第29話 防具


「すごく大きなお店ですね」


「そりゃこの街では一二を争うくらいには大きな鍛冶屋だからな」


 アンリとエルネと話しあって、俺の呪いを解くための情報収集は2人に任すこととなり、まずは俺の冒険者ランクと実力を上げるという話に落ち着いた。


 奇しくも以前と同様に、午前中は依頼をこなし、午後は冒険者ギルドにある訓練場で訓練をすることとなった。そのあとはパーティハウスでも2人が戦闘の訓練をしてくれることになる。


 冒険者のランクをDランクより上に上げるためには、依頼をこなすだけじゃなくて、ある程度の実力も必要になるらしいからな。


 そして依頼は明日から受けることにして、今日は俺の防具を整えるために鍛冶屋へとやって来た。


「これくらいの胸当てはあった方がいい」


「……さすがにちょっと立派過ぎないかな?」


「武器はともかく、防具は何かあった時のために、できるだけ丈夫なやつはあった方がいいぜ。金のことなら、俺たちはかなり稼いでいるから心配するなよ」


 ……う~ん、エルネとアンリもそう言ってくれるのは嬉しいけれど、この鍛冶屋に置いてある防具はとんでもなく高いんだよな。いや、防具はまだいい。問題はここに置いてある武器だ。


 どの武器も金貨100枚を楽に超えている。今の俺のランクであるEランク冒険者だと、どんなに頑張っても1日金貨1枚ほどしか稼げないから、一番安い者でも生活費を切り詰めても手に入れるのには何か月もかかる代物だ。


「武器の方はこっちの魔法が込められている魔剣なんかがいいんじゃねえか?」


「ええっ、金貨300枚!? さすがにこんな立派な剣は必要ないよ!」


「この辺りの魔剣だと、そこまで大した魔法は打てねえぞ。この街じゃ売ってねえが、王都なんかじゃこの十倍以上するような魔剣も売っているからな」


「十倍って……とにかく、今の俺にはここまで立派な武器は必要ないからね」


 いくら俺でもこんなものをポンと受け取る気はない。ただでさえ、前回の冒険者パーティで殿プレイをしていたことを反省しているわけだし……


 やっぱり俺には殿プレイなんかは無理だな。そんなに高い物を無料で受け取るなんてことはそう簡単にはできない。実際のところ、受け取る側になったら、かなり気を遣ってしまうんだよね、これが……


「護身用とはいえ、過ぎた力は危ないから、トオルにまだ武器は必要ないと思う。だけど軽くて丈夫な防具は絶対にあったほうがいい。特にトオルは回復魔法を使えるわけだから、致命傷を避けるためにも防御力を上げるのは必須」


「なるほど……」


 そういえばルナさんもそんなことを言っていたな。男を襲うような彼女たちだったけれど、冒険者としての腕は確かだったのかな。ちなみにルナさんに貰った防具のほうは新しい防具を購入する際に買い取ってもらう予定だ。


 正直なところ、防具としてはあの防具で大丈夫なのだが、さすがに襲われた相手に貰った防具をそのまま付け続けるのはちょっとあれだからな。


 ……ルナさんたちは今頃どこかの施設で強制労働をしているのだろうか。


「それにしても防具にもいろんな形や素材なんかがあるんだね。へえ~面白いなあ」


 以前に駆け出し冒険者用の武器と防具を置いてある店に行ってみたことはあるが、その時は本当にシンプルで安い武器や防具なんかしか置いていなかった。


 しかし、この店では様々な種類の防具が置いてある。金属製の防具に魔物の鱗や皮なんかを使った防具、全身を金属製の鎧で包むフルプレートアーマー、身軽さを重視した軽そうな防具などなど、これぞまさにファンタジーの世界の武器と防具だ。


「えっ、さすがにこれは防具って言えるの?」


 俺が見つけたとある装備。それは本当に大事な場所だけを隠しただけのビキニのような防具だった。


 むしろビキニアーマーなんかよりも露出の激しい防具である。さすがにこれを着ている女性を見たら、俺の呪いが発動すること間違いなしだ。


「……トオルには似合うと思うけれど、さすがにこの防具は攻めすぎ」


「……ああ。もちろんトオルには似合うだろうが、ちょっと刺激的すぎるな」


「えっ、この防具ってなの!?」


「当たり前だろ。こんなのを女が着ていたらただの変態じゃねえか!」


「間違いなく街の衛兵に逮捕される!」


「………………」


 どうやらこっちの世界だと、女性があまり過激な格好をすると逮捕されてしまうようだ。元の世界の露出狂のようなものか。男がこの露出の激しい服を着るのはオッケーなのに本当にわけが分からん……




 結局、今持っていた防具を売って、それよりも丈夫な胸当てと籠手などを購入した。さすがに高級なお店だけあって、これまで稼いできた俺の手持ちでは少し足りなかったので、2人が少し出してくれることになった。


 今までのでも十分だとも伝えたのだが、前の冒険者パーティのメンバーにプレゼントしてもらった防具は2人も嫌だったらしい。俺も正直なところは自分を襲ってきた犯罪者からのプレゼントである防具はそのまま使いたくなかったので、お言葉に甘えることにした。


 少しずつコツコツと返していくことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る