第28話 これからのこと


「まずはトオルの呪いを解くことを一番に考えたいと思う」


「えっ、さすがにそれは悪いよ」


「実は昨日エルネと少し話し合ったんだ。別に俺たちはAランク冒険者として活動しているが、特に大きな目的なんかはないからな」


 どうやら、昨日俺が先に寝た後、2人でいろいろと話しあってくれたらしい。


 もちろん俺はまだEランク冒険者になったばかりで、2人の依頼の役に立てるなどと自惚れたりはしていない。足を引っ張ることは分かりきってはいるし、それどころか俺個人の呪いのことについてまで、2人の手を煩わるわけにはいかないだろう。


「せっかくトオルが新しく俺たちのパーティメンバーに入ってくれたわけだし、何よりトオルが秘密にしていたことを俺たちに話してくれたんだ。それならトオルに協力してやりたい」


「うん。トオルは他の誰にも言っていない秘密を私たちに打ち明けてくれた。その気持ちはとても嬉しく思う」


「アンリ、エルネ……2人の気持ちはとても嬉しいよ。でも、これは俺個人の事情だから、2人には迷惑をかけられ――」


「トオルだけの事情じゃねえよ!」


「トオルだけの事情じゃない!」


「へっ?」


 なぜか2人が俺の言葉に割って入ってきた。さすがに呪いのことについては、完全に俺ひとりの事情だと思うんだけれど……


「ああ、いや……トオルは俺たちのパーティに入ってくれただろ。だからもう、トオルの事情はトオルひとりの問題じゃねえよ」


「トオルの問題は私たちパーティの問題でもある!」


「2人とも、ありがとう……」


「気にすんなよ」


「そう、私たちは私たちのやりたいようにやっているだけ」


 そこまで言ってくれるなら、これ以上断るのは失礼だ。


 それにしても2人とも俺と出会ったばかりなのにここまでしてくれるなんて、本当に優しい女性だな。俺を助けてくれた時も、マーリさんに頼まれていたとはいえ、俺とはあまりかかわりがなかったのに颯爽と助けてくれた。


「トオルの呪いはかなり強力な呪いと言われたことは間違いない?」


「うん。教会のシスターさんにはそう言われたよ。王都にいる教皇様レベルか、かなりの魔道具じゃないと解除できないって言っていた」


「この街はそこまで大きな街じゃねえからな。確かに強力な呪いを解除できるような人や魔道具はねえか。それに俺たちもAランク冒険者とはいえ、王都まで顔が効くわけじゃねえから、さすがに教皇様に会えるような権限もねえしな」


 どうやらAランク冒険者アンリでも王都にいるという教皇様に会うことは難しいらしい。


「……この街にはないけれど、いくつか心当たりはある」


「本当、エルネ!」


「ト、トオル……ちょっと近い」


「ご、ごめん! つい興奮しちゃって……」


「あっ、全然大丈夫! むしろもっと近付いてもいい!」


「いや、あんまり近付きすぎると、また呪いが発動しちゃうから」


「残念……」


 いや、そんなあからさまにがっかりしなくても……


 呪いを解く心当たりがあると聞いて、つい興奮してエルネに詰め寄ってしまった。するとエルネが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。普段は凛とした美少女のエルネだが、とても初々しい反応をしてくれる。


 昨日2人ともあまり男性にモテたことがないと言っていたのは、どうやら本当なのかもしれない。こんなに美少女なのに男性にはモテないなんて、この世界の男たちは何をやっているんだろう。


「おい、それで心当たりってなんだよ」


「……っ!?」


 アンリの一言でふと我に返るエルネ。慌てているエルネも本当に可愛いな。


「……ごほん。心当たりのひとつは魔道具に詳しい人へ心当たりがある。トオルの呪いを解除できるかは分からないけれど、何らかの情報が分かるかもしれない」


「おおっ、それはすごいね!」


「「………………」」


 あれ、心当たりがあるというのにあまり浮かない顔をしている2人。なんでだろう?


「……なるほど、あいつのことか。確かに可能性はあるけれど、ちょっと面倒だな」


「私もあまり気が進まない……」


 どうやらアンリの方もエルネの指す人物に心当たりがあるようだが、何か問題があるみたいだ。


 とはいえ、何かしらの心当たりがあるのなら、ぜひその話は聞いてみたい。なにせ今の俺には何の手がかりもない状態だからな。


「どちらにせよ、この街には住んでいないから、まずは連絡を取ってみる。話はそれから」


 どうやらその魔道具に詳しい人はこの街にはいないらしい。とはいえ、連絡を取ってくれるのというのはとても助かる。


「もうひとつの心当たりは魔道具が集まるダルジョラの街。この街には国中から魔道具が集まるから、トオルの呪いを解くことができる魔道具が見つかもしれない」


「おお!」


 そんな街があるのか。それにしてもすごいな。さすが2人ともAランク冒険者だけあって、いろいろなことを知っている。やっぱり2人には俺の呪いのことを正直に話して正解だったのかもしれない。


「ダルジョラの街だと、この街からは少し遠いな。どちらにせよトオルの冒険者ランクはDまで上げておいた方がいいし、情報を集めつつ、その間にトオルの冒険者ランクを上げるってところか」


「うん、それがいいと思う」


「分かった。2人とも本当にありがとう!」

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