第50話 吹雪の中でトランプ合戦

「ふははっ! これで上がりだ!」


 そう言ってベリアルがパァンっとコタツの上にトランプのカードを叩きつけた。確かにハートのクイーンが二枚。間違いなく上がりである。それを見たレイナは暗い表情でチッと小さく舌打ちをして言った。


「……ベリアルのくせに」

「怖っ! おお、怖いわぁ! 負け犬の遠吠えって怖いわぁ!」


 有頂天になったベリアルは何故かレイナを煽り始めた。最近鬱憤でも溜まっていたのだろうか? ……うん、溜まっててもおかしくないな。それにレイナの本性を見て幻想が打ち砕かれたせめてもの反抗なのかもしれない。


 ちなみに今やっていたのはトランプのババ抜きである。何故かアンナが持ってきていた。スキーは? 実は最初からスキーする気なかったでしょ。吹雪に晒されているはずの城の中はなかなか快適で、暇を持て余していたので、トランプを持っていたのは渡りに船だったが。


 散々煽られたレイナはキッとベリアルを睨みつけるとこう言う。


「では、一対一で勝負しましょう。次の勝負もババ抜きで、今度は負けた方が勝った方の言うことを聞くでどうでしょうか?」

「いいだろう! 受けて立つ!」


 絶好調のベリアルは考えもせず、適当に了承していた。……大丈夫か? チラリとレイナの方を見てみると、何やらアンナとアイコンタクトを取っているように見えるんだけど。これ、イカサマとかないよね? まああったとしても俺は見抜けないし、そもそもレイナを煽り散らかしたベリアルが悪い。


「それでは私がシャッフルしますね」

「おう! 任せた!」


 そう言ってカードを切り始めるレイナ。……うん、これは確信してもいいだろう。イカサマする気だ。ドンマイ、ベリアル。お前の尊厳が既に失われたも同然だよ。そしてカードを切り終わり、ババ抜きが始まる。


「むむむっ! これだろ! ──ババじゃねぇか!」

「今度は……これだ! ──これもかよ!」


 ごく稀にレイナの手元にジョーカーが行ったと思っても、次のターンではベリアルが絶対にジョーカーを引いている。そもそもレイナはほとんどジョーカーを引いていない。たまに引く時も、多分あれはイカサマがバレないための演出だ。そもそも二人のババ抜きだから、テンポよく手札が減っていき、ベリアルが二枚、レイナが一枚になった。


 ベリアルは真剣な表情で手札を広げ、一枚少し高くした。……やってること、めちゃくちゃ幼稚じゃない? まあいいけど。


「さて、どっちだろうな……?」


 そしてベリアルは意味深な表情をして、そう呟く。しかし視線は高くなってない方に釘づけだ。こういう時はあまり相手に情報を与えない方がいいと思うんだが。


「こちらでしょうか?」


 そう言って高くなっている方にレイナが手を伸ばすと、ベリアルの視線は泳ぎ始め、冷や汗がダラダラと流れていっている。いやいや、そうなるなら無駄なことはやめておけばよかったのに。これが演技だったら凄いが、あの慌てようは間違いなく演技じゃない。


「こちらでしょうか?」


 今度はレイナは低くなっている方に指を伸ばした。今度はベリアルはホッとため息を漏らす。う〜ん、分かりやすすぎる。さて、レイナはそっちを引くんだろうな……って、あれ?


「じゃあ、こっちですね」


 そう言ってレイナが引いたのは高くなっている方だった。レイナはそのカードを確認すると、フッと鼻で笑って机にカードを叩きつけた。


「弱すぎませんか、ベリアルさん。こんなんでよく私のこと、煽れましたね」

「……ぐぬぬ」


 さっきのベリアルのあれは演技だったってことか。いや、凄いなそれは。俺が感心していると、そのことに気がついたベリアルがムスッとした表情で俺に言った。


「タケルさん。俺だって王族なんだぞ。これくらいの腹芸は得意だって」

「ああ、そういえばそうだった。忘れるところだったよ」


 そうか、王族か。それなら演技力を求められる場面も多いのかな。そう感心する俺の横で、レイナが悪そうな笑みを浮かべていた。


「う〜ん、どうしましょう。どんな命令がいいですかねぇ」

「……軽めのやつで」

「おっとぉ、ベリアルさん。貴方、私にお願いできる立場だと思いますか?」

「…………ぐっ」


 ドヤ顔で煽られているベリアル。可哀想。それからレイナはアンナに意見を求める。


「アンナさんは、何がいいと思いますか? 命令」

「ん〜、そうだな〜。裸で外に一時間とかか〜?」

「いやいやいやっ! 流石にそれは死ぬって! 死んじゃうからやめてください、お願いします!」


 アンナの鬼畜すぎる意見にベリアルは思わず叫んだ。本当に哀れだ。煽ったことが原因でここまで追い詰められるとは。怖い怖い。そう他人事のように思っていたら、レイナがこちらを向いて聞いてきた。


「タケルさんは何がいいと思います?」

「……俺?」

「はい。ちょっと意見が欲しくて」


 ん〜、悩むなこれ。キツすぎても優しすぎても良くないよなぁ。ここはいい塩梅を出したいところだが……何かいい案は……。


「そうだ、外で全力スクワット百回は?」


 俺が言うとレイナはドン引きの表情をした。


「タケルさん、ちょっとそれは……」

「それは私もやりすぎだと思うぞ〜」


 って、アンナは言えたことじゃないだろ! なぜかドン引かれてしまった俺は、がっくしと肩を落とし、成り行きに任せるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る