第14話 初めての魔物討伐


「ええっ、ゴブリンやオークは男を襲うんですか!?」


 スライム討伐の依頼を受け、街を出てスライムが現れるという湖の近くまで行く道中、ルナさんたちから魔物についていろいろと話を聞いているうちに衝撃の事実を知った。


「ああ、やつらは男性の天敵だぞ。基本的にメスしか生まれないから、男を攫って繁殖するんだ」


「そこまで強い相手じゃねえんだけど、ゴブリンやオークが大量発生したら緊急の討伐依頼が出たりもするんだぜ」


 おう、マジか……


 どうやらミーニさんとメラルさんの話では、この世界にはオークにくっころされてしまう女騎士は存在しないようだ。というかむしろ男騎士がくっころされるのか……なんか嫌だな。


「トオルみたいなか弱い男がいたら、格好の獲物だから本当に気を付けるんだぞ。まあ、ゴブリンやオークごときが何体出てこようが、私たちの敵ではないけれどな!」


「ああ、トオルは俺たちが必ず守るから安心してくれ!」


「はい、みなさんとても頼もしいです!」


 ……う~ん姫プレイならぬ殿プレイも思った以上に精神的にくるものがあるな。正直なところチヤホヤされてもあまり嬉しくないのは俺が元の世界からやってきたこともあるからか。




「いたぞ、スライムだ」


 オリオーの街の近くにある湖までやってきて、湖のほとりを警戒しながら回っていると1匹のスライムを発見した。まだこちらには気付いていないようで、50cmほどのプルプルとしたゼリー状の身体を持ち、その中心には赤い核のようなものがあった。


 すっげ~! アニメとか漫画でよく見かけるスライムだが、実際に見るとこんな感じなんだな! なぜだかものすごく感動してしまったぞ。しかし思ったよりも愛くるしい姿をしているな。


「なんだか可愛くて倒すのが可哀そうですね」


「……まったくトオルは優しいな。ああ見えてもスライムは害獣だから容赦をしては駄目だぞ」


「まあ、そういうところは男らしくて可愛いんだけどよ」


 ……よく分からないところで男としてのポイントが上がったらしい。あれか、女子がネコを可愛がっている姿が可愛いというやつかな。


「それじゃあトオル、スライムの弱点はあの赤い核だ。ナイフなどの刃物で核を傷付ければ倒せるが、スライムは服を溶かす溶解液を吐き出すから気を付けるんだ。その金属製の胸当ては溶けないが、服の部分は溶けるからな」


「はい!」


 いよいよ魔物との初対戦だ。幸いスライムは人への殺傷能力が皆無らしいから、初心者冒険者の俺でも安心して戦える魔物となる。


 とはいえ俺も元の世界では喧嘩なんてしたことがない草食系男子だったから、まともな戦闘なんて初めてだ。今もルナさんたちに借りたナイフを持っているだけで心臓はバクバクだ。


 そう考えると、基本的に直接魔物と戦わずに後方支援として回復魔法が使えるというのはかなり助かる。いくら冒険者になると言っても、直接戦闘をするなんて俺には絶対に無理だからな。


 よし、大丈夫。向こうはこちらに気付いていないようだし、一直線に突っ込んでいってあの赤い核に攻撃すればいいだけだ!


 行くぞ!


「ええい!」


 小さなスライムへ向けて全速力で突撃し、スライムの中心にある赤い核を狙ってナイフを思いっきり突き刺した。ぐにゃりとしたゼリー状の感触が手のひらに伝わり、ナイフの先端がその先にある赤い核を見事にとらえ、スライムの赤い核が真っ二つに割れた。


「やった!」


 赤い核が割れるとスライムの青色のゼリー状の身体が溶けていった。そしてその場には真っ二つに割れた赤い核だけが残っている。


「おめでとう! 初めての魔物討伐だね!」


「ちゃんと核を狙って壊すことができたな!」


「初めてにしては良い動きだったと思うぜ!」


「はい、ありがとうございます!」


 思いっきり持ち上げられている気もするが、初めて魔物を倒せたのは素直に嬉しい。それに分かってはいても女性に褒められるというのは嬉しい感覚だ。なるほど、元の世界でオタサーの姫をしている人たちはこういう気持ちになるんだな。


「その割れたスライムの核が討伐の証明となるから、忘れないように回収するんだよ。核を粉々にしないように注意するんだ」


「わかりました」


「さて、依頼は5体だったね。次のスライムを探すとしよう」




「……最後は2体いるけれど、大丈夫そうかい?」


 あのあと湖の周りを回ってスライムを2体ほど倒した。先ほどは2体ともこちらに気付いていたが、基本的にスライムは動きが遅いから問題なく核を狙うことができた。


 それに例の粘液による攻撃は吐き出すまでに予備動作が長くかかるので、その前に核を攻撃して倒すことができたようだ。


「はい、やってみます」


 大丈夫、あのくらいの動きだったら2体いても問題ない。さっきと同じように仕留められるはずだ。


「ええい!」


 まずは1体目のスライムを狙って中心にある核を壊す。もう1体のスライムは俺に気付いてプルプルと震えている。これは粘液攻撃の予備動作だが、攻撃されるまでしばらくかかる。これならその前に十分倒せそうだ。


「トオル、危ない左だ!」


「えっ!?」


 2体目のスライムを相手にしようとした時、後ろからルナさんの声が上がった。何事かと思い左を見ると、そこには1mくらいの小柄な体躯をした人型のモンスターがいた。


「ゴ、ゴブリン!?」


 全身が濃い緑色の肌にずんぐりとした体型、醜悪な顔立ちをしておりぼろい布切れを腰に巻いてる。


「ゲギャ!」


「うわっ!?」


 ゴブリンが木でできたこん棒を持って俺のほうに走ってきた。とっさの出来事で身体が動いてくれない。スライムと違って本気で俺を殺そうしてくる殺気が感じられた。俺よりも小さい身体で武器も少し太いくらいのこん棒だというのに俺は完全にビビってしまっていた。


「おらあっ!」


「ゲギャギャ!?」


 ザンッ


 しかし、後ろから現れた人影がそのロングソードでゴブリンを真っ二つにした。ようやく正気に戻るとルナさんがゴブリンを倒してくれたみたいだ。


「ル、ルナさん、ありがとうございました」


「ああ、問題ないよ。トオルに怪我がなくて何よりだ」


「おい、馬鹿! まだスライムがいるぞ!」


「「……!?っ」」


 しまったそういえばまだスライムがいたんだ!


 気付いた時にはもう遅く、スライムから大量の粘液が吐き出された。

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