第30話 セクハラ


「それじゃあトオル、また後でな」


「あとで迎えに来る」


「さすがに迎えは大丈夫だよ。また、あとでね」


 午前中はアンリとエルネと一緒に防具を見て回り、そのまま冒険者ギルドへとやって来た。俺はこのまま冒険者ギルドでいつもの訓練をさせてもらい、2人は俺の呪いを解くための情報収集をしてくれる。本当にありがたい限りだ。


 ちなみに俺はまだ正式には2人のパーティには加入していない。以前のパーティですら、Eランク冒険者の俺とはランクが離れすぎていたのに、さすがにAランク冒険者2人と一緒のパーティに入るのは早すぎる。


 基本的にパーティを組む際にランク差の制限みたいなものはないが、対外的に他の人に良く見られないだろうからな。なぜか2人は俺を早くパーティに入れたがっていたような気もするけれど、今まで以上に迷惑をかけてしまいそうだから断った。誘ってくれた2人のためにも早く力を身に付けたいところだ。




「こんにちは」


「ああ、こんにちは。トオル、今日も熱心だね」


「はい、早く周りの人たちに追いつきたいですからね!」


 冒険者ギルドの奥にある訓練場へ行くと、いつものように冒険者が10人近くいる。俺に声をかけてくれた彼女はDランク冒険者のコレットさんだ。


 コレットさんは一般的な冒険者と呼ばれるDランク冒険者になっても、毎日訓練場に顔を出している先輩さんだ。性格はとても真面目で、俺も何度かアドバイスをもらったことがある。


「あれ、今日はいつもと教官が違うんですね」


「そうだね。いつもの教官は休みで、臨時の教官が来てくれているみたいだよ」


 この訓練場では元冒険者の冒険者ギルド職員が教官として、希望した冒険者を訓練してくれるというサービスがある。冒険者に登録していれば誰でも無料で利用できるので、とても便利なサービスになっている。


 いつもは40代くらいの教官が教えてくれるのだが、今日は別の教官が指導をしてくれているらしい。臨時の教官は30代くらいの茶髪の女性だ。


「今はランドンが相手をしてもらっているんですね」


 今臨時教官が相手をしているのはランドンだ。ランドンは俺と同じでこの冒険者ギルドでは数少ない男性冒険者だ。彼も俺と同じEランク冒険者で、Dランク冒険者の女性複数人とパーティを組んでいる。


 同じ男性冒険者で年が近いうことで、この世界で数少ない俺の友人だ……ごめんちょっと見栄を張った。俺の唯一の男友達になる。


「……あれ、今日は弓じゃないのか」


 ランドンは弓をメイン武器として使っている冒険者のはずだ。基本的に男性は回復魔法を使う俺やランドンのように後方から支援する役割を担うことが多い。


 この世界では力の弱い男性が真正面から女性とぶつかるとほとんど勝てないからな。魔法や遠距離攻撃で味方を援護するという動きが基本となるわけだ。


「私もさっき来たばかりだから分からないけれど、接近戦の訓練をしているのかな?」


 コレットさんもちょうど今訓練場に来たばかりらしい。確かに弓使いでも、場合によっては予期せぬ接近戦をすることはあるだろうから、接近戦の訓練も大事だ。


 俺も基本的にこの訓練場では防御や回避の練習を中心に行っている。


「……あれっ?」


 ランドンは一旦動きを止めて、臨時教官が木でできた短剣の構えを教えているようにも見えるが、なにやら様子がおかしい。


 よく見ると、臨時教官はランドンの腰に手を回してランドンの尻を撫でまわしている。ランドンも嫌そうにしているので、これは完全にセクハラだ。


 こっちの世界では女性が男性を触るのがセクハラだから逆セクハラじゃあないんだよな。いろいろとこんがらがってくるよ。


「……彼も面倒な教官に捕まったみたいだね。一応駄目元で他のギルド職員に伝えてくるよ」


「はい」


 やはりあれはセクハラだったようだ。とはいえこの世界だと、男性へのセクハラとかは日常茶飯事だからな。俺も食事処に勤めていた時は何度か女性のお客さんに尻を触られたことがある。


 とはいえ、この国ではまだその辺りの軽いセクハラを罰するような法律は整備されていないらしい。そういえば元の世界でも、セクハラという言葉が出てきたのは結構最近だったと聞いたな。


 臨時教官は短髪で少し背が低い女性だが、十分に綺麗な女性だ。彼女にニヤニヤされながら、尻を撫でまわされてセクハラされるなんて、元の世界で一部の性癖を持っている人なら、逆にお金を払ってでもお願いしたいことかもしれない。


 だけどこっちの世界だと男性にとってはつらいことなんだよな。ランドンも嫌そうな顔をしているものの、彼は大人しい性格をしているから、臨時教官に言い出せないでいる。


 なんだか、元の世界で痴漢されている女の子を見ているようで、あまりいい気分はしない。よし、ここは別に女性にセクハラされてもまったく気にならない俺の出番だ。


「すみません、教官」


「ああん、なんだ?」


 さすがに俺が近付いていくと、臨時教官はランドンの尻から手を引っ込めた。セクハラが中断されて、ランドンがの尻から手を引いたことにより、多少イラつきながらこちらに振り向く。

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