第10話 呪い


「ふ~む、なるほど……」


 2日目の仕事が無事に終わり、今はヨーグル亭の2階にある俺が借りているベッドしかない部屋で、状況を整理している。


 今日の仕事中にあった出来事で、突然起こる正体不明の頭痛の原因。それはおそらくこの世界へ来るときに付与された俺の呪いである可能性が非常に高い。


 というのも、最初この世へにやってきた時に起きた頭痛は上半身裸の女性を見て興奮した時で、今日の頭痛はワインをこぼした女性の胸に触って興奮した時だった。このことからおそらくだが、俺が女性を見たり触れたりして興奮……はっきり言うとマイサンが反応した時に頭痛が起こった。


 単純に興奮した時に頭痛がするわけでないということは、つい先ほど試してみた。具体的に言うと、俺の脳内での妄想によってマイサンが反応した時には頭痛がしなかったことから、女性が関連して興奮した際に頭痛が起こるということが推察される。


「最悪だ……どうするんだよ、これ……」


 状況は最悪だ。


 もしも俺の仮説が本当に正しければ、こんな綺麗な女性ばかり周りにいて、モテまくっているのにエロいことができないということになる。しかもまだ確定したわけではないが、興奮すればするほど頭痛が酷くなった気もする。


 遠目で女性の上半身裸の女性を見た時と、先ほど女性の胸に触れた時を比べたら、明らかに後者の方がより頭は痛くなった。女性の胸に触れるんだから、少しの頭痛なんて我慢しろよと思うかもしれないが、胸に触れた時は我慢ができるような痛みではなかった。


 少なくともあの頭痛が身体にいいわけはない……下手に最後までヤってしまったら、死んでしまうんじゃないのか? というか、そもそもあの頭痛の中、最後までするなんてことができるわけない!


「あのクソ女神……今度会ったら、問答無用であの巨乳を揉みしだいてやるからな!」


 そりゃこの世界に転生したがる男なんていないはずだ。こんなに男性がモテて綺麗な女性が大勢いるのにエロいことができないなんて最悪過ぎるだろ!


 むしろ誘惑が多い分、元の世界よりも辛い可能性のほうが高い。


「呪い……呪いかあ……」


 正直なところかなり絶望的な状況だが、たったひとつだけ希望がある。それはあのクソ女神が言っていた呪いを解く方法がこの世界にあるということだ。


 この呪いさえ解いてしまえば、この世界がたちまちバラ色のような世界であることは間違いない。俺みたいなやつでも本気でハーレムを作れる可能性があるからな。


 しかしあのクソ女神の言うことは信用できるか怪しい……もしかしたら呪いを解除する方法なんてないのかもしれない。とはいえ、今の俺にはそれにすがるしか方法はない。


「とりあえず、まずは情報を集めないとな」


 何はともあれ、この世界の魔法や呪いについても詳しく知らなければならない。一応回復魔法が使えることは確認できたが、それ以外の魔法をまだ見たことがないし、呪いも同様だ。


 だが、幸いここは食事処だ。情報を集めるのならこれほど適した場所はない。明日からは魔法や呪いについての情報を集めるとしよう!






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「うわ~火魔法が使えるなんて、本当にすごいですね!」


「へっへっへ、そこまで大したことじゃねえよ。本当にすげえやつは2属性以上の魔法が使えるんだぜ。まあ、魔法適性がある人のほうが少ないし、それこそ高ランクの冒険者とか、騎士団にいるエリート様くらいしかいねえけどな」


「なるほど、勉強になります!」


 今日も食事処の店の手伝いをしている。その合い間でお客さんたちに魔法や呪いについての話をして情報を集めている。もう少ししたら店も本格的に忙しくなって、質問をしている時間なんてなくなってしまうから、今のうちに聞けるだけ聞いてしまおう。


 大抵の女性のお客さんは男の俺が話を聞くと、得意気に俺の質問に答えてくれた。……なんだかこの世界の女性って、男が少し媚びれば、なんでも言うことを聞いてくれそうなんだよな。まあ、元の世界でも男性は女性に甘くてチョロい生き物なのである。




「とりあえず、今日も何とか無事に終わってくれたか……」


 今日も大きなトラブルはなく、店の営業が終わった。相変わらず俺の噂を聞いてか、昨日よりも多くのお客さんがお店にやってきてくれた。


 仕事は忙しくなってきたが、俺のほうも多少店の仕事に慣れてきたこともあって、なんとかお店を回せている状況だ。とはいえ、さすがにお店のお客さんがこのまま増え続けると、もう一人くらい従業員がほしいところではある。


「魔法や呪いについての情報は多少集められたな」


 午前中にはマーリさんとレイモンさんから情報を集め、仕事をしながら強そうな冒険者のお客さんたちに魔法のことを聞き回ったおかげで、この世界の魔法事情について多少把握することができた。


 この世界ではだいたい3人に1人、何らかの魔法の適性があるようだ。もちろんその割合は種族によっても異なるらしい。例えば魔法に適性があるエルフ族ならば、ほぼ全員が魔法を使用することができるようだ。反対に獣人は魔法適性をほとんど持たないらしい。


「呪いは教会で解除してくれるか……」


 そして呪いについての情報も多少は集まった。呪いというものは魔法の一種で、デバフの効果があるみたいだな。普通の状態異常魔法とは異なって、効果が長時間続くことと、その分高い知識が必要とされるらしい。


 また、魔法とは別で人だけでなく物も呪いを受けることがあるらしい。基本的に呪われてしまったら、教会で解除してもらうことが可能のようだ。


「明日の午前中はその教会に行ってみて、この呪いが解呪できないかを確認してみよう」


 正直なところ、この呪いを解くことはそう簡単にできることじゃないと分かっているが、何らかの情報が掴めるかもしれない。少なくとも一度はその教会とやらに行ってみるしかないな。

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