第16話 冒険者としての日々


「はい、エール2杯お待たせしました。そういえばここ数日は見かけませんでしたね」


 それまでは毎日決まった時間に来てくれていたこの2人だが、ここ最近は見かけていなかった。


「ああ、依頼でしばらくこの街を離れていたからな。それより他のやつらに聞いたけれど、トオルは冒険者になったのか?」


「はい。ちょっとした事情があって、お金を稼がなくちゃいけないんですけれど、他のお金を稼げる仕事だといろいろと問題がありまして……」


 教会で回復魔法使ってお金を稼ぐのが理想なんだけれど、特大の呪い持ちはさすがにお断りなんだよね……


 他にも夜のお店なんかはお金を稼げるうえに、女性とイチャイチャできる俺にとっては最高の仕事なんだが、この呪いのせいで女の子に触れて興奮すると頭痛がしてしまうからな。


 元の世界の知識を使って稼ぐにしても、軍資金や人脈が何もない状態かつ男一人で手を出すのはリスクが高すぎるもんな。


「まあ冒険者なら危険のある分、一攫千金を狙えるからな」


「……確かに冒険者には夢がある。トオルはもうパーティには入ったの?」


「はい、ありがいことにとある冒険者パーティが誘ってくれまして」


「ちっ、先を越されたか!」


「私たちが街を離れていた隙に……」


 どうやら2人も俺が冒険者になったら、パーティに誘ってくれてるつもりだったらしい。


「トオル、こっちにエール3杯おかわりを頼むぜ!」


「は~い、ただいま! アンリさん、エルネさん、ごゆっくりどうぞ!」


 他のお客さんに呼ばれたので、席をあとにする。さて、本格的に忙しくなってきたぞ!




「トオルくん、今日はもうこの辺で大丈夫だよ」


「ありがとうございます、ミーナさん。それでは先に失礼します」


 ミーナさんは俺がこの店でお世話になる前から働いてきた20代の女性だ。怪我が治ったので、この店に復帰している。


「マーリさん、レイモンさん、お先に失礼します」


「ああ、お疲れ。今日も助かったよ」


「明日も気を付けるんだぞ」


「はい、ありがとうございます」


 冒険者の活動は朝早くから行われるため、このお店の手伝いは夕方からの一番忙しい数時間で上がらせてもらう。


 依頼をこなしてお金を稼ぎつつ、高額な依頼を受けるために冒険者としてのランクを上げて王都を目指し、この呪いを解くことができる可能性のある教皇様に会えるような実績か大金を得るのが理想だな。


 あるいはその間に呪いを解くことができる魔道具の情報なんかが手に入ればなおよしだな。


 道は遠く険しいが、この世界で俺が女性とヤるためになんとしても頑張るしかない!






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 俺が冒険者登録をしてから1週間が過ぎた。今のところのこの世界での生活は順調そのものだ。


「トオル、おはよう」


「朝食はできているよ」


「マーリさん、レイモンさん、おはようございます」


 俺は相変わらずヨーグル亭でお世話になっている。もうだいぶお金も貯まってきたし、ここを出てもいいのだが、この食事処のまかないのご飯は他の屋台の料理なんかよりもおいしいし、数時間お店を手伝うだけで宿代と食事代が浮くからそのままお世話になっている。


「うん、今日のご飯もとてもおいしいです! でも、このままずっとお世話になっていても大丈夫なんですか?」


「ああ、トオルが来てくれてからお客さんがだいぶ増えたからね。特にトオルが働いてくれている時間帯のお客さんはいつもの倍以上だからね」


「そうだな。それに仕事の覚えもいいし、助かっている」


 確かに言われてみると、俺がここで働き始めたころと比べるとだいぶお客さんが増えた気もする。最近は常連さんもだいぶ増えてきた。もちろん俺という看板息子(?)がいるという理由だけではなく、元々この食事処の料理はとてもおいしいからな。


「ありがとうございます。それじゃあ今日もまた夕方までには戻ってきますので」


 朝食をいただいて片づけをした後は、防具に着替えて冒険者ギルドへと向かう。

 



「おはようございます、ルナさん、ミーニさん、メラルさん」


 冒険者ギルドへ入ると、待ち合わせをしていたパーティメンバーのルナさんたちと合流する。


「今日はどうする。ワイルドボアの討伐依頼あたりでどうだ、トオル?」


「うん、みんながいれば大丈夫そうだもんね」


「おう、俺たちがいりゃあ余裕だぜ!」


「トオルは俺たちが守る!」


 相変わらず、俺は冒険者パーティの姫プレイでルナさんたちのお世話になっている。


 とはいえ、俺も1週間前と比べると、だいぶ冒険者としての経験と知識を積んできた。一応日々の鍛錬のおかげで、ゴブリンくらいなら俺一人でも倒せるようになっている。


 さすがにワイルドボアを一人で倒すのは難しいが、俺は後衛職なので、基本的に直接魔物と戦うことはない。最近ではむしろ、直接魔物と戦うことがないような立ち回りをするようになっている。


「ありがとう。みんなのおかげで、もう少しで俺もEランクに上がれそうだよ」


 普通の冒険者ならEランクに昇格するまでにもっと時間がかかるものだが、みんなのおかげで少し危険な討伐依頼も余裕かつ早いペースで達成することができ、もうすぐ昇格できそうだな感じだ。


「そんなことはないぞ。これもトオルの実力だ。さあ、今日も頑張ろうぜ!」

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