第9話 ふきふきプレイ


「ふう~忙しいたらありゃしないね」


「まったく、可愛い男の店員が入ったらすぐこれだ。本当に女ってやつはどいつもこいつも……トオル、4番テーブルに日替わり2つとエール2杯を頼むよ」


「はい!」


 昨日よりもお客さんが来てくれているので、厨房のほうも大忙しだ。マーリさんもレイモンさんもひっきりなしに働いている。そう言いながら、少し笑顔なのはお客さんが大勢来てくれて嬉しいのかもしれないな。


「お待たせしました。日替わり2つとエール2杯になります」


「おおサンキューな!」


「いやあ、美人が料理を運んでくれると、それだけで酒が進むってもんだぜ!」


「お上手ですね。おふたりこそ、とても格好いいですよ」


「お、おう!」


「あ、あんがとな!」


 こんな感じでお客さんを褒めると大抵のお客さんは顔を赤くして口ごもってしまう。ここまで男女比がある世界だと、まともに男性と話せる機会も少ないんだろうな。


 このお店に来るお客さんの大半は冒険者だ。男性の冒険者はほとんどいないと聞いていたから、なおのこと男性と話す機会がほとんどないのだろう。




 ガチャッ


「うおっと!」


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。特に怪我や壊れたものはねえ。騒がせちまって悪かったな」


「ちょっとワインをこぼしてしちまっただけだ。木のコップは壊れちゃいねえよ」


 大きな音のするほうへ行ってみると、どうやらお酒を派手にこぼしてしまったらしい。幸い、怪我をした人はおらず、木のコップも壊れていないみたいなので少し安心した。


「それは良かったです。あちゃあ~結構濡れちゃっていますね。ちょっと失礼します」


「えっ、ちょっ!?」


 確かワインはシミになってしまうから、すぐに拭いてあげたほうがいいんだよな。


 幸い濡れてしまったのは足の部分だけだったから、ここを拭いてもさすがにセクハラと言われることはないはずだ。


「まだちょっと残っているんで、早めに洗ってくださいね」


「あっ、ああ! ありがとな、兄ちゃん!」


 ふう~あれ……なんだか周りの女性のお客さんたちにものすごく見られているんだけど。別に今のはセーフだよね?


「おい見たか。あんな綺麗な男が、こぼした酒をわざわざ拭いてくれたぞ!」


「マジかよ! 綺麗なうえに優しいなんて最高じゃねえか!」


 おう……どうやらこういう時に男性はわざわざ拭いてあげたりしないのか。


「おっと、手が滑ったあ! わりい、お兄ちゃん、こっちのほうも拭いてもらっていいか?」


「あっ、はい!」


 ……いや、さすがわざとらし過ぎるだろ! とはいえ別に拭いてあげるくらいなら全然いいけどさ。


「えっ!? あの、本当に拭いてもいいんですか?」


「ああ、よろしく頼む!」


 今回の女性は足ではなく、その豊満な胸のあたりにワインがこぼれてしまっている。そして大きく開かれた胸の谷間がものすごくエロい!


 いくら貞操観念が逆転した世界だからといって、本当に女性の胸まで触ってしまっていいのだろうか?


 ……そうか! これはあれだな、元の世界のファミレスとかで、ズボンにこぼしたジュースとかをふきふきしてもらうプレイだ!


 それなら男側からしたら、女性に触ってもらってむしろ嬉しいはず! つまりこの世界では俺が女性の胸を触っても問題ないはずだ!


「そ、それでは失礼しますね」


「お、おう!」


 大丈夫、この女性も鼻息が荒く、むしろ興奮している様子だ。それにこれは向こうが拭いてくれと言っているから合法だ!


 ゆっくりとその大きな胸に触れていく。


 おお、なんて柔らかい! シャツと布巾越しとはいえ、その大きくて柔らかな素晴らしい感触が、全神経を集中している俺の右手へと伝わってくる!


 ああ、なんという幸せな感覚だ! この世界に転生してくれて感謝いたします!


「痛っ!?」


 とてつもない幸せを感じていたところ、突然こめかみに頭痛を感じた。前にこの街へやってきた時にも少し感じた謎の頭痛だが、今回のそれは前回よりも痛かった。


「おっ、おい大丈夫か!」


「おい、人を呼んだ方がいいか!?」


「……あっ、いえ。もう大丈夫です」


 前回と同じで、しばらくうずくまっていると、その痛みは治まっていった。今の強烈な頭痛はなんだったんだ?


「わ、悪かったな。そんなに嫌なら拭いてもらわなくても大丈夫だぞ!」


「いえ、そういうわけじゃないです! むしろ俺としてはぜひとも拭かせてほしいです! あの、もう一度だけ拭かせてもらってもいいですか?」


 嫌なことはあるはずがない! むしろお金を払ってでも触らせてほしいです!


「ああ、もちろん構わねえが……」


「ありがとうございます!」


 よし、言質は取ったぞ! こんなに堂々と女性の胸を触れる機会を逃してたまるか!


 しかし、ひとつだけ嫌な仮説が俺の脳裏に浮かんでくる。それを確かめるべく、今度は先ほどとは違い、ゆっくりと少しずつ布巾を胸に近付けていく。


 その大きな胸に少し触れたところで、また少し頭痛がしてきた。


 ……そういうことか、ようやく理解ができた。


「トオル、戻ってこないけれど、何かあったのかい……ってトオルに何をやらせているんだい!」


「あっ、いや、これはそのっ!?」


「いえ、違うんですマーリさん。俺が自分から拭いてあげようとしただけで、無理やりやらされているわけではありませんから!」


 俺が戻らないことを心配してマーリさんが厨房から出てきた。そしてお客さんが無理やり俺に胸を触らせたと思っているようだ。


「トオルも嫌なことははっきりと断んな。まったく、女は野獣なんだから、男としてもっと危機感を持つんだよ!」


「あっ、はい。気を付けます」


 全然嫌ではなかった。むしろもっとパフパフしてみたかった……


 いや、そんなことを考えている場合ではない! 俺はようやく理解した。あのクソ女神が言っていたという存在についてを!

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