら仕方がねえな。だが、さっきのは良かったぞ。おまえのおかげで、そこの罠にかかることはなかったからな」
裏切者のラウレを褒める盗賊団のボス。
そうか、さっきギリギリのところで罠にかからなかったのは、ラウレが後ろから何らかのサインを送って、女ボスに地面が怪しいということを伝えたに違いない。
「ありがとうございます! この黒髪の男はその3人の冒険者パーティです。人質としての価値は十分にあると思いますぜ!」
「ほう、確かに極上の男じゃねえか! 良くやった。お前にはあとで相応の褒美をくれてやるからな」
「は、はい! ありがとうございます!」
まさか村の中に盗賊の内通者がいるなんて、思いもよらなかった。3人も俺が人質に取られて、完全に動けなくなってしまっている。
「さて、形勢逆転だな」
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