第一巻販売記念SS 墓地とお化け

「そういえばタケルさん」


 とある日。夕暮れ時にレイナとアンナが来てゲームをしていると、ふと思い出したようにレイナが口を開いた。俺は画面を見てカチャカチャとコントローラーを操作しながら言った。


「どうした?」

「いえ、ふと思い出したんですけど、この山のもう少し下ったところに共同墓地がありまして」

「ほう。それで?」

「少し前から冒険者ギルドの方に、お墓参り中に呻き声とかが聞こえてくるから調査してくれと依頼が来ていたのを思い出したんです」


 それを聞いた瞬間、アンナがビクッと身体を震えさせ、コントローラーの操作をミスる。その隙をレイナは見逃さずに技を決めた。場外に吹き飛ばされ、その試合はそのままレイナの勝利に。


「む〜、レイナ〜。怖い話をして私を脅かすなんて卑怯じゃないか〜」

「いえ、脅かすつもりなんてなかったですよ。別に怖い話とも思ってませんでしたから」

「ふ〜んだ。どうせ私は全然怖くない話にもビビっちゃう臆病さんですよ〜だ」


 口を尖らせて拗ねたように言うアンナ。まあ、アンナが負けて不貞腐れるのはいつものことなので別にいいとして、俺はレイナにその話をもっと詳しく話してもらうことにした。


「で、レイナはその依頼を解決したい感じか?」

「はい。せっかく近くまで来ているので、ついでに解決しておきたいですね。出来ればタケルさんの力も借りたいんですが……」

「俺の? 俺がいなくてもレイナなら何とか出来そうだけど」


 俺がそう言うと、レイナは少し恥ずかしそうに視線を逸らして言った。


「いえ……解決は出来るんでしょうけど……私としてもやっぱり夜の共同墓地は少し怖いので」

「あー、そうだよな。てか、夜じゃないといけないんだ?」

「らしいですね。昼間は全く声が聞こえないんだとか。完全に陽が沈んでからがいいらしいです」


 それは確かに怖い。俺ですら一人で夜の墓地に向かうのは怖いと思うもんな。そんなところに女性一人で送り込むのは流石に気が引ける。


「分かった。それじゃあ一緒に行こうか」

「ありがとうございます! 助かります!」


 嬉しそうそう言うレイナに続いて、アンナは不安そうにこう言った。


「それ、私もついていっていいか〜?」

「別に良いと思うけど、アンナは怖くないのか?」

「そりゃ、こ、怖いけど、この話を聞いた後に一人で放置される方が怖いからな〜……」


 尻すぼみに消え入るような声で言うアンナを一人で放置する訳にもいかないか。俺は少し考えた後にレイナに尋ねた。


「それって早めに解決しておいた方がいいのか?」

「おそらく早めの方がいいと思います。誰か犠牲者が出る前には解決したいので」


 それもそうか。俺は頷くと二人に言った。


「それじゃあ今晩、さっそく探索しに行くか」

「はい。お願いします」

「うぅ〜、絶対に手は繋いでいてくれよな〜……」


 そんなわけで、俺たちは晩ご飯を食べた後、レイナの言う共同墓地に向かうことになるのだった。



   ***



 ヒュオー、と冷たい風が吹いている。俺たちは山を下り、共同墓地に辿り着いた。思った通り、かなり不気味な雰囲気を醸し出していて、さっそくアンナはレイナの腕に必死にしがみついていた。


「お、おおおおお、お化けなんていない、お化けなんているはずがない……」


 恐怖からか、アンナの口調がいつもよりも硬くなっている。表情もカチカチに固まっていて、緊張しているのが手に取るように分かった。レイナも少し怖がっている様子は窺えるが、別にアンナほどではなさそうだった。


「確か、呻き声が聞こえてくるんだったよな……」


 そう呟き、俺たちは墓地の奥へと足並みを揃えながら進んでいく。奥に進むにつれ、不気味な雰囲気が増していく。心なしか体感温度も下がってきているように思えた。アンナは涙目で震えながらレイナに必死にしがみついていた。そんなとき、すうっと冷たい風が吹いたと思ったら——


