第29話 無自覚に驚かせてしまうおっさん
俺たちはゾロゾロと大勢連れて地下にある実験室にやってきた。ちなみにここに来るまでの間、みんな大物だったみたいで死ぬほど注目されていた。
『カイト様たちを直で見られるなんて!』
『氷結の魔法使いカイト様に幻影の魔女アンナ様もいるわ!』
『そんな彼らを連れているあのおじ様は一体何者なのでしょう?』
『もしかすると叡智の大賢者様かもしれませんわ』
そんなふうにヒソヒソ声が聞こえてきていた。幻影の魔女アンナと聞いて俺が彼女の方を向くと、完全にソッポ向かれた。うんうん、恥ずかしいんだろう? 分かる、分かるぞ。あとでちゃんと聞き出してやるからな。
ともかくそんなことがありながら俺たちは実験室にたどり着き、俺は何の魔道具を作ろうか考えていた。……って、それならあのロビーで動いていたゴーレムを作ってみるのもありかな。あれは既に存在するものだし、俺も一度は作ってみたいと思っているものだしな。
「よし、作りますか」
俺が言うと周囲の人間からおおっと声が上がった。……メチャクチャ注目されてるんだけど。当たり前だが、やっぱりなんかむず痒いな。
とりあえず自分の家でも使えるようにそこそこ高性能にしておくか。で、見た目も拘りたいよな。
そんなことを考えながら俺は『クリエイト・マジックアイテム』のウィンドウを開き操作していく。素材は変換できる中で一番硬いアダマンタイトを使って、大きさもあのゴーレムだと大きいから少し小さくして……う〜ん、それなら美少女みたいな見た目にしてもいいかもな。そんなふうにカスタマイズすると、あとは勝手に体が動き魔道具を完成させていく。
「おおっ、おおおっ? 何が起こっているんだ?」
先ほど突っかかってきたおっさんが狼狽えるように声をあげる。他の人たちは俺の作業を食い入るように見つめていた。特にカイトと呼ばれていたショタは瞬き忘れているんじゃないかってくらいジッと見つめてくる。
「とと、魔力筆が折れた」
俺の描く魔法陣に耐えられなくなってこの研究所の魔力筆が折れてしまった。魔力筆とは魔法陣を描くときに使う道具で、これにも武器同様、等級が存在する。俺の使っている魔力筆の等級が5でこの魔力筆の等級が3なので、やはり負荷に耐えられなかったのだろう。
俺は自前の魔力筆を取り出して作業を続ける。そして作業すること十分ほど——。
「よし、出来た!」
俺はそう言って出来上がったゴーレムを見下げる。机の上には一人の美少女が寝そべっていた。綺麗な金髪を腰まで伸ばし、この世のものとは思えないほど整った顔立ち。胸が大きいのは……うん、俺の趣味だ。
ちなみにこの体は全部アダマンタイトでできていて、普通の攻撃なら間違いなく無傷だろうし、魔法を使ったり剣を振るったりもできるようにしてある。もちろん家事全般もできるから、最強の戦闘メイドってところかな。
俺が魔力を通して起動させると、彼女はぱっちりと目を開き俺の方を見た。そして机の上から起き上がり俺の前で跪くと言った。
「初めまして、タケル様。私はタケル様の製作されたゴーレムです。ご命令を」
「ご命令、ご命令か……。ならこの魔力筆を直せる?」
俺はそう言って折れてしまった魔力筆を手渡した。ゴーレムは即座に頷いて言った。
「もちろんです」
言った瞬間、魔法が発現し光ったと思ったら魔力筆が元に戻っていた。しかも良くみると等級も4に上がっている。
「おおっ、流石だな」
「お褒めいただき光栄です」
そして俺は周囲にいたみんなの方を見ると、口をあんぐりと開けポカンとしていた。
「ええと……」
俺がそう声を掛けるとようやく彼らは再起動し始めて騒ぎ始めた。
「流石は叡智の大賢者様だ! まさかここまでとは!」
「恐ろしい、この力はとんでもないぞ!」
「これを奇跡と言わずに何と言うのだね! これこそが神の力だ!」
確かに神の力なのは間違いないかもしれない。でも大袈裟すぎない? 別にゴーレムってみんな使っていたし。ちょっと応用はしたけどさ。
そう思っているとアンナが説明してくれた。
「タケルさん。あのゴーレムは古代の遺物で誰も再現できない魔道具なんだよ〜」
「…………え!?」
アンナの言葉に俺が思わず驚くと、彼女はやっぱりと言った感じで首を振った。
「ごめんな〜、言うのが遅くなったかも〜。まあでも凄いもの見れたしいいか〜」
「良くないって! ほどほどで済ませるつもりだったのに!」
俺がそう言うと周囲の人たちはさらに盛り上がっていく。
「あれでほどほどのつもりだと!?」
「では彼が本気を出したらどうなるんだ!」
あ……! 自分で墓穴掘っちゃったよ! 思わずがっくしと膝をついてしまう。やらかしたなぁ……。そんなふうに俺が落ち込んでいると、異常なまでにヒートアップしている彼らを鎮めるべく、カイトがパンパンと手を叩いて言った。
「ともかく。彼の実力が本物、いや想像以上だったことは理解できただろ?」
そう言ったカイトの視線は先ほど突っかかってきたおっさんに注がれているのだった。
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