第38話 クランクアップです

「カットー! お疲れ様、とりあえず休憩にしよう」


 俺がそう言うとみんな楽しそうにワイワイ話し始めた。あのシーンが良かったとか、あそこはもう少し上手くできたとか、そんな話をしている。


「ロシュ、お疲れ。それにサーラも」


 俺は水の入ったコップを持って二人のところに行った。二人はそのコップを受け取ってぐいっと飲んで言った。


「完成が楽しみなのじゃ。妾もいい演技ができたと思うのじゃ」

「そうですね。ロシュ様はなかなか上手くできていたと思いますよ」


 そう言うサーラの表情は物足りなさそうだ。自分の演技にあまり満足がいっていないんだろう。しかしこれ以上撮り直すと他のキャストに負担がかかってしまうので、申し訳ないけど我慢してもらうしかない。


「とりあえず、あと一週間あるけど、頑張ってくれ」

「分かったのじゃ! でも楽しいから問題ないのじゃ!」


 ロシュの言葉にサーラも同意するように頷いた。楽しんでもらえているなら何よりだ。それから俺は監督をしてもらっているエルンの方に行くと聞いた。


「どうだ、やってみた感じ?」

「そうですね、めちゃくちゃ手応えありますよ! これは世界中で流行る予感しかしないです!」


 むすうっと鼻の穴を大きくしてエルンは言った。こっちもこっちで興奮しているみたいだ。スケジュールもぴったり消費できているし、演技指導やカメラワークなども的確で、エルンは監督としての才能もありそうだった。


「じゃあもう少し頑張ろうか」

「はい! 頑張りましょう!」


 そして俺たちは一週間もの撮影合宿を終え、ついにクランクアップするのだった。



+++



「ドキドキしますね!」


 クランクアップしてからさらに一週間が経ち、編集も終わった。俺たちは参加してくれたエルフの有志たちとロシュとサーラを自宅に集めて上映会を行うことになった。


「ああ、楽しみだな」


 興奮しているエルンを俺は微笑ましいものを見る目で見ながら頷いた。反対側ではロシュとサーラも興奮していた。


「妾がどんなふうになっているのか、楽しみなのじゃ!」

「ロシュ様なら格好良く映ってますよ、きっと」


 そして俺は部屋の電気を消し、スクリーンに作った映画を流し始める。


 轟々と燃え盛るエルフの里(幻影魔法)の中心でロシュが胸を張って高笑いをしていた。

 その横にはサーラが控えている。


「ふははっ! 魔王参上、なのじゃ! 妾に勝てる奴を出すのじゃ!」


 そのロシュを見てボロボロにされたエルフたちが悔しそうに言葉をこぼす。


「くそっ……! 誰か、あの魔王を止められる奴はいないのか!?」

「俺たちじゃ里を守れないのかよ!」

「誰か、誰でもいい、あいつを倒してくれ!」


 それを聞いてさらにロシュは高笑いをしていく。


「はははっー! 悔しいじゃろ、悔しいじゃろ! せいぜい妾の力に怯えているがいい!」


 そんな敗色濃厚のとき、一人の勇敢なエルフがロシュとサーラの前に躍り出る。


「待て! 魔王よ、やめてくれないか、こんなこと!」

「誰じゃ!?」

「私はエルフの戦士、アージャ! お前を倒しに来た男だ!」


 そして始まる派手な空中戦。ちなみにこのシーンは俺も飛びながらなんとか撮影した。めちゃくちゃ難しかったシーンだ。


「くっ……! 妾に勝てる奴がいるなんてな……」

「魔王よ、私も危ないところだった。こんないい戦いができて幸せだったよ」


 そしてロシュは負け、エルフの勇者が勝ちエンディング、みたいな映画だった。ちなみにエルフの有志たちはこの映画を見てさめざめと泣きまくっていた。


「アージャ! さすがは俺たちのアージャだ!」

「めちゃくちゃかっこよかった! 最高だった!」


 そんな中、ロシュも満足そうに頷いていた。


「うむ、格好良く撮れているではないか! 妾、めちゃくちゃ目立ってるのじゃ!」

「さすがはロシュ様です。私も感激しました」

「そうじゃろ、そうじゃろ! やっぱり妾はすごいのじゃ!」


 こうして俺たちの初めての映画撮影は無事に終了した。この映画は後ほど色々な場所で上映できるようにするつもりだ。そのためにはサクラダ商会に久しぶりに顔を出さないといけないなと思うのだった。

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