第38話 心当たり


「結論から言うと、この強力な呪いは生半可な魔道具や解呪の魔法では解けそうにないね」


 しばらくの間、俺の頭に手を当てて、俺の呪いを分析していたデジテさんはそう結論付けた。


「そんなことはすでに分かっているんだよ」


「ちっ、この発情ネコは本当に使えない」


「アンリとエルネはもう少し僕に優しくしてよ!」


 2人の厳しい言葉にダメージを受けているデジテさん。わざわざ遠くの街から来てくれたのに辛辣すぎる……


「確かに僕にはこの呪いを解除することはできない。でも、この呪いを解く心当たりならあるよ」


「本当ですか!」


 何やらデジテさんにはこの呪いを解くための手段に心当たりがあるそうだ。


「なんだよ、それならそうと早く言えよ」


「ほら、キリキリと吐く」


「そろそろ僕は泣いてもいいよね……」


 さらにダメージを受けているデジテさん。この呪いを解ける可能性が本当にあるのなら、是が非でも教えてもらいたい。


「デジテさん、どうかその心当たりを教えてくれませんか」


「僕に優しいのはトオルだけだね……うん、もちろん教えるよ。このオリオーの街から馬車で数日の場所にコーデリックという名前の村がある。そこにはとても強力な解呪の魔法を使える女性がいるんだ。彼女なら、このレベルの呪いでも解除できるはずだよ」


「なるほど。ありがとうございます、デジテさん!」


「う、うん。そこまで喜んでくれたのなら、僕も嬉しいよ」


「コーデリックの村か。ここからならすぐそこだな。早速明日にでも行くとすっか」


「了解、すぐに準備する」


 2人とも本当に行動が早いな……もう明日に出発するのか。


 当然俺としてもこんな呪いを解けるのなら、できるだけ早い方が良いに決まっている。


「デジテさん、本当にありがとうございました。あの、何かお礼させてください」


 そういえばその情報を聞く際の対価を決めていなかった。わざわざ遠くからこの街まで来てくれたみたいだし、何をお礼として返せばいいのだろう。俺もみんなのパーティハウスでお世話になっていて、宿代と食費もかかっていないため、多少お金には余裕が出てきている。


「そうだね。トオルがそこまで言ってくれるのなら、その呪いが解けたあとでいいから、僕と一発――ふがっ!?」


「デジテにはたくさんの貸しがある。忘れたとは言わせない」


「何度か命を救ってやったり、研究だとか言って借金まみれだった時は金を返す手伝いをしてやったよな」


「うう、軽い冗談じゃないか……分かっているよ、2人には借りがあるからね。それに僕も珍しい呪いの症状を診ることができて満足だから」


「えっ、でも……」


 ……俺としては呪いが治ったあとに一発でも全然構わないんだけれどね。とはいえ、2人の前でそんなことは言えない。


 それにしても、今回の件も実際にはアンリとエルネへの借りになってしまったようだ。本当に2人には感謝しかないな。


「そうだね、明日コーデリックの村に行くのなら、僕も同行させてほしいかな。これほどの呪いが本当に解けるのか興味があるからね。それにみんなもその女性と知り合いの僕がいた方が良いだろう?」


「……ちっ、確かにこんなんでもいた方がいいか」


「いないよりはいた方がマシ」


「辛辣すぎるよ!」


 そんなわけで、明日コーデリックの村に向かう際にはデジテさんも同行することになった。


 ちなみに今日パーティハウスに泊めてほしいというデジテさんの願いは一瞬で却下されることになった。確かにデジテさんは変わった人で、男癖も悪そうな人だが、そこまで悪い女性ではなさそうである。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「やあ、久しぶりだね、トオル。馬車になんて乗って、どこかに遠出するのか?」


「お久しぶりですコニーさん。はい、ちょっとコーデリックの村まで行ってきます」


 デジテさんから情報をもらった次の日、早速アンリとエルネが馬車を借りてくれて、オリオーの街を出発することになった。コーデリックの村は乗り合い馬車なんかも出ていないくらい辺鄙な村らしいので、わざわざ一台馬車を借りて村へと向かう。


 これだけでも結構お金はかかりそうだ。そして街を出る際に街の入り口で軽い検問を受けていると、門を警備しているコニーさんに会った。コニーさんはこの街へやってきた時にヨーグル亭を紹介してくれた。


 たまにヨーグル亭までご飯を食べに来ていてくれたが、最近は冒険者になって、2人のパーティハウスでお世話になっていたから結構久しぶりかもしれない。


「コーデリックの村? そんな辺鄙なところに行くのか? そういえば最近冒険者になったんだってな。その依頼ということか」


「……はい、そんなところです」


 実際には俺の呪いを解くためにコーデリックの村にいる解呪魔法を使える人へ会いに行くわけだ。さすがに俺の呪いのことはコニーさんも知らない。


「よし、チェックが終わったよ。それじゃあトオル、気を付けるんだぞ」


「はい! それじゃあ行ってきます!」


 門番のコニーさんに別れを告げて、いよいよオリオーの街を出発する。


 そういえばこちらの世界へとやってきてから、オリオーの街から離れるのは初めてだ。ほんの少し怖くはあるが、新しい村や街へ出かけるというのは楽しみだ。

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