第58話 地球へ観光しに行こう!

「何を読んでいるのですか?」


 リビングで女神様からもらった地球への転移用の魔法陣の説明書を読んでいたら、ユイにそう聞かれた。俺はその小冊子の表紙を彼女の方に向ける。ユイは持ってきた昼食をテーブルに置くとそれを見て言った。


「ああ、なるほど」


 ユイは納得したように頷いた。それからテーブルの方に戻り、昼食の準備を進めながら尋ねてきた。


「それで、どんな感じですか?」

「とりあえず、ザッと読んだ感じだと、一度に運べるのは三人まで。そして滞在可能日数は最大三日みたいだ」

「色々と制限があるんですね」


 ユイの言葉に頷く。どうやら転移させるのにかなり力を必要とするらしい。ちゃんと発展には貢献しているからと奮発してくれたみたいだ。俺としてはとても異世界ライフを楽しませてもらっているので、そこまでしてくれなくても良かったのだが、まあ貰えるものは貰っておこう。


「それを読んでいるってことは、近々行くってことですか?」

「ああ。夏前には行っておきたいと思ってな」


 夏は夏で色々とやりたいことがあるし。やっぱ海は行かないとな。ユイはなるほどと頷いて言った。


「じゃあ準備しないとですね」

「そうだな。まずはレイナとアンナにもメールしないと」


 そうして俺たちは日本旅行の準備を進めるのだった。



   ***



 ようやく準備が整い、日本に転移する日となった。

 まずはレイナとアンナ、次にロシュとサーラ、最後にエルンとユイといった順だ。皆、一週間丸々過ごすことになっている。


「心の準備は大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

「私も大丈夫だぞ~」


 レイナとアンナに確認をとるとそう返ってきた。というわけで、俺たち三人は転移用の魔法陣の上に立つ。


「じゃあ、起動させるぞー」

「お願いします!」

「頼んだ~」


 そして俺が転移陣を起動させると同時に、眩い光が地下室を包み込み、俺たちはその光に飲み込まれた。やがて光が収まり、視界が確保される。どうやら現代日本の東京――俺の住んでいたアパートの一室に転移したらしい。


「よしっ。ちゃんと転移できたみたいだな」


 レイナとアンナのほうを見ると二人はキョロキョロと俺の部屋を見渡して言った。


「なんだか無機質ですね」

「そうだな~。それに、置いてある物のデザインに統一感がないな~」


 それは仕方がない。メーカーが違うからな。机はニ○リだし、冷蔵庫は○立製だし、電子レンジは○芝製だ。そりゃデザインに統一感が生まれないのも仕方がなかった。それから部屋のものを物色し始める二人。それは彼女らの格好を眺めて言った。


「う~ん、二人の格好は流石に目立つよな……」


 もちろん武器は持ってこなかったが、服装はそのままだった。流石に異世界色が強すぎてコスプレにしか見えない。一見すると海外の美少女コスプレイヤーだ。まあ、二人ともメチャクチャ美少女だから、この格好でも映えるのだが。美少女過ぎて逆に目立つってのもあるな。


「そうですよね……。異文化ですもんね」


 俺の言葉にレイナが頷く。俺はそれに腕を組みながら返した。


「一番初めは服を買いに行こうか」


 俺の部屋に女性の服なんてないしな。もちろん、スキルで作っても良かったのだが、俺にデザインセンスはない。上手く女性の服を作れるとは思えなかった。まずは服屋に行って二人に似合う現代の服を見繕った方が良いだろう。そして二人の了承を得て、いったん家から出る。とりあえず駅まで向かうわけだが……。


「やっぱりなんか見られてますね……」

「そうだな~。ジロジロ見られてるな~」


 ちょっぴり居心地が悪そうなレイナと、大して気にしてなさそうなアンナ。さすがアンナ、肝が据わっているというか、マイペースというか、評価に困るところだった。


「二人の格好もそうだけど、なんたって美少女だしな」


 俺の言葉に無自覚なのか、ふ~んといった感じだった。あまりこだわりはなさそうだ。そして俺たちは衆目に晒されながら大通りまで出た。


「なっ、なんか大きい塊がもの凄い速度で動いてますよ!」

「なんだあれ~! なんだあれ~!」


 二人とも車に大興奮だ。もう周囲の視線とかどうでも良くなっている。二人のはしゃぎように周囲からは奇異の目で見られていた。


「あれは車ってもので、人を運ぶんだよ」

「馬車みたいなものか~?」


 アンナの問いに頷く。


「そうそう。ガソリンというもので動いてるんだ」

「流石異世界だな~。あんなものがあんな速度で動くなんてな~」


 そうだよな。俺からすればアンナたちの世界が異世界だけど、アンナたちからすればこっちの世界が異世界だもんな。俺は向こうの世界に初めて転移したときのことを思い出していた。……うん、あのときは周囲に人がいなかったから良かったけど、端から見ればこんな感じだったかも。


 そんな風にレイナやアンナが現代文化にいちいち驚くのに対し説明しながら、ようやく駅に着く。周囲からの奇異の支線、立ち止まっての質問攻め、などなどをを乗り越えたので、かなり疲弊してしまった。疲れた……。


「おお。これがさっきから再三言っていた電車ってヤツですね!」

「人がパンパンに詰まってるな~」


 ホームに立ち、電車が入ってくると、二人はそうリアクションする。

 さらにアンナは自動で開くドアを見て言った。


「改札ってヤツもそうだったけど、異世界では何でもかんでも勝手にやってくれるんだな~。これ、向こうでも出来ないだろうか~?」


 そう言いながら思案に耽るアンナ。ふむ、流石はアンナだ。すぐに再現できるかどうかという思考にいく辺り、本当に魔法が好きなんだな。


「後で本屋に行って自動ドアの仕組みが描かれた本でも買うか」

「あんな技術が描かれた本を一般人が入手できるのか~⁉」

「あ、ああ。簡易的なヤツだろうけど、あると思うぞ」

「凄いな~! 向こうだと師匠から香典してもらわないとそんな技術なんて手に入らないのに!」


 本屋に行けば色々な技術や知識が手に入ると知ったアンナは大興奮だ。そんなアンナと若干引き気味のレイナに俺は急かすように言った。


「そんなことより、早く乗らないとドアが閉まっちゃうぞ」


 そうして俺たちは電車に乗り込む。服屋があるのが二駅先だからそれまでの辛抱だが、やはり二人の格好がメチャクチャ目立つな。特に電車の中だとチラチラとずっと盗み見られている感じだ。しかし二駅なので、すぐに到着し、ホームに降り立つ。そしてそのまま服屋へ入るのだった。





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【大事なお知らせ!】

この度、本作がアーススター様より8/20に発売されることとなりました!

皆様の応援のおかげです!

書籍の方もよろしくお願いいたします!


それと、書籍化に合わせてサブタイトルの方を少々調整いたしました!

何卒よろしくお願いいたします!

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