第43話 女盗賊


「それで、結論は出たか?」


「はい、我々はあなた方の要求をすべて呑みます。ですから、どうか皆の命をお助け下さい!」


 エルネの予想通り、俺たちが村にやってきた翌々日の朝。盗賊たちがコーデリック村へとやってきた。村長さんたちの話では、先日村にやってきた盗賊たちは20人との話だったが、今村に来ている盗賊たちは全部で40人近くいる。


 村の人たちが要求を呑まず戦闘になる可能性も高いため、盗賊たちも総出でやってきたのだろう。


 もちろんエルネやアンリとは比べものにならないほど貧相な装備をしているが、それでも人との戦闘経験がない村の人たちでは相手にならないことは間違いない。


「……ほう、賢いじゃねえか。安心しろ、素直に俺たちに従っていれば、約束はちゃん守るからよ」


「へへっ、どうやらお前たちは利口なようだな。この前俺たちに逆らった村の女どもは全員皆殺しにしてやったからよ。少なくとも食料と男を差し出している間は手を出す気はねえぜ」


 俺やみんなは村の中に隠れて、家の陰から様子を伺っている。いきなり戦闘になる可能性は限りなく低いというエルネの想定だが、どうやらその予想は当たったようだ。


 村長さんの要求を呑むという発言を聞いて、明らかに向こうもホッとした様子を見せる。いいぞ、そのまま油断しきっていてくれよ。


「食料はすでに集めております。村の中にございますので、どうぞこちらへ」


「おう、物分かりが良い奴は嫌いじゃねえぜ! それよりもちゃんと男はいるんだろうな?」


「へっへっへ、もしも年を取ったジジイなんかだったら、別の若い男を連れて行くからな」


 女盗賊たちはニヤニヤとしならがらそんなことを言っている。


 ……う~む、そんなふざけたことを言う女盗賊たちなんだが、普通に美形なんだよなあ。悪党でさえなかったら、普通に相手をしてもらいだとはさすがにみんなの前では言えない。盗賊たちはその全員が女性で、当然上半身裸の女盗賊も数人いた。


 女盗賊たちは剣や槍などの武器を持っている。後ろには弓を持っている者や杖を持っている者なんかもいる。戦闘経験のない村人たちではあいつらを相手にするのは難しそうだ。


「……どうやらあの緑色の髪をした女がこの盗賊団のボスらしいな。とはいえ、今のところは大したやつには見えねえ」


「人数も当初予定していた数よりも多いとはいえ想定内。これなら問題なく倒せそう」


「アンリとエルネがそう言うのなら安心だよ。あとはできる限り村の人たちが怪我なく終わらせたいところだね」


 アンリの見立てでは村長と話をしていたあの一際長身で緑色の髪色をした女性がこの盗賊団のボスらしい。巨大な斧を背負っていることから、彼女は斧使いなのだろう。


 魔物の素材で作られたと思われるベストのようなものを羽織っており、別の魔物の素材でできたと思われるズボンを履いている。


 ……ベストの方は着るというとよりも羽織るだけのものなので、女盗賊のボスの横乳が見えてしまっている。激しく動いたら、いろいろと見えてしまいそうな露出の高い服なんだよな。


 いかんいかん、そんなことを考えている状況じゃなかった!


「よし、予定通り盗賊たちを村の中に誘い込んで、タイミングよく例の罠を発動したら一気に攻めるぞ」


「了解」


「うん、分かったよ」


 村の中には巨大な罠を仕掛けている。昨日村の人たちと作った巨大な落とし穴だ。落とし穴はとてもシンプルだが、非常に効果的な罠だ。


 盗賊たちが所定の場所へ進み、落とし穴にかかったら、一気にこちらから先制攻撃をかける。


「みんな、気を付けて。なにかあったらすぐに治療するから、すぐにこっちに戻ってきてね」


「その時はお願い」


「ああ、怪我をした時はよろしく頼むぜ」


 残念ながら俺にはまだそこまでの戦闘能力はないので、後ろの方で後方支援を行う。この村にも回復魔法を使える女性が一人いたので、彼女と一緒に負傷した人たちを治療しつつ、石をスリングのような投石器で遠距離から攻撃を行う。


 この異世界の投石器はシンプルなひも状のもので、真ん中に石を置き、それを遠心力により強く早く投げる道具となっている。ただの石と侮るなかれ、シンプルな仕組みだが、当たり所が良ければ、ゴブリンや小動物くらいなら一撃で倒すことができる。


 俺も冒険者ギルドでルハイルさんと訓練をしたが、頭に当たれば大怪我をするどころか、人が死んでもおかしくない威力だった。ルハイルさんにもこれを使う時は味方に当てないように細心の注意を払うように言われている。


 昨日のうちに投擲用の石はたくさん集めてある。少なくとも盗賊たちとの戦い中に石がなくなることはないはずだ。これまでの訓練の成果を見せてやるぜ。


「もしも僕が怪我をしたら、抱きしめて治療をしてくれると嬉しいな。あるいは口づけと一緒に治療をしてくれると嬉し――ふげっ!」


「ったく、相変わらず調子がいいやつだな」


「自分の唾でもつけておけばいい」


「酷すぎない!?」


 相変わらずデジテさんには厳しいアンリとエルネだった。


 とはいえ、今ので多少は緊張が解けた。いよいよ盗賊たちとの戦闘は近い。俺も微力ながら力を尽くすとしよう。

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