第17話 豹変
「ミーニ、1体そっちにいったぞ!」
「おう、任せとけ!」
「フゴオオオオ」
「おらあ!」
ワイルドボアの突進をミーニさんが盾で受け止めて弾く。ワイルドボアは巨大なイノシシで、その鋭い牙での突進をまともに受けてしまえば、大怪我を負うこと間違いなしである。
ワイルドボアの討伐推奨ランクはDランクなので、俺1人では間違いなく勝てない。そもそも俺にはまともな攻撃手段がないからな。
とはいえ、ルナさんたちは全員がCランク冒険者なので、ワイルドボアが数匹いても問題ない。
「ナイス、ミーニ! いくよ、ウインドカッター!」
「フゴオォ!?」
メラルさんの風魔法がワイルドボアの身体を切り刻み、ワイルドボアの身体のあちこちから血が流れだす。
「よし、これで止めだ!」
「フゴオオオ!」
ルナさんの止めの斬撃により、ワイルドボアのその巨体が地面へと沈む。
「よし、これで倒せたようだな」
「ワイルドボアが立て続けに現れた時は少し焦ったぜ!」
「皆さん、とっても格好良かったです! 怪我はないですか?」
「ああ、こっちは大丈夫だ」
「おう、かすり傷だから大丈夫だぜ」
「ミーニさん、血が出ているじゃないですか!?」
「ああ、さっきのワイルドボアの突進がかすっちまったみたいだな。こんなもんは唾を付けときゃ治るぜ」
「すぐに治療します、ヒール!」
俺が回復魔法を唱えると、ミーニさんの腕の傷がゆっくりと塞がっていく。
今の俺の回復魔法だと、そこまで大きな怪我を治すことができない。どうやらこの世界にはレベルのようなものはないようだが、魔法を使用すればするほどその練度は上がっていくらしい。
回復魔法を使うと多少の疲労感があるので、寝る前に自分で指に傷を付けて回復魔法を使って練習をしている。その甲斐もあってか、回復魔法の回復量も少し上がり、新しく解毒魔法を使うことができるようになった。
「おう、サンキューなトオル!」
「ミーニさんこそ、庇ってくれてありがとうございます」
「どうってことねえぜ」
盾役のミーニさんが敵を引き付けつつ、ルナさんとメラルさんが敵を攻撃するといった陣形だ。今のところ俺は回復魔法しか使えないが、このままみんなの援護をし続ければ、援護魔法を覚えることができるらしい。
できることなら、それに加えて遠距離攻撃も使えるようになりたい。一歩ずつ強くなっていかないとな。
「さすがにワイルドボアを2匹倒せばランク昇格は間違いないな」
「はい! 皆さん、俺の依頼に付き合ってくれてありがとうございます」
冒険者の依頼はそれぞれにポイントがふられており、ポイントが規定以上貯まるとランクが昇格するという仕組みだ。当然ランクが上がれば上がるほど、その分昇格に必要なポイントは高くなる。
「はは、いいってことだよ」
「ああ、俺たちもパーティに一人でも回復魔法の使い手がいるとだいぶ楽になるからな」
「おう。それに可愛い男がパーティにいるだけで、俺たちのやる気も上がるぜ!」
「もう、本当に上手ですね、ミーニさん。みんなとても優しくて、パーティを組めて本当によかったと思っていますよ」
「へへっ、こっちこそな」
そして相変わらず俺はパーティ内で持ち上げられていた。午前中とはいえ、いつも俺の依頼に付き合ってくれているみんなにはとても感謝している。
「よし、これで解体作業は終わったな。ほら、トオル、荷物は俺が持つぜ」
「こっちは俺が持つから貸してくれ」
「うん、いつもありがとう」
「そんじゃあ、街へ戻るか」
相変わらずみんな優しいな。いつものように解体した魔物の素材を持ってくれている。戦闘にも役に立たない俺をいつも助けてくれて、本当に感謝している。
みんなさえよければ、仮じゃなくて正式にみんなのパーティに加入してもいい気もしてきた。
そして、俺の呪いを解いて、そのまま3人とゴールインなんてハッピーエンドを迎えられたら最高だ。ランクも昇格することだし、そろそろみんなに俺の呪いのことを打ち明けてもいいのかもしれないな。
「あれ、今日はいつもと違う道を通っていくんだね?」
「……ああ、こっちの方が街まで近いんだぜ」
「……そうだな。こっちの道だと少し街まで近いんだよ」
「そうなんだ。みんな物知りなんだね!」
帰りは来た道とは違う道を通って街まで帰るようだ。なんだか街からは遠ざかっている気もするが、みんなに任せておけば大丈夫だろ。
「へえ~こんなところに洞窟があるんだ」
しばらく歩いたところ、岩場に人が通れるくらいの大きな洞窟が見えた。元の世界を合わせても、自然にできた洞窟を見るのはこれが初めてだ。
「……ああ、突然雨が降った時とかにはあそこで休憩するんだ。ついでに少し休憩すっか」
「了解です」
どうやらあの洞窟で少し休憩するらしい。
「洞窟の中はだいぶ広いんですね」
「「「………………」」」
「あれ、皆さん、どうかしました?」
「「「………………」」」
……あれ、どうしたんだ。なぜか洞窟に入ってからみんな何もしゃべらない。というか、今日は少しみんなの様子がおかしい気がする。
「くっくっく、どうやらまだ状況が分かっていねえようだな」
「ああ。さすがにここまで無警戒だとは思っていなかったな。信用させるために1週間も必要なかったんじゃないのか?」
「確かにそうかもしれないな。だけど今まで出会った中でも最高の男だ。念には念を入れておいたほうがいいさ」
「えっ……!?」
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