第5話 少女を助けました
「う、う~ん、ここは……?」
回復ポーションを作り少女に飲ませて数十分後、彼女はゆっくりを目を開いた。助けることに必死でよく顔を見ていなかったが、すごく美少女だ。肩あたりで切りそろえられた綺麗な銀髪に青色の瞳。どこかまだあどけなさを残しつつも、大人っぽさがある。俺は一瞬見惚れそうになるが、すぐに我に帰り彼女を寝かしているベッドに近づくと声をかけた。
「大丈夫か? 気分が悪いとかないか?」
「ええと、あなたは……? って、そうだ! バーニング・ドラゴン!」
俺の方を見て不思議そうに首を傾げたと思ったら、バッと起き上がって大声を出した。バーニング・ドラゴン……? もしかして昨日の夜に倒したアイツのことか?
「ドラゴン? ドラゴンがどうしたんだ?」
「あ、いえ、実は迷い込んだ森の中でバーニング・ドラゴンと出会ってしまって……って、この家はどこにあるのですか……?」
「この家は森の中だぞ」
俺が少女の疑問に答えるとギョッとした表情でこちらを向いた。何で驚かれるのかよく分からず、俺は思わず首を傾げてしまった。
「も、森の中ですか……。大丈夫なのですか?」
「大丈夫って何が?」
もしかしてヤバい魔物でもいるのだろうか? だとしたら引っ越した方がいいのだろうか? ちょっと不安になってきたので『全知全能』で軽く調べてみる。
どうやらウィンドウは少女には見えないみたいだ。空中で指を動かしている俺の方を見て不思議そうにしていた。
検索結果によると俺の発動した結界であれば、この森の魔物では絶対に破くことはできないらしい。良かったそこまで強いってことはないらしい。ってことはこの少女は駆け出しの冒険者といったところか。まあ森の中に迷い込んでくるほどだからな。そこまで練達していないのだろう。
「あ、そうそう。君の名前は?」
俺は調べ終わると少女にそう尋ねた。すると彼女は言いにくそうに答える。
「私の名前ですか……。ええと、私の名前は……レイナです」
「ほう、レイナね。俺はタケルって言うんだ。よろしく」
「あっ、はい。タケルさん、よろしくお願いします。……う~ん、私の名前を聞いても驚かない?」
俺が名乗ると少女もといレイナは丁寧に頭を下げた。しっかりした子だなぁ。最後になんて言ったのかうまく聞き取れなかったが、まあ聞き直すほどでもないだろう。
レイナは少し考えた様子だったが、すぐに首を振って気を取り直すと俺にもう一度頭を下げてきた。
「助けていただいてありがとうございます。あなたがいなかったら私はヤバかったと思います」
「まあまあ、気にしなくていいよ。それよりもお腹空いてたりしない?」
俺がそう聞くと同時にレイナのお腹から可愛らしい音が聞こえてきた。おそらく俺の言葉でお腹が空いていることを思い出したのだろう。恥ずかしそうに俯きながら頷いた。
「は、はい……。少しお腹が空いているみたいです」
「そうだよな。ステーキ好き?」
「ステーキですか? もちろん好きですけど……」
俺の問いに不思議そうに頷くレイナ。よし、それなら昨日食べためちゃくちゃ美味しいステーキをご馳走してあげよう。
「それなら今からステーキ焼くから、その間に温泉でも入ってきな」
「温泉? 温泉って何ですか?」
あっ、この世界には温泉って概念がないのか。俺が温泉について説明するとレイナはほおっと感心したような声を出した。
「そんなものがあるのですね。それじゃあお借りしてもいいですか?」
「もちろん、ゆっくり体を休めてくるといいよ」
そしてレイナを温泉に案内すると、俺はキッチンに立ちステーキを焼き始めるのだった。
+++
ステーキを焼き終えると同時にパタパタとレイナがキッチンに駆け込んできた。
「お、温泉ってすごいですね! めちゃくちゃ気持ち良かったです!」
レイナはキラキラした瞳をして興奮した声音でそう言った。良かった、温泉を気に入ってくれたみたいだ。しかし興奮し過ぎているのかタオルを体に巻いているだけだし、綺麗な銀髪もお湯に濡れている。
「気に入ってもらえてこちらとしても嬉しいけど……服はちゃんと着た方がいいぞ」
俺が指摘すると彼女はようやくそれで気がついたのか顔を真っ赤にして自分の体を抱いた。
「あ、あっ、すいません! はしたない姿を!」
そして慌てたように脱衣所に戻っていく。ちゃんと着替えも作っておいたから気に入って貰えるといいんだけど。
しばらく待っているとレイナはまた興奮した表情で戻ってきて言った。
「何ですかこの服は!? めちゃくちゃ動きやすいです!」
いわゆるユニ◯ロなどで使われているようなストレッチ素材を応用して作った服だ。もちろん作り方は全部調べたら出てきた。全知全能様様である。ちなみに見た目は普通のワンピースである。俺にデザインセンスはなかった。
「それは良かった。とと、もうステーキが焼けてるから固くなる前に食べてよ」
俺はそう言いながら彼女をリビングのテーブルに案内した。ソワソワした感じで座っているレイナの前にステーキを出す。
「これは……何のお肉ですか?」
「まあまあ、とりあえず食べてみてよ」
俺の言葉にレイナは頷いて一口食べた。瞬間、カッと目が見開かれて口がワナワナと震え出した。
「こ、このお肉は……」
「おっ、食べたことあるのか」
残念、初見の反応を楽しみたかったのに。しかしレイナは恐る恐るもう一度口に運ぶと、美味しすぎたのか白目を剥いて幸せそうに気を失ってしまうのだった。
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