第36話 呪いの専門家
「トオルはもう寝たか?」
「上の階に上がってしばらくしたからもう寝てると思う。最近は毎日副ギルドマスターの訓練でヘトヘトになって帰ってくるから」
「まあ、そのおかげもあって、もうすぐDランク冒険者に上がれるらしいな。午前中の依頼もゴブリンやホーンラビットなんかはもうひとりで倒せるようになっていたし、あとはワイルドボアがひとりでも倒せるようになれば十分だろ」
「Dランクに上がれば、予定通り私たちのパーティに正式に加入しても問題ないし、ある程度の実力があれば、この街の外に出ても問題なさそう。それにしてもトオルは男なのに成長が早い。それか副ギルドマスターの訓練がよっぽど効率的かのどちらか」
「その両方かもしれねえな。何にせよ、男なのに大したやつだぜ」
「それに毎日の料理や片付けに掃除や洗濯まで、本当に何でも一生懸命にやってくれる。トオルはいい夫になる」
「ああ。パーティハウスに帰ると男が迎えてくれる生活ってのは本当に最高だぜ!」
「あとはトオルの呪いさえ解ければ完璧」
「そうだな、それさえなければトオルにもっと迫るんだけどよ。トオルの呪いが発動しない程度にアピールはしているんだけどな」
「トオルも私たちを多少は意識しているみたいだし良い傾向。呪いの解除方法については今のところ魔道具か王都の教皇様が有力。それとそろそろこの街に呼んでいた
「ああ、あいつか。呼んでおいてあれだが、あいつに頼るのはなあ……」
「こればかりは仕方がない。少なくとも私たちよりも呪いには詳しいはず。それにどちらかといえば最近は副ギルドマスターのほうが怪しい」
「なにっ!? いや、いくら何でも男にまったく興味がなかったあのジスエルだぞ!」
「この前こっそりトオルと話していた時に顔を赤くしているのを見た。あれは完全にメスの顔をしていた」
「なんだと、やべえじゃねえか!」
「とはいえ、トオルがDランクに上がれば副ギルドマスターとは関わりがなくなるから問題ない。今後はトオルの呪いを解くためにこの街を離れることが多くなりそう」
「そういやそうか。何にせよ、早くトオルの呪いを解いてやりてえところだぜ」
「このまま引き続き、トオルの周りの女を近付けさせずにいこう!」
「おう、了解だぜ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「トオル、今日の訓練は休んでくれた?」
「うん、エルネ。ちゃんと昨日ジスエルさんに伝えておいたよ」
今日も午前中の依頼を無事に達成することができた。今日で冒険者ギルドの副ギルドマスターであるジスエルさんとの訓練が始まってから約10日が経過している。あの訓練のおかげで、俺もスライムどころか、ゴブリンをもひとりで倒すことができるようになっていた。
最初は人を害する魔物であるとはいえ、その命を奪うことを躊躇してしまったが、魔物を逃せば代わりに周りの人たちを傷つけることになると言われてからは躊躇しなくなった。
熟練の冒険者であっても、たった一度の油断ですべてを失うというと聞いた時にはどんな相手でも決して油断しないと心に決めたものだ。
ジスエルさんにはもう少しでDランク冒険者に上がれそうだと教えてくれた。けれど昨日はアンリとエルネから、今日の訓練は休むように伝えておいてくれと言われたので、今日は休むとジスエルさんには伝えてある。
「呪いに詳しい専門家の知り合いが来てくれるんだよね?」
その理由は2人の知り合いである呪いの専門家が離れた街からこの街にまでやってくるからだ。わざわざ時間をかけてこの街に来てくれたその専門家にも感謝はしているが、何よりわざわざその人を呼んでくれたアンリとエルネにはとても感謝している。
この呪いは一筋縄ではいかないいことはわかっているが、それでももしかしたら今日でこの呪いとおさらばできるかもしれないという希望があるだけで、ワクワクしてきた。
できるだけ気を付けていたが、この10日間で何度呪いが発動したか分からないからな……本当にこの呪いはきつすぎる……
「ああ、俺たちの知り合いで、そいつ自身もBランク冒険者なんだ。魔道具や呪いについての知識は間違いなく俺たちよりもあるんだが、少し……いや、かなり変わったやつでな、一応気にとめておいてくれ」
「変わった人か。うん、大丈夫だよ」
俺から見たら、ある意味この世界にいる人は全員変わった人になるからな。それにヨーグル亭に勤めていた時や冒険者として活動してから多くの人と関わったし、よっぽどな人じゃなければ大丈夫なはずだ。
「やあやあ、初めまして。君が噂のトオルだね。僕はデジテだよ、よろしくね!」
「初めまして、トオルです」
パーティハウスにやってきたのは灰色の毛並みをしたネコの獣人女性だった。小柄なエルネと長身のアンリのちょうど間くらいである、この世界の女性の平均くらいの身長でその頭からはモフモフした耳と、後ろからは長くユラユラとしたネコの尻尾が生えている。
この世界には獣人と呼ばれるイヌやネコなどの動物の特徴を持っている種族が存在する。人族と比べるとその割合は少ないが、まったく見かけないというわけではない。
獣人個人によって、その毛並みなどは異なるが、デジテさんはネコミミと尻尾が生えている以外は本当に人族と同じに見える。
なんだ変わった人と聞いていたが、自分を僕と呼ぶ僕っこ以外に変なところはなさそうだ。
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