「うぉおおぉオおおお」


 そんな震えるような呻き声が聞こえてきた。


「ぎゃぁああああああああああああぁあ! 何か聞こえたぁあああああああぁあああ!」


 それを聞いたアンナが大声で叫ぶ。レイナは落ち着かせるためにアンナの背中を摩り、俺は周囲の警戒を始める。真っ暗だから確証は得られないが、俺の視界の中には人影は見えない。誰かがイタズラでやっているわけでもなさそうだが……。そう思っていたら、再び呻き声が聞こえてきた。


「うぉおおおおおオオ、お腹がぁあああああ、空いたァああああアアああ」


 ……ん? お腹が空いたって言ったか? チラリと横を見ると、レイナもキョトンとした表情をしている。おそらく彼女も俺と同じように聞こえたのだろう。アンナは恐怖で耳を塞いでしまっているので、一切聞いていないっぽいが。


「今、お腹が空いたって言いましたよね?」

「ああ、俺にもそう聞こえたな」


 レイナの言葉に俺は頷く。もしかしてこの幽霊のようなヤツは腹が減っているのだろうか? そう首を傾げていると、目の前にボンヤリと発光する十歳くらいの少女が現れた。


「お腹がぁあああああ、空いたァああああアアああ」

「……腹減ってるのか?」


 その少女の幽霊らしき存在は再び腹が減ったと言ったので、俺が一歩近づいて尋ねてみると、彼女はコクコクと頷いた。なるほど、何か食べさせてあげれば成仏してくれるのかな? 俺はストレージからバーベキューセット一式を取り出して、バーベキューの準備を始める。同時に、キノコや肉なども取り出して並べていく。


「オォおおおお、いいの?」


 それを見た幽霊の少女は嬉しそうに両手を挙げてそう言った。俺は頷いて答える。


「ああ、もちろん。一緒に食べようか」


 俺の言葉に彼女は満面の笑みを浮かべた。その様子を見て警戒心を緩めたアンナは、耳を塞いでいた手をどけて、目を輝かせ始めた。


「おおっ! もしかしてバーベキューをするのか〜! そこの少女、よくやった! 君のおかげでバーベキューにありつけるとは〜!」


 アンナに褒められて少女も嬉しそうだ。俺は木炭に火を点けてじっくりと肉や野菜やキノコなんかを焼き始める。墓地にいい香りが漂い始めた。それを嗅いだのか、他の幽霊たちも集まってくる。少年少女から老人まで、様々な幽霊たちだ。


「これは美味しそうじゃの」

「おっさん! これ食べていいのか!?」

「こんな食欲をそそられたのは久しぶりね」


 かなりの数が集まってしまったので、俺は更に追加で食材を取り出し、焼き始める。それから何故か幽霊たちと墓地でバーベキューパーティーが始まった。わいわいがやがやと楽しそうな空気が流れる。さっきまで異常に怖がっていたアンナも、今では楽しそうに笑顔で肉を頬張っている。


「良かったですね、悪い人たちじゃなくて」


 肉を焼いているとレイナが近づいてきて言った。俺は頷いて返す。


「そうだな。いずれにせよ、楽しんでくれていて良かったよ」


 みんな満足するまで肉を食べると、笑顔で手を振りながらどこかへ消えていった。成仏したのか、はたまた隠れてしまっただけなのか。それは分からないが、最後には笑顔になっていて良かった。こうして幽霊たちとバーベキューをしたおかげで、その後、墓地から呻き声は聞こえなくなったらしい。依頼達成みたいだ。俺は来年もまた、ここでバーベキューでもしようかなと思うのだった。




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【重要なお知らせ!】

本日、8/20にアース・スター様より本作の第一巻が発売いたします!

ぜひお手にとって頂けると幸いです!

詳細は↓に記載しているので、ぜひご確認ください!


https://kakuyomu.jp/users/Ate_Ra/news/16818093082109820462

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山籠りおっさんのやりすぎスローライフ〜ウチに遊びに来る友人をもてなしていたら、世界に激震が走っていました〜 AteRa @Ate_Ra

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