第37話 撮影のためにロシュを呼びました

「ほお、これがカメラですか!」


 俺とエルンは長老たちと別れると、エルンの家まで来ていた。彼女の家も木々の中にあったが、長老たちのいた木よりも大きな木にあった。とても綺麗に片付けられていて、女の子らしいぬいぐるみやらなんやらがいっぱい置いてある。


 そこで俺はエルンにカメラと同じ機能を持つ魔道具を見せていた。カメラといってもデジタルカメラはまだ再現できなかったので、フィルムカメラに近しい感じになっているのだが。


「これをこうすると、ここが回って、この魔紙に映像が記録されていくんだ」

「おおっ! なるほど! よく考えられていますね〜」


 俺が機能を説明しながら実践してみると、彼女はすぐに仕組みを理解したのか感心するような声を上げた。


「まあ映像の記録に関してはこんな感じだな。それよりも映画作りは脚本も大事なんだ」

「脚本……ああ、物語ってことですね!」


 俺の言葉にエルンは少し考えた後、納得したように頷く。それから彼女は紙とペンを取り出してスラスラと文字を書いていく。


「こんな感じの話はどうでしょうか!?」

「どれどれ……なるほど」


 その紙を見てみると、そこには面白そうな話が書かれていた。魔王らしき人が暴れているところに、一人のエルフの少年または少女が正義感で立ち向かうという、王道英雄譚みたいな感じだった。


「いいんじゃないか? もう少し詰めていけば面白くなりそうだぞ」

「本当ですか!? やった、じゃあこれを詰めていきましょう!」


 俺が言うと、エルンは嬉しそうに両手を上げた。それから俺たちは一晩も語り合って、脚本を練っていくのだった。



+++



「これから撮影合宿始めるぞ〜」


 俺は集まったエルフの有志たちとロシュとサーラの前でそう言った。魔王が出るということでマストでロシュたちを呼んでおいた。ちなみにエルンとロシュは大昔に一度会ったことがあったみたいだ。その時はハイエルフと魔王という立場で会っているので、ちゃんと話したことはないらしかったが。


「撮影合宿? なんなのじゃ、それは?」


 不思議そうにしているロシュとサーラ、それに集まった有志のエルフたちにとりあえず映画というものとそのストーリーを説明していく。説明が終わると、ロシュは憤るように駄々捏ねた。


「なんで妾が敵役なんじゃ! かっこいい勇者役がいいのじゃ!」

「ロシュ様、貴女は一応魔王ですよ?」

「嫌じゃ嫌じゃ! そんなかっこ悪いキャラは絶対に嫌なのじゃ!」


 困ったなぁ。駄々捏ねるロシュにエルンも困ったような表情を浮かべていた。どうしようか考えていると、扱いに慣れていそうなサーラが淡々とロシュを説得していった。


「ロシュ様、敵役がかっこ悪いというのは間違いだと思います」

「間違いなのか?」

「はい。勇者よりも敵役の魔王の方がかっこいいのです。一番最後に勇者の前に立ち塞がり、余裕な表情を浮かべて勇者を翻弄する。最終的には負けてしまいますが、一番印象に残るキャラだと思います」


 淡々とサーラに説明されて、ロシュは目を輝き始めた。


「おおっ! た、確かにそれは敵役もかっこいいかもしれないのじゃ!」

「でしょう? ロシュ様、やはり魔王はかっこいいのです」

「全くもってそうなのじゃ! 妾、やっぱり魔王役がやりたいのじゃ!」


 さすがサーラ。ロシュの扱いをよく理解している。簡単に陥没したロシュに周囲のエルフの有志たちは生温かい視線を向けていた。


「ほら、早く撮影をするのじゃ! 妾の活躍しているところを早くみんなのところに届けるのじゃ!」


 しかしその生温かい視線に気が付かず、ロシュは機嫌良さそうに俺たちに向かってそう撮影を急かすのだった。

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