第4話 川に少女が浮かんでいた

「よ~し、ドラゴン肉の調理をするぞ~」


 俺は全知全能でレシピを表示させながらキッチンに立っていた。今回作るのはただのステーキだが、肉を焼くのはかなりの技術がいる。単純な調理ゆえに奥が深く技術が求められるのだ。


 前世でもそれなりに料理は嗜んでいたが、まあ結局素人の中では上手い方ってだけでプロにはもちろん敵わない。しかしせっかくなのだしプロ級のステーキを作ってみたい。


 そう思って調べて出てきたのが『料理補助』という魔法だ。これも無属性に分類されるらしい。無属性万々歳である。


 ちなみに魔法スキルはレベル10が最大で、レベルが1上がるごとに使える魔法が増えていくという感じになるのだとか。つまり無属性レベル1だと使える魔法が限られ、レベル10になるとようやく全ての無属性魔法が使えるようになる。俺は全属性レベル10だからこの世の全ての魔法が使えるみたいだ。


 若干チートすぎる気もするが、気にしたら負けだ。便利なんだから良いかと割り切って、俺は『料理補助』でドラゴン肉を捌きステーキにしていく。


 体が勝手に動いて自動でステーキが出来上がっていく。だが全部自動なのもつまらないので、俺はその手順を意識して覚えながら工程をこなしていった。


「出来た。めちゃくちゃ美味そう」


 数十分後、目の前にほかほかのステーキが出来上がっていた。今回はソースは作らず塩胡椒で味付けした。塩胡椒は素材変換で手に入れることに成功。


 俺はリビングの広々とした木製のテーブルにステーキを置く。机が広過ぎて何だか寂しい。


「って、お米も作ればよかった」


 素材変換で手に入れられるだろうし。しかし今から素材を手に入れても炊くのに時間がかかるし、その間にステーキが冷めてしまう。仕方がないので今回は諦めることに。


「さて、それでは――いただきます」


 手を合わせてそう言うと、俺はステーキを口に運んだ。味は……牛肉に近いか。極上のサーロインみたいに質のいい肉汁が口の中ではじけ、ほろほろと溶けていく。肉自体の味もしっかりしていて、凝縮された旨味が暴力のように殴りかかってくる。


「う、う、うまぁああああああ!」


 思わず立ち上がって叫んでいた。いつの日か、仕事での功績を讃えられ社長に連れていってもらった超高級鉄板焼き屋の肉よりもよっぽど美味しい。あ、やばい、美味しすぎて涙出てきそう。


「俺はこれのために生きてきたんだな……」


 ペロリとステーキを食べ終えてしまった。もっと食べたいが食べすぎるのも良くなさそうなので、何とか我慢する。うん、これ以上食べたら絶対に中毒になる。


 誘惑を追い払うとシャワーを浴びて寝室に向かう。シャワーを浴びながら露天風呂とか作ってもいいなと思い、『クリエイト・ハウス』のウィンドウを表示させてみると、ちゃんと露天風呂もあった。家の裏手に露天風呂を作り出すと、俺は異様にフカフカのベッドに潜り込み眠りにつくのだった。



+++



「朝だ。うん、夢ではなかったみたいだ」


 目を覚ますと変わらず異世界にいた。転移したのは夢ではなかった。


 俺は早速昨日の夜に作った露天風呂に向かう。せっかくだから朝風呂にしようと思ったのだ。露天風呂は風呂場から直通で行けるようにしておいた。俺は脱衣所で服を脱ぐと露天風呂とご対面した。


「おお~、流石魔法。ちゃんと露天風呂ができてる」


 硫黄の匂いもするし、ちゃんと源流の温泉らしい。恐る恐る足からお湯に浸かる。ちょうどいい温度だ。


「ふい~、気持ちいい。最高かよ」


 肩まで浸かり、思わず息が漏れた。全身の力が抜け、癒されていくのを感じる。新しい世界に来て知らぬ間に肩に力が入っていたみたいだ。


 それからふやふやになるまで温泉に浸かり、少しのぼせながら服を着る。昨日着ていたボロ切れ一枚ではなくドラゴンの皮で作ったちゃんとした洋服だ。洋服というより軽装の防具に近い気もするが。


 ストレージには転生特典の防具も入っていたのだが、とても高価そうな装飾をしていたのでとりあえずまだしまっておくことにした。いざというときに使おう。


 さて、服を着て朝食を作ろうと思ったのだが、何もないことに気がついた。素材変換してもいいのだが、それだけだと味気ないので、俺はいいことを思い出す。


「そういえば近くに川があった気がする。そこで魚でも釣ってこよう」


 それを塩焼きにして食べればちょうどいい朝ごはんになるだろう。そう思い立ち俺は家を出ると川に向かった。大きな川ではなく小川程度の川で、冷気と水の香りが漂ってきて心地いい。釣りをするにはもってこいの環境だった。


「さて、早速釣りを……って、ん?」


 川の脇の岩に腰をかけて早速釣りをしようと思ったら、川に何かがぷかぷかと浮いていた。何だろうと思って目を凝らしてみると――。


「もしかして……人か?」


 俺は川に入ると浮かんでいる人らしきものに近づいた。川の深さは腰くらいまでしかない。


「女の子みたいだな……。何でこんなところで気を失って浮かんでるんだ?」


 そう思いながらさらに近づくと彼女の周りの水に血が混じっていることに気がついた。どうやら負傷しているらしい。


 俺は慌てて彼女を担ぐと急いでログハウスに戻り、手当を始めるのだった。

